噂で聞いた「ものすごい選手」 29歳日本人が認める才能…若手への本音とW杯への執念

「W杯に参戦したい」GK高丘陽平が抱く日本代表への思い
2026年北中米ワールドカップ(W杯)出場を目指し、MLS(メジャーリーグ・サッカー)のバンクーバー・ホワイトキャップスで挑戦を続けるGK高丘陽平。成長著しい若手たちに敬意を払いながらも危機感を募らせ、「自分が代表に食い込んでいこうと思うなら、GKとしての完成度を引き上げるしかない」と自らに言い聞かせるように語る。日々の研鑽を怠らず、代表入りのチャンスを窺う29歳。静かな闘志に満ちたその言葉の数々から現在地に迫る。(取材・文=元川悦子/全8回の4回目)
【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!
◇ ◇ ◇
「日本代表として2026年北中米W杯に参戦したい。そのためにMLSに赴いた」と語る高丘にとって、森保一監督率いる日本代表の動向は大きな関心事に他ならないだろう。
「代表の試合は常に見ています」と本人も話すように、2022年カタールW杯以降、GKの編成は大きく変化している。3年前の大舞台では、川島永嗣(ジュビロ磐田)、権田修一(ハンガリー1部・デブレツェニ)、シュミット・ダニエル(名古屋グランパス)の3人がメンバー入り。大会後、川島は代表に1つの区切りをつけ、権田は招集外に。シュミットは2023年9月のドイツ戦、トルコ戦までは継続的に選ばれていたものの、当時所属していたシント=トロイデンで構想外となって以降は代表から遠ざかっている。
そして2024年からは、若き才能たちが台頭。筆頭格はパルマでプレーする鈴木彩艶で、大迫敬介(サンフレッチェ広島)や谷晃生(FC町田ゼルビア)も継続的に招集されている。さらに7月のE-1選手権では、早川友基(鹿島アントラーズ)やピサノ・アレックス幸冬堀尾(名古屋)といった新顔にもチャンスが与えられた。
「今、日本代表は2026年W杯優勝を目指しているグループなので、そういう高い基準のところに入るために僕は海外に出ました。もちろんライバルである選手たちも素晴らしいですし、リスペクトはありますけど、自分もそこで力を発揮できる自信がある。ただ、そうは思っていても、自分から参加できる場所ではない。だからこそ、目に見える活躍をし続けて、あとは判断を任せるしかないというのが率直な思いです」
注視していた存在「浦和のユースに物凄い選手がいるという噂を…」
特に注視しているのが鈴木の存在だ。
「今、競争をリードしている鈴木彩艶選手はプロデビューする前から『浦和のユースに物凄い選手がいる』という噂を聞いていました。レッズでは西川周作選手の存在があって、出られない時期も経験しましたけど、2023年夏の欧州移籍以降は順調なステップを踏んでいますし、今は世界有数のGKの仲間入りを果たしていると言ってもいいほど。若い世代の中ではトップクラスの評価を受けていて、同じ日本人として大きな刺激をもらっています」
鈴木がプレーするイタリアは、世界屈指のGK育成文化を持つ国。そのなかで実力を示している点にも高丘は敬意を払う。
「しかも、イタリアという確固たるGKの文化がある国で地位を確立し、素晴らしいプレーをしている。そういうところに彼だけじゃなく、他のGKもどんどん食い込んでいかないといけないですね」
実際、鈴木と同じパリ五輪世代の小久保玲央ブライアンはベルギー1部シント=トロイデンで定位置を確保し、野澤大志ブランドンもFC東京から同国1部アントワープへ完全移籍を果たした。20代前半の若きGKが次々と海外から求められる時代の変化に驚きつつも危機感を募らせる高丘は、自らも歩みを止めず、さらなる高みを目指し続けている。
「野澤選手のベルギー行きは非常にいいチャレンジだと思いますし、22歳で海外クラブから移籍金を払ってもらって獲得してもらえるのが純粋にうらやましいこと。それだけの期待値があるわけで、環境の変化も感じます。僕の22歳の頃を思い返してみると、サガン鳥栖で権田さんの控えでしたからね(笑)。様々な国際経験値が日本サッカー界に還元される時代になったのだと思います」
競争が激しさを増すなか、高丘は代表入りの可能性を追い求めている。
「自分が代表に食い込んでいこうと思うなら、GKとしての完成度を引き上げることしかないですね。僕は身長183センチとGKの中では小柄な方。今から5センチ、10センチ伸ばせるわけではありません。そこは変えられないので、『穴のない選手』にならないといけない。シュートを止めることもそうですし、クロス対応、足元のプレー、コミュニケーションと現代GKに求められる能力は数多くあるので、それを1つ1つ伸ばし、正五角形に近づけていくこと。それがすべてですね」

日本代表入りへ…目指すは「足りないところがない状態」
確かにすべての能力が高水準で安定していれば、監督は安心して起用できる。サッカー選手には指揮官交代や移籍が付きものだが、どんなチーム、どんな戦術でもフィットする選手は常に重用される存在だ。高丘は、そうした「突き抜けた存在」になることを目指し、日々努力を積み重ねている。その真摯な姿勢と向上心の高さは、今の日本代表に名を連ねる選手たちにも劣っていない。
「MLSで見ていても、高さがあってシュートストップは優れているけど、足元の技術が今ひとつだったり、逆もあったり個性はまちまちだなと感じます。その特性によって使われたり、使われなかったりするのがサッカー選手。僕自身もそこはよく分かります。ただ、本当に優れた選手は誰にでも重用されますし、環境が変わっても周りから信頼される。どんなチームでも試合に出られると思うんです。自分はまだ代表入りしたことがないので、森保監督や下田崇GKコーチの求める基準というのを具体的には認識していませんが、今、考えているように全て能力を伸ばして、足りないところがない状態にしていけば、いつかはチャンスが巡ってくると信じています」
ここまで冷静に自分自身を客観視できるGKはそう多くない。その落ち着きは20代前半の若い選手には、なかなか出せないものだ。今の日本代表グループに入れば、周りをサポートしながら、自身の力も発揮する環境を作れるはず。その日が早く訪れることを願いたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。





















