16歳が見せた圧巻の3連続“キャンセル”「変えました」 中3からトップ参加…連覇中の王者に現れた逸材

神戸U-18の里見汰福【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
神戸U-18の里見汰福【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

ヴィッセル神戸U-18 1年MF里見汰福「感覚で2人の間を破りました」

 高校生たちにとって全国大会が終わったこれからが本当の夏を迎える。インターハイ、Jクラブユース選手権。覇権を手にしたチーム、志半ばで敗れたチーム、全国にたどり着けなかったチーム。それぞれの思いを抱えながら、全国各地のフェスティバルや合宿で夏以降の捲土重来を誓う選手たちの思いを描く『真夏の挑戦者』シリーズ。

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 第9回は和倉ユースサッカー大会(以下・和倉ユース)を制したヴィッセル神戸U-18の1年生MF里見汰福について。プレミアリーグWEST前期を首位で折り返したチームにおいて、卓越した技術と高いサッカーIQを持つ16歳の存在は必要不可欠なものとなっている。

 和倉ユース決勝、プレミアEAST前期1位の鹿島アントラーズユースとの激闘を演じる中で迎えた13分、左サイドを鮮やかな切り返しで突破したMF瀬口大翔に対し、斜め中央後方にいた里見はサポートに入った。瀬口が一度切り返してストップした瞬間に、ハーフスペースに飛び込んでパスを要求しようとしたが、大外に左サイドバックの上本佳圭がオーバーラップをしているのを見て、里見は減速し、瀬口がピン留めをした相手DF3枚の背後のスペースにすっと侵入した。

「上本選手はかなりスピードがあるので、瀬口選手を追い越した瞬間に、『マイナスに入ってシュートを狙おう』と思いました」と判断を切り替えた里見は、狙い通りに上本からのマイナスの折り返しをペナルティーエリア内左で受けると、ここから圧巻のプレーを見せた。

 右足で前にボールを置いて、そのまま右足を振り抜こうとした瞬間、対峙したDF2枚がシュートブロックに入った。それを見てキックフェイントに切り替えてDF2枚の体勢を崩すと、左側にもう1枚のDFが寄せてきているのを見て、次のイメージとして持っていた左足シュートもキャンセルして、左足でもう一度中にボールをコントロール。すると、今度は最初にシュートブロックに来た2枚の間を突破して、GKと1対1を冷静に右足でゴール左隅に突き刺した。DF3人を1人で翻弄し、最後は鹿島ユースのGK大下幸誠は一歩も動けなかった。

「最初はワンタッチで打とうとしたのですが、ボールを受けてゴールを見た時に、相手DFが2人とも結構正面に入っていたので、判断を変えました。あとはもう感覚で2人の間を破って、足を振った。うまくいってよかったです」

 もちろん偶発的に出るプレーではない。一連の流れの中で、彼は描いていたイメージから3度もプレーキャンセルをして、最良の選択肢を選び続けてゴールをこじ開けた。情報収集能力・情報処理能力が高いのは当然だが、あの瞬間的な判断とプレー決断が求められる状況で、とっさに出せるのは彼のずば抜けた能力の高さと、日々の努力以外何物でもなかった。

プロ注目の大学生も驚嘆「中3と聞いて驚きました」

 プレーも、頭脳も、落ち着きも1年生とは思えない。現在J1で連覇している神戸のトップチームの練習に、中学3年生で参加。当時、ともに練習参加をしていたあるプロ注目の大学生は「本当に落ち着いていて、冷静にプレーしていて、中3と聞いて驚きました」と舌を巻くほどだった。

 今年2月に中学3年生で2種登録されると、U-18ではボランチ、トップ下のレギュラーに君臨し、プレミアWEST前期で3ゴールをマーク。U-16日本代表として4月にフランス遠征、6月にインターナショナルドリームカップ、7月に中国遠征に帯同し、チーム不在が多い中でのこの数字は立派だ。

 日本クラブユース選手権は怪我をして、3-5で敗れた鹿島ユースとの準々決勝には出場していなかっただけに、「同じ相手に2度も負けるわけにはいかない」と和倉ユースの決勝には並々ならぬ意欲をもって臨んでいた。

 結果は追いつかれてのPK戦勝利となったが、彼の能力が凝縮されたあの1ゴールは、間違いなく大会ベストゴールの1つだった。

「正直、プレミアでも、今大会でも自分の調子がそこまで良いわけではなく、瀬口選手などの3年生を中心とした周りに支えてもらっている印象です。自分がどうこうすると言うより、周りが本当に良いタイミングで動いてくれるので、僕はそこに合わせていると言うイメージです」

 決して不調というわけではない。だが、やはり彼もまだ1年生で、U-18の強度や、代表での度重なる遠征などで、フィジカル的な負担が大きくなっている事実もある。100%のコンディションではない中で、彼は試合を通して自分の能力をチームに還元できるように、ピッチ上で自分の役割や状況、流れを瞬時に把握して、的確な判断をしてプレーをしているとも言える。

「もちろん、僕の中で『まだ1年生だから』という意識は全く持っていません。来季からはU-21リーグもできるので、早い段階でトップに絡んでいけるようにやっていきたいと思っています。守備をきちんとやって、ボールを奪って、周りに配ってからスプリントをして関わって行く。このプレーの質をあげたいし、プレミアでの目標は2桁ゴールなので、後期はもっとフィニッシュに関わって、より怖い選手になっていきたいと思います」

 鹿島ユース戦のゴールはまさにその強い意志の現れだった。もうスーパールーキーではない。1人の選手として、彼は甘えることなく自分を律しながら、その才を磨き続ける。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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