日本代表「W杯優勝」の壁 現地熟知の守護神が指摘…「大きく左右する」過酷なリアル

バンクーバー・ホワイトキャップスの高丘陽平【写真:ロイター】
バンクーバー・ホワイトキャップスの高丘陽平【写真:ロイター】

MLSでプレーするGK高丘陽平「やはりキャンプ地選定が重要」

 日本代表が掲げる「2026年北中米ワールドカップ(W杯)優勝」という目標。その実現には、戦術や選手層に加え、過酷な開催環境(アメリカ、カナダ、メキシコ)への適応力も問われる。MLS(メジャーリーグ・サッカー)での日々を通して地理・気候・移動事情を熟知しているバンクーバー・ホワイトキャップスのGK高丘陽平は、自らの経験を踏まえ「キャンプ地選び」「気候差への備え」の重要性に言及。現地を知る現役日本人選手の声は、チームにとって貴重な羅針盤となり得る。(取材・文=元川悦子/全8回の8回目)

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 日本代表入りを目指し、2026年北中米W杯の開催地でもあるカナダとアメリカで、2年半にわたって研鑽を積んできた高丘。広大な北米大陸を縦横に移動しながら、ハイパフォーマンスを維持し続けてきた経験は何物にも代えがたい財産となっている。

 森保一監督率いる日本代表も、来年に迫った本大会に向けて準備を本格化させている。2026年W杯では出場国が従来の32から48に拡大され、グループリーグの構成も従来の8組から12組に増加。決勝まで勝ち進んだ場合の試合数も7から8へと増える。改めて「2026年W杯優勝」という目標が、いかに壮大な挑戦であるかが浮き彫りになる。そうしたタフな戦いを制するには、最適な環境整備が不可欠だ。

「この国でプレーしている選手としてポイントを挙げるとしたら、やはりキャンプ地の選定が非常に重要だと思います。日本サッカー協会(JFA)のスタッフが視察に行っているという記事を読みましたが、抽選会が終わってグループリーグの組み合わせが決まった時点ですぐに移動や時差、気候を踏まえてベストな環境を確保することが必要になりますね」

 現地での生活を通じて地理的特性や気候の多様さを肌で感じてきたからこそ、高丘はその重要性を実感している。

「FIFAクラブW杯が開催され、浦和レッズもシアトルで2試合、ロサンゼルスで1試合を戦いましたが、彼らが行っていない地域では雷雨で試合が止まったり、猛暑で選手たちが厳しい状況に直面するなど、いろいろ起きています。そのあたりはしっかりと頭に入れて準備をするべきだと思います」

実体験を踏まえながらシミュレーション「問題は時差調整と暑さ対策」

 高丘が語るように、カナダ・アメリカ・メキシコの3か国をまたぐ広大な開催地域を舞台にした2026年W杯では、移動や環境のハードルが極めて高く、一筋縄ではいかない戦いが待ち受けている。

 例えば、浦和レッズは今大会、試合会場に近いポートランドを拠点にして、時差や移動の負担を最小限に抑える形で大会に臨んだが、日本代表が同様に恵まれた条件を手にできる保証はない。グループリーグの抽選結果次第では、過酷な移動と気候変化に苦しめられる可能性も否定できないのだ。

「まだハッキリしたことは言えませんが、開催国のメキシコ、カナダ、アメリカの組だけはポッドごとに試合会場が決まっているんですよね」

 そう前置きしたうえで、高丘は自身の実体験を踏まえながら、仮定のケースを具体的に説明してくれた。

「仮に日本がポッド2を確保できて、カナダのB組(B2)に入ったとすれば、トロント(2026年6月12日)→ロサンゼルス(18日)→バンクーバー(24日)という移動になります。トロントからロスへの飛行機移動は5時間半で、時差は3時間ありますけど、トロントとバンクーバーは涼しくてプレーしやすい環境だと思います。問題は2戦目のロスに向けての時差調整と暑さ対策でしょうね。夏場のロスは非常に暑いので、カナダとは環境が大きく異なります。そこを上手く乗り切れるかどうかが大会の行方を大きく左右すると言えそうです」

 日本代表は9月に予定されているメキシコ(カリフォルニア州オークランド)およびアメリカ(オハイオ州コロンバス)との2連戦で、W杯本番を見据えたシミュレーションを行う予定だ。しかし、今回の遠征では西部から東部への移動にとどまる。トロントからロサンゼルスへの移動のように、実際の大会で想定される東部から西部への長距離移動は経験しないままに終わる。

 本番前の直前キャンプでその試行ができれば理想だが、仮にグループリーグの試合会場がアメリカのD組・第2ポッド(D2)となり、ロサンゼルスとサンフランシスコで2試合を戦う形になれば、わざわざ大規模な移動を伴うテストマッチを組むとは考えにくい。その場合、ノックアウトステージで待ち受ける過酷な移動条件への備えが不十分になる懸念もある。

タフさを増している日本代表の面々「その経験値もプラスに働く」

 いずれにしても、北中米3か国の地理的・気候的条件を熟知した人物が日本代表スタッフにいない現状は、懸念材料にほかならない。MLSで多くの選手がプレーするアメリカ代表やカナダ代表、さらにはメキシコ代表、あるいはブラジル代表やアルゼンチン代表といった南米勢のほうが、適応という点でアドバンテージを持っているのは明らかだ。

「次のW杯を戦い抜くためには、本当にいろんな準備が必要だと思います。今の日本代表はほぼ全員が欧州組。彼らは欧州でリーグ戦を戦った直後に日本やアジアの国々に移動し、重圧のかかる状況下で最終予選や親善試合を戦ってきた経験があるので、類まれなタフさを身に付けているはずです。欧州内で国内リーグやUEFAの大会を掛け持ちしている選手も多いので、その経験値もプラスに働く。移動面に関しては、そこまで問題はないのかなと個人的には感じます」

 一方で、試合会場での対応力も鍵を握ると高丘は強調する。

「以前、『Jリーグ時代よりもチェックポイントを多くしている』という話をしましたけど、単に移動や時差・気候だけでなく、スタジアムのピッチ状態やスタンドの雰囲気、全体の見え方なども違ってくるので適応力は求められますね」

 MLS屈指の守護神が語るように、北中米W杯を乗り越えるうえで最も重要なのは「適応力」かもしれない。日本代表チームとしても、高丘陽平をはじめ、現地を知る久保裕也(シンシナティ)、吉田麻也、山根視来(ロサンゼルス・ギャラクシー)といった面々の知見を最大限に活かしながら、大会での成功に向けて準備を進めていくべきだろう。高丘自身もキーパーソンの1人になりそうだ。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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