Jリーグの「誤審」はなぜ起きた? VAR導入3つの壁…「モヤモヤ」解消の現実解

VAR導入に伴う3つの問題とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
VAR導入に伴う3つの問題とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

正しい判定に必要なテクノロジー、VAR導入に3つの問題

 J3リーグ第21節、栃木SC vs SC相模原の一戦で誤審があった。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 スコアが1-1で迎えた後半アディショナルタイム、ゴール左から加藤拓己が折り返したボールを常田克人が蹴り込み、相模原が劇的な勝利を収める。だが、配信された動画では加藤が折り返す前にボールはゴールラインを割っており、本来ならゴールキックと判定されるべき場面だった。

 なぜこの誤審が生まれたか。現地で見ていた人の証言を集めると、どうやら副審は右足がゴールラインにかかるところまでは行っていたようだ。だが、ゴールラインをまたいで高木彰人が倒れており、さらに折り返す前にはGKもゴールライン付近を移動していて副審が見にくかったのは間違いない。

 一方で、もしも副審がゴールラインをまたぐところまで走っていれば、ボールがラインを越えたことが分かった可能性はある。これは副審の通常の動きではないが、もし似たような経験があれば、あるいはこのような事象の対処法が共有されていれば防げた可能性はあったかもしれない。

 いずれにせよ、このようなまれなケースで正しい判定を下すためには、テクノロジーの助けを借りるしかない。現状ではゴールラインテクノロジー(GLT)かビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)ということになる。

 だがGLTはJ1でも導入されていない。ゴールを割ったかどうかはGLTが最も正しく判定できるが、GLT導入にはVAR導入とは別のコストがかかる。そのため日本ではVARで代用することになっている。

 またVARは導入のために3つの問題がある。1つ目はコスト。VAR導入が検討された当初、1試合あたりのコストが約100万円とされていた。

 2つ目は人材。現在、Jリーグを担当するレフェリーは主審と副審で合計153人。VARが導入されると1節あたりJ1からJ3まで合計で180人が必要となる。つまり最低でも残り27人育成しなければいけない。今年新たに登録されたレフェリーは13人だったことを考えると、人材を育てるにはあと数年必要となる。

VARが導入されても判定に疑問が残る事例も

 3つ目はスタジアム。VARの機械を設置するためにはスタジアムの構造が対応していなければいけない。スタジアムは自治体が保有していることが多いため、調整には時間がかかるだろう。

 さらに、J1でVARが導入されたと言っても、トップレベルのVARではない。例えば、オフサイドの判定は3Dタイプではなく2Dタイプ。半自動オフサイド判定も未導入。そして前述のとおり、GLTも導入されていない。2022年カタール・ワールドカップ(W杯)ではアシスタントVARを2人配置していたことを考えても、とことん正確に判定するためにはまだまだJリーグではやるべきことが多いのだ。

 一方、VARが導入されても判定に疑問が残る事例もあり、同じ週に起きた。J1リーグ第24節、東京ヴェルディ vs FC町田ゼルビアの一戦で、反則の可能性があったものの笛が吹かれなかった場面があった。

 CKからの競り合いのなかで、町田のFWオ・セフンが東京VのDF谷口栄斗を蹴ったように見える場面があった。しかし、レフェリーはこのプレーに対してなんの判定も下さなかった。相手を意図的にキックしているようにも見えるため退場の可能性があり、VARが介入してもいいシーンだったのではないだろうか。

 一般的に、CKでは主審やVARの注目はゴール前に集中するのが普通だ。この場面では、町田のDF岡村大八と東京VのGKマテウスが接触し、岡村が倒れていたためそちらを主に確認していたはずだ。

 山本雄大主審はプレー再開前にオ・セフン、谷口と会話をしているから、オ・セフンのプレーに対して判断を下していたと思われる。VARも含めて、それほどひどい接触ではなかったという認識だったのかもしれない。だが、「相手を蹴った」というプレーは一度確認してもいい事象だった。そのうえで「ノーファウル」になっていれば納得感があったのではないだろうか。

 もっとも、CKやFKなどで各選手がどんなプレーをしていたかすべてを確認すると、セットプレーのたびに常に時間がかかる状況になってしまう。それは避けなければならないだろう。

「モヤモヤ」を理解して楽しむスポーツの本質

 こうして考えると、VARの有無にかかわらず、サッカーは常に正しい判定が行われるとは限らないスポーツであり、それはほかのスポーツにも共通する。残念ながら誤審は今後もなくならないだろう。

 特にサッカーでは「主審がどう見たか」という基準で判断される場面が多い。したがって、自分の考えと違うという「モヤモヤ」が残る余地は大きい。それを理解して楽しむスポーツだと言える。

 それでも、誤審や見逃しが生まれた時、そしてそれが試合後に判明した時にどう対処するかで、「モヤモヤ」が少しでも解消される可能性はある。ゴールなどに関する判定は試合が成立したあとに変更はできない。だが反則などは、例えば人物の間違いに関して過去にも訂正されることがあった。そこからさらに踏み込んで、試合後でも映像で確認できれば反則の処分などを考えていいかもしれない。

 Jリーグでは今、さまざまな改革が行われている。現在の話し合いの議題に、試合後に映像などで反則が確認された場合はどう対応するのか、というのもぜひ含めてほしいものだ。

page1 page2

森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング