リバプール戦で見えた「変えられるもの」 Jリーグと欧州トップの差を埋める“条件”

横浜FMが見せた底力、際立ったリバプールの「速さ」
Jリーグ主催試合として歴代最多の6万7032人が日産スタジアムを埋めた。ざっと見渡すと7~8割が赤、つまりリバプールのファンだった。そのすべてが熱心なファンなのかどうかは分からないが、20分には先日交通事故で亡くなってしまったディオゴ・ジョッタ(背番号20)のチャントが沸き上がっている。正直、こんなにたくさんのリバプールファンが日本にいるとは思っていなかった。
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結果は3-1でリバプール勝利。ただ、プレミアリーグ王者に対して、現在J1下位に低迷している横浜F・マリノスもやられっぱなしというわけではなく、Jリーグの底力は見せられたと思う。そうは言っても差があるのは確か。もっとも大きいのは「速さ」だ。
リバプールはオフシーズン、横浜FMはシーズン最中。コンディションに差がある。にもかかわらず、瞬間的な加速や寄せのスピードなど、速さの差は歴然としていた。この差を埋めるのは容易ではない。なぜなら速さは選手個人の資質によるところが大きいからだ。
例えば、横浜FMのエウベルはスピードで対面の相手を翻弄していた。以前、マンチェスター・シティと対戦した時もそうだった。個人で対抗できる速さを持つ選手はJリーグにもいる。しかし、チーム全体では対抗できていない。
トレーニングで差を埋めるのはまず無理。つまり補強するしかないわけだが、リバプールは年間1000億円以上の収益があるメガクラブ、横浜FMはその10分の1にも届かない。収益の差は補強費の差になり、この格差がある限り、獲得できる選手のクオリティが違うわけで身体能力の差は埋まらない。
サッカーは単純な速さだけが重要ではなく、相対的な速さで身体能力差を補うことは可能かもしれない。相手が止まっている時に動く、動いている時に止まる、そうして相対的に速くすることはできるからだ。ところが、リバプール相手に相対的な速さで優位に立てるチームなど世界中ほぼないと思う。世界的にプレースタイルは集約されつつあり、選手のアスリート化が加速していて、そこでは単純に身体能力がモノを言う。
つまり、現状で10倍もの収益差をできるだけ縮めるしか方法がないのだが、そこを縮めたとしてもなお差が全然埋まらない懸念がある。気候の違いがあるからだ。
本気で世界トップを目指すなら…我が道を極めるか、環境を変えるか
欧州の高強度に追い付くには、アジアの気候は条件が悪すぎる。補強費用で欧州ビッグクラブを上回るサウジアラビア勢は低強度の省エネサッカーしかできていない。気温が高すぎるからだ。高湿度のJリーグも中強度にとどまっている。
この気候差がある限り、収益差が縮まったとしても強度は追い付けないだろう。解決策は強度に頼らないサッカーで世界の動向から逸脱しても我が道を探求するか、そうでなければ環境を変えるか。
環境は変えられる。空調整備のスタジアムを作れば条件は変わる。カタール・ワールドカップ(W杯)では冷房完備のスタジアムが4つあった。高温と豪雨が不評だったクラブW杯でもメルセデス・ベンツ・スタジアムは全天候型の空調完備で、準々決勝のパリ・サンジェルマン対バイエルン・ミュンヘンはこの大会で例外的な高強度の熱戦になっていた。
スタジアムの空調整備は初期費用だけで数十億円がかかるらしい。カタールW杯では1会場で100億円以上が投じられた。ただ、すっかり東南アジア化したような現在の日本の夏が今後も続き、むしろさらに暑くなるならば、空調スタジアムは不可欠になっていくのではないだろうか。
シーズン移行しても開幕は8月、昨年は10月くらいまで「夏」だった。本気で世界トップを目指すなら、サッカーを変えるか環境を変えるか。収益だけでは追い付けない、違う種類の障壁と向き合う必要がある。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)

西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。





















