Jクラブを成長させる“パーセント” 孫請けから脱却へ…逸材を有効活用する戦略

育成と移籍がJリーグの将来を左右する
日本代表DF高井幸大が川崎フロンターレからプレミアリーグのトッテナム・ホットスパーへ移籍した。移籍金は史上最高額の約10億円と言われている。
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U-12から川崎に在籍、2023年にJ1デビューして2024年にベストヤングプレーヤー賞を受賞、パリ五輪を経て、日本代表の主力に駆け上がった。2025年にはACLEの活躍が注目された。そして20歳でスパーズに移籍。高井のキャリアはJリーグにとっても理想的と言える。
毎年、多くの若手選手が海外へ移籍するようになった。ただ、高井のようにいきなり欧州ビッグクラブへ高額移籍というケースは稀だ。多くはベルギー、ポルトガル、オランダなど欧州5大リーグ以外か、イングランドでも2部リーグへの移籍となっている。
選手にとっては欧州でステップアップするための選択として悪くない。世界中で若手選手の映像が入手できるようになっているとはいえ、欧州でプレーしていれば目に留まりやすく、欧州リーグの実績もあるのでオファーが来るチャンスは増す。
ただし、Jリーグにとってはデメリットの方が大きいかもしれない。南米の選手が欧州へ移籍する場合、10億円を超えるケースは珍しくない。一方、日本は1~3億円が相場。契約切れを狙って獲得する欧州クラブも多く、Jクラブとしては戦力を引き抜かれるだけで金銭的なメリットはあまりない。この手の移籍ばかりが増加すると、Jリーグは欧州にとっての安価な人材供給源となってしまうだろう。
実際、ポルトガルやベルギーなどの育成型クラブは若手を安く獲得し、より上位のクラブに売却して利益を得るビジネスモデルが定着している。これらはいわば下請け型のクラブなわけだが、Jリーグはさらに孫請けという位置になりかけているのではないか。
重要なセル・オン条項
Jリーグは収益倍増を目標に掲げているが、そのためのカギになるのは移籍金の獲得だ。欧州は巨額の放映権料が収益の半分を占めているのに対して、Jリーグの放映権収入は全体の10%にも満たない。多くのクラブはスポンサー収益が頼りで、収益を倍増させようとするなら移籍金で儲けるしかないのが現状だと思う。
そのためには孫請けではなく、せめて欧州ビッグクラブの下請けの立場になるのが理想だが、高井のような10代で日本代表クラスはそうそう現れるわけではない。そこで移籍戦略をいくつかのケースに応じて用意しておく必要がある。
まず、高井のように極めて将来性の高い逸材の場合は長期契約を結んで高額の移籍金を狙う。これは南米でよくあるやり方である。2026年からJリーグは従来のABC契約制度を廃止するので、若手の年俸は大幅に引き上げ可能になる見込みだ。
そこまで高額の移籍金をとれない若手選手の場合は、期限付き移籍+買取オプションの条件で欧州下請け型クラブへ移籍させる。つまり後払いの完全移籍だ。欧州クラブ側としては、移籍金の支払いを来季に回せるので当面のFFP(ファイナンシャル・フェアプレー)への対策になる。移籍金の発生しない期限付き移籍だと、選手の立場が不安定になりかねない。移籍金を払って獲得した選手とタダの選手では価値が違うわけで、同じ実力なら移籍金を払った選手を優先するからだ。お試し期間のはずが、試されもせず返却ということになりかねない。買取を前提とすることで育成対象として扱われる。
重要なのはSell-on Clause(セル・オン条項)、つまり再移籍した場合に移籍金の何パーセントかをJクラブが受け取る条項を入れること。通常10~30%に設定されるが、最初の買取金額(移籍金)が少ない場合は高めに設定すればいい。
いずれにしても優秀な人材を安く買い叩かれるのは最悪で、なるべく高く売って利益を育成に再投資するサイクルを確立すること。育成と移籍収益は今後のJクラブにとって生命線。育成クラブとしてのステータスを確立する競争になっていくのではないか。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。




















