「あの局面では誰にもできない」リバプールの運命を変えた”伝説のゴール” 元主将が語る「歴史的瞬間」

CLオリンピアコス戦でゴールを決めるスティーブン・ジェラード【写真:ロイター/アフロ】
CLオリンピアコス戦でゴールを決めるスティーブン・ジェラード【写真:ロイター/アフロ】

ヒーピア氏がインタビューで語ったジェラード

 サッカーの選手寿命は、他のスポーツに比べても短命と言われるなか、元フィンランド代表DFサミ・ヒーピア氏は10年間というキャリアを、リバプールに捧げた。その長い年月で最終ラインから見守り続けてきたのは、マージーサイド育ちの青年が、やがて世界最高のキャプテンへと成長していった、元イングランド代表MFスティーブン・ジェラードの背中だった。(取材・文=城福達也)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 1999年にリバプールに加入したヒーピア氏は、193cmの屈強な体格を、守備だけでなく攻撃でも遺憾無く発揮した。もちろん、打点の高いヘディングがトレードマークだったが、実際は両足でのゴールも多い。「実は、足元の技術にこそ自信があった。右足も左足も、シュートをたくさん練習した。トレーニングでは、僕が決めたシュートに『おお!』と同僚から歓声が上がったものだよ」と語り、自身のベストゴールには、2005年のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝ユベントス戦で決めた左足のダイレクトボレー弾を挙げた。

「この試合では先発から外れ、1か月前からずっとベンチを温める日々を過ごしていた。チャンスを与えられたらアピールをしなければならなかったが、投入されてから10分後くらいに決めた左足のダイレクトボレー弾が決勝点になって、チームにとっても自分にとっても、重要な分岐点になった。チームメートにはよく言っていたよ、『僕にFWをやらせれば、シーズン15ゴールは堅い』とね(笑)」

 ヒーピア氏がリバプール在籍時に記録した得点数は合計35ゴール。「CBとしてはまずまずの数字じゃないかな」と振り返る。主にセットプレーからの得点だったが、そのうちの大半を演出したキッカーこそ、クラブを象徴する背番号「8」だった。リバプールのキャリアで最も印象的な存在について尋ねると、「スティーブン・ジェラードの他にいないだろう」と即答した。

「彼の右足は黄金だった。2006年にFA杯の決勝で決めたロングシュートも『おいおいマジかよ!』と思ったけれど、最高のゴールと聞かれたら、オリンピアコス戦だろうね。2点差以上で勝利しなければならない条件だったなかで、終了間際、彼から見て左側からバウンドしてきたボールに対し、右足でゴール右へと突き刺した。あれは皆が思うよりもずっと難しいシュートだ。あの局面では誰にもできないだろう。まさに伝説のゴールだと思っている」

 2004-05シーズンのCLグループステージ最終節、本拠地アンフィールドで行われたオリンピアコス戦では、0-1のビハインドから3点を奪わないといけない絶望的な状況だったが、2-1と逆転して迎えた後半アディショナルタイム、難易度の高いダイレクトボレーを劇的な局面で叩き込んでみせた。土壇場で決勝トーナメント進出を掴んだリバプールは、先述したユベントス戦でも勝ち上がり、CL決勝に進出。後に“イスタンブールの奇跡”として語り継がれる優勝を成し遂げる礎となり、文字通り、リバプールの運命を変えた。

 CL制覇を達成したことで、チームの価値は大幅に高まり、以降は名だたるビッグネームが加入してくるようになった。「ジェラードが最も楽しそうだったのは、トーレスがリバプールにやってきた時だったかな」と思い返し「ジェラードにとってキャリアのピークに差し掛かる時に、彼が求めていた生粋のストライカーが移籍してきて、相性抜群のコンビネーションだった。ロマンがあった。あの2人とも、今でもたまに連絡を取るよ」と明かしている。

リバプール元主将のサミ・ヒーピア氏【写真:城福達也】
リバプール元主将のサミ・ヒーピア氏【写真:城福達也】

キャプテンマークを譲る時は「寂しかったよ。けれど…」

 ヒーピア氏は、2003年から2年間にわたって主将を務め、ジェラードにキャプテンマークを譲り渡した前任者でもある。「イングランドでキャプテンマークをつけるというのは、他の国に比べても非常に大きな意味を持つ。生まれも育ちもマージーサイドの青年が、クラブのキャプテンを務めるなら、尚更だ」と語り、当時の心情を口にしている。

「もちろん私もリバプールでキャプテンマークをつけることができて光栄だった。主将を交代することになり、アームバンドをジェラードに渡す時は、本音を言えば、正直少し寂しかったよ。けれど、月日が経つにつれ、世界最高のキャプテンへと成長していったジェラードを見ていると、彼の前任が自分だったことの方が誇らしくなったんだ。歴史的瞬間に立ち会えたのだと思えたからね」

 リバプールでのラストゲームでは、そのジェラードからキャプテンマークを渡された。「彼が僕の腕にキャプテンマークを巻いてくれた瞬間は、これからも輝かしい思い出として残っていく。彼が名高いキャプテンになれたのは、人間性も素晴らしかったからだ」。ヒーピア氏は力強く語った。「選手にとってタイトル獲得の記録は大事さ。でも、もっと大事なのは、色褪せることのない記憶として残り続けることだと思わないかい? スティーブン・ジェラードがそうであるように」。

page1 page2

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング