2か月で主力4人退団「何も思わなかった」 非常事態も…「緑色の血が流れている」主将のエール

東京Vの森田晃樹【写真:徳原隆元】
東京Vの森田晃樹【写真:徳原隆元】

東京V森田晃樹は今夏退団した4人へどのような思いを抱いたのか

 屈強なセンターバックを皮切りに左右両方でプレーできるウイングバック、昨シーズンに飛躍したストライカー、そして日本代表のホープと2か月あまりの間に東京ヴェルディから4人もの主力が移籍した。J1残留争いに巻き込まれそうな危機で、横浜F・マリノスとの再開初戦前日の8日に25歳になったボランチの森田晃樹は、キャプテンとして退団した4人へどのような思いを抱き、チームを鼓舞するために何をしたのか。(取材・文=藤江直人)

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 今シーズンをともに戦ってきた主力選手たちが、次々と東京ヴェルディを去っていった。6月以降の2か月あまりで退団者が4人を数える非常事態。キャプテンの森田晃樹は、チーム内の雰囲気をこう振り返る。

「チームとしても、少なからず動揺はあったと思っています」

 3バックの真ん中を担ってきた30歳の千田海人が、6月に入って鹿島アントラーズへ移籍した。7月の中断期間中に左右のウイングバックでフル回転してきた30歳の翁長聖がJ2のV・ファーレン長崎へ、8月には昨シーズンに10ゴールを挙げ、今シーズンからは10番を背負う木村勇大が名古屋グランパスへ移籍した。

 さらにJ1リーグ戦が再開される直前の8月6日には、東アジアE-1選手権を制した森保ジャパンに初招集され、中国代表との第2戦で3バックの右センターバックで先発フル出場、ヴェルディの所属選手として実に17年ぶりに代表戦のピッチに立った綱島悠斗が、ベルギー1部のロイヤル・アントワープへ旅立っていった。

 ヴェルディのアカデミー出身で、国士舘大学を経て2023シーズンに当時J2を戦っていたヴェルディへ加入した綱島はクラブを通して発表したコメントのなかで、苦渋の決断だったと明かしながら謝罪している。

「チームの目標より個人の野心を優先させてしまって申し訳ありません」

 森田によれば、綱島をはじめ、千田、翁長、木村からはヴェルディを退団するときに「もちろん(チームへの)感謝の言葉があった」という。そのうえで新天地を求めた4人へ、こんな言葉を送っている。

「選手には個人個人の生き方や人生があるので、そこに干渉しすぎてはいけないというか。僕たちからすれば何も思わなかったというか、みんなには(新しいチームで)頑張ってほしいと素直に思っています」

選手らと話し合いの場を持った

 何も思わなかった、という部分がドライに聞こえるようで、その実は熱いエールが込められている。森田自身も2022シーズンのオフに、他のクラブから獲得オファーを受けて思い悩んでいる。最終的には小学校3年生だった2009シーズンからアカデミーを含めて所属してきた、ヴェルディへの愛を貫く形で残留を決めた。

 直後に城福浩監督からキャプテンへの就任を打診された。シャイで寡黙な性格だと認める森田が答えに悩んだ胸中を、指揮官は「彼のキャラクターからすれば、キャプテンは到底考えられなかったと思う」と慮った。

 最終的にはヴェルディのために、という思いで大役を引き受けた森田は、2023シーズンのJ1昇格、そして昨シーズンのJ1残留を背中で引っ張った。ともに戦ってきた仲間たちへ感謝の思いを抱いているからこそ、4人それぞれが熟慮を重ねた末に下した選択を尊重し、後ろを振り向かせないためにも勝利を追い求めた。

 その意味でも重要な意味をもっていた、9日の横浜F・マリノスとの再開初戦。ヴェルディはどうなってしまうのか。J2へ降格してしまうのではないか。チーム内に漂っていた動揺や不安を振り払うために、副キャプテンを務めるDF谷口栄斗、GKマテウスと話し合いの場を持ったと森田は明かしている。

「選手全員でミーティングを開く、といったことはしていません。ただ、千田海人やヒジくん(翁長)、ツナ(綱島)とリーダーシップを発揮できる選手が抜けてしまったなかで、僕と栄斗(谷口)、マテ(マテウス)の3人がさらにチームの中心となって練習中からやっていけるように意識しよう、という話をしました」

 森田らが意図的に盛り上げ役を担ってきたなかで、チーム内に大きな変化が生じてきた。城福監督が「かなり声が出るようになっている」と目を細めた状況を、森田は次のような言葉で補足している。

「彼らが抜けたあとに、練習の段階から自分たちに声が出ていないと多分みんなも気づいたと思う。そのなかで自発的にそういう雰囲気を作っていこう、という意識をみんなからすごく感じていた」

大一番の横浜FM戦でチームを牽引

 迎えた横浜F・マリノス戦。入念なスカウティングに基づいて森田は攻撃を牽引した。前半だけで12本を獲得したコーナーキック。その大半をショートコーナーで、しかもボールをセットするやいなや味方へパスを託した意味を、キッカーを担う森田は「相手を休ませたくない、という意図もあった」とこう続けている。

「ショートコーナーから3対2にできる回数が、今までの試合で多いというマリノスへのスカウティングがありました。ゴール前に関してマリノスには身長の高い選手がいるのに対して、僕たちはツナをはじめとして高い選手がいなくなった。高さでの勝負ができなかったなかで、チームとしてショートコーナーを狙っていきました。ただ、あれだけチャンスがあったのに決め切れなかったのは、チームとしても個人としても反省点です」

 中盤からボールを前へ運ぶ途中で、森田は何度もF・マリノスの標的になった。ファウルを受けてピッチ上に転がされるたびに苦悶の表情を浮かべ、そしてすぐに立ち上がる。不器用にも映る戦い方にも意味があった。

「内容と結果を伴った試合を常にできるようなチームではないのが、僕たちの現状だと分かっている。そうなったときには命を削るような戦い方で、勝ち点をひとつでも積みあげられるのならいいと僕は思っているので」

 試合は森田と思いを共有してきた谷口が後半17分に決めた、両チームともに無得点の均衡を破る今シーズン初ゴールを守り切ったヴェルディが3試合ぶりの勝利をゲット。FC東京と名古屋グランパスを抜いて14位に浮上したヴェルディは、勝ち点を31に伸ばして13位の清水エスパルスに並んだ。森田が言う。

「順位のところを含めて、ここでマリノスに負けてしまうと勝ち点差もさらに縮まって、チームとしても少なからず焦りというか危機感というのがやはり出てきてしまう。もちろんここでひと安心するわけではないですけど、中断明けで自分たちよりも下の順位のチームにしっかりと勝てたのはすごく大きな価値があると思います」

 主力が大量に移籍したから負けた、と批判される状況は、新天地での戦いに挑むかつての仲間たちへの重荷になる。だからこそ自らを鼓舞し、身体を張った戦いを続けていく覚悟を決めた。チームカラーになぞり、自分の体に「緑色の血が流れている」と自負してきた森田が、ヴェルディを心身両面で牽引していく。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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