欧州コーチが“現場目線”で絶賛「レベルが違う」…日本人3選手の世界基準「止められない」

欧州コーチが絶賛した3選手【写真:picture alliance/アフロ】
欧州コーチが絶賛した3選手【写真:picture alliance/アフロ】

3000万ユーロの価値…伊藤洋輝に感じた万能性と凄み

 ブンデスリーガの1.FCケルンでトップチームのアナリストを務め、現在は同クラブのU17アシスタントコーチとして活動する平川聖剛氏。世界最高峰の舞台で分析を続けてきたなか、欧州で活躍する日本人選手たちの名前を挙げて、「本当に凄い」「ちょっとレベルが違う」「昨季の活躍には納得」と絶賛する。欧州の日本人選手はヨーロッパの現場でどう評価されているのか。戦術分析の視点から浮かび上がる“真価”に迫る。(取材・文=中野吉之伴/全4回の4回目)

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「2023-24シーズンにブンデスリーガで戦った時の印象だと、伊藤洋輝選手は本当に凄いです」

 そう語るのは、現在ブンデスリーガのケルンでU17アシスタントコーチを務める平川聖剛。2023-24シーズンにはトップチームのアナリストとして帯同し、対戦相手を間近で見て分析していた。そんな平川に、「欧州で活躍する日本人選手で特に印象に残った選手は?」と尋ねた時に返ってきた答えが伊藤だった。

 2024年夏、伊藤は強豪バイエルン・ミュンヘンへ移籍。しかし、プレシーズンマッチで負った足の甲の骨折が完治せず、同箇所を3度骨折する不運に直面した。現在もリハビリ中で、復帰にはまだ時間を要するとクラブは発表している。それまでシュツットガルトで主力として活躍していた伊藤だが、平川が高く評価する理由とは何か。

「まず、あのシーズン(2023-24)のシュツットガルト自体が相当レベル高かったですし、その前年まで在籍していた遠藤航選手も凄かったです。ヘーネス監督のサッカー的な要求もあって、伊藤選手はポジショニングのバリエーションが非常に多い。ボランチの脇にも入れるし、3バックもこなせる。4バックで高い位置を取る頻度は本職のサイドバック(SB)ほどではなかったですが、求められたタスクは遂行していました。オーバーラップやインナーラップのタイミングの取り方も上手い。それに、プレッシャーがかかる状況でも周囲の様子がちゃんと見えているのは凄いです。左SBの位置にいながら、SBだけでなくセンターバック(CB)的なタスクもこなし、時にはボランチのポジションでボールを受ける。そういうことができる選手はそう多くはいません。そして個としての守備能力もきちんと備えている」

 ドイツの強豪バイエルンが3000万ユーロ(当時約51億円)の移籍金を支払ってでも「非常に価値のある選手」として獲得に動いたのには、それだけの理由があるのだ。

ケルンU17アシスタントコーチの平川聖剛【写真:中野吉之伴】
ケルンU17アシスタントコーチの平川聖剛【写真:中野吉之伴】

三笘薫が示す知性と対応力「だからあれだけ活躍できる」

 平川が伊藤に続いて名前を挙げたのは、プレミアリーグ・ブライトン所属の三笘薫だった。

「やっぱり、ちょっとレベルが違うなと思います。あのポジションで、あれだけドリブルで相手をかわして運べるのは本当に凄い。『かわす』といっても、プレミアリーグで相手をしているのはカイル・ウォーカー(当時マンチェスター・シティ)のようなトップレベルの選手たちですから。どのようなDFが相手でも基本的に通用するというのは、誰もができることではありません」

 ブライトンは攻守ともに高度な戦術理解が求められるクラブだ。状況によるタスクやポジションの変化を実行し続けるには、高いフットボールインテリジェンスが欠かせない。

「そうなんです。頭がすごくいいんでしょうね。デ・ゼルビ(元監督)の時も、試合中に周囲の状況や味方SBの特性に応じて、ポジションやタスクを変えていた。その判断を即座に実行できる。守備でもしっかりタスクを果たしながら、外に開いたり中に絞ったり、ボールを受けに下がったり、裏へ抜けたり……それぞれのプレーを高いレベルでこなしていた。だからあれだけ活躍できるんだと思います」

 試合中のタスクバリエーションの豊富さと、そのすべてを高水準でこなすという意味では、フライブルクの堂安律も間違いなくその1人だ。2024-25シーズンはチームの中心として存在感を放ち、クラブをブンデスリーガ5位に導いた。そんな堂安も、実は一昨シーズンには苦しい時期を過ごしていたと、平川は振り返る。

「僕がアナリストとして関わっていた2023-24シーズンは、SB分析を担当していました。試合でうちのSBが1対1で勝てるかどうか、常に頭の中で考えていました。例えば相手がヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)のような選手だと、1対1の状況を作られた時点で、ほぼ詰んでしまう。そうならないように、(堂安のようなアタッカーには)CBが必ずカバーに入るとか、サイドハーフを低い位置まで戻すとか、CBがサイドに流れたスペースを埋めるために逆サイドのハーフを最終ラインまで落として、クロス時に人数不足にならないような設計をするわけです」

対策を要する存在へ…堂安律が見せた進化「1対1で止められない

 脅威となる選手に得意なプレーをさせないための手段を模索する。それがアナリストの仕事だが、ブンデスリーガのトップレベルには1対1、それこそ1対2でも抑えきれない選手が存在する。

「シュツットガルトの(クリス・)フューリッヒや(セール・)ギラシは本当に凄いと思いました。分かっていても止められない。バイエルンだと(ハリー・)ケイン、(レロイ・)サネ、(キングスレイ・)コマン。優勝したレバークーゼンは抜けていましたね。(フロリアン・)ヴィルツと(アレハンドロ・)グリマルドのローテーションや、逆サイドの(ジェレミー・)フリンポンも速いので、もうどうしようとかではない。ただただ怖い。走られたら終わりです。ちょっと毛色は違うのですが、ブレーメンの(ミッチェル・)バイザーも印象に残っています。ドリブルが怖いタイプではないけれど、クロスの精度が素晴らしい。うちのSBには、できるだけ距離を詰めて1対1を作るように指示していました。ドリブルで抜かれてもいいというわけではないですが、『簡単にクロスを上げさせない』を優先するという意識を共有していました」

 では、堂安はそうした“特別な対策を講じるべき選手”と見なされていたのだろうか。

「フライブルク戦の準備で過去数試合を分析していた時、右ウイングバックのロランド・サライとのポジションチェンジや連携が良くて、彼が上がって来た時に堂安選手が中に切れ込む動きや、オーバーラップとのコンビネーションで得点にも絡んでいたので、そこはしっかりケアしようという話はありました。ただ、その(2023-24)シーズンに限って言えば、堂安に対して特別な対策が必要だという意見はスタッフ内では上がってこなかった。コーチ陣も『1対1でも対応できる』という判断でした。でも、昨季(2024-25シーズン)の堂安選手は違いましたね。1対1で止められないシーンも多く、プレーのバリエーションが増して、1対1でもより強くなっていた。だから昨季の活躍には納得です」

 堂安は1つ1つの取り組みを確実に吸収し、それを“こなす”のではなく“武器”に変えている。上下動の頻度、1対1での守備、クロス対応、カットインのタイミング、中央でのボールの引き出し、起点としてのチャンスメイク、逆サイドからの飛び出し――あらゆる面で進化を見せながら、自身の強みをさらに磨き続けている。

 現場で得られる話から、選手たちの背景や成長の軌跡などが浮かび上がってくるのが興味深い。分析とは「今この瞬間」だけを切り取るものではない。取り組みの点と点が、やがて線となり、面となって初めて理解できることも数多く存在するのである。(文中敬称略)

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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