J1残留争いは「8チームに絞られた」 苦しい下位3チーム…名門に求められる過酷な「1.8」

降格圏に沈む3チームはここから巻き返すことができるか【写真:徳原隆元】
降格圏に沈む3チームはここから巻き返すことができるか【写真:徳原隆元】

残留に必要なラインは勝ち点45

 2025シーズンのJ1リーグも残り15試合となった。E-1選手権が明けた週末にリーグ戦は再開するが、残留争いはほぼ8チームに絞られてきたと言える。11位のファジアーノ岡山と12位のアビスパ福岡は現在の勝ち点が30で、まだ安泰とは言えない。残留ラインは40を少し越えたぐらいと見るが、勝ち点45を残留ラインとした場合、岡山は15試合で勝ち点15、1試合消化が少ない福岡は16試合で15を獲得すればよく、よほどペースダウンしない限りは到達できるだろう。

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 13位の名古屋グランパスと14位の東京ヴェルディは勝ち点28で、勝ち点45には15試合で16が必要になる。これまでのペースを持続すれば勝ち点が46になるが、ここから連敗などがあれば、一気に危険水域に沈むリスクもある。夏場に反転攻勢をかけたかった名古屋だが、新外国人のレレが“1シーズンに2チームまでしか公式戦に出られない”というFIFAのルールに抵触することが判明。レレはブラジルの州選手権と全国選手権を異なるチームでプレーしていたが、名古屋としては州選手権がFIFAの公式戦に該当しないという見解だったようだ。しかし、FIFAによると州選手権はFIFAの公式戦という回答だったという。

 第22節のサンフレッチェ広島戦ではマテウス・カストロが完全復活を印象付ける2ゴールで勝利したが、続く東京ヴェルディ戦は攻撃が沈黙。マテウスも右足首の負傷で交代を強いられ、早期の復帰が不透明な状況だ。E-1の日本代表に選ばれたピサノ・アレックス幸冬堀尾のビッグセーブなど、守備の踏ん張りでスコアレスドローとなったが、このままレレを公式戦に登録できないとなれば、さらなる補強など、別の形でテコ入れしていくしかない。ただ、戦力面で見ると下位では頭ひとつ抜けており、攻守の要である日本代表MF稲垣祥がシーズンを通して健在であれば、ここから降格圏まで沈み込むことは考えにくい。

 昨シーズン6位のヴェルディも、得点力に関しては名古屋より深刻で、23試合で15得点は18位の横浜FCに次いで少ない。しかしながら城福浩監督が植え付けるタイトな守備は持続力があり、5バックをベースにしているため、体力的な消耗の激しい夏場にも大崩れはしないだろう。課題はここ5試合で2得点という得点力だ。スコアレスドローに終わった名古屋戦のように、勝ち点3でもおかしくない内容で、勝ち点1しか取れない試合が続くようだと、降格圏のチームが連勝した場合に差が詰まってきてもおかしくない。城福監督は大卒ルーキーのMF新井悠太を1トップで起用するなど苦心しているが、攻撃のオプションに解決策を見出すのか、システムチェンジなどの改革に乗り出すのか気になるところだ。

 そのヴェルディよりも下降線にあるのが清水エスパルスだ。前半戦は健闘が目立ったが、ここ5試合で2分3敗と急ブレーキ。降格圏の影もちらついてきている。この間だけで10失点と守備が崩れてきており、秋葉忠宏監督の真骨頂である守備のハードワークが、なかなか効かない夏場の戦いに向けて不安がある。攻撃では秋葉監督が頼りにしてきた北川航也、乾貴士、松崎快のトリオが揃って得点できていない。藤枝MYFCからレンタルバックしてきたFW千葉寛汰やE-1選手権でA代表に初招集された宇野禅斗、18歳のドリブラー西原源樹など、若手の雰囲気がチームの活性化につながることは間違いないだろう。ただ、もし秋葉監督の打ち出すものが「もう一度ハードワークを思い出す」だけだと、ここからの戦いは危受くなる。

 FC東京は松橋力蔵監督が1年目ということもあり、戦術的なベースは組み上がっているとは言い難いが、第22節に横浜FCから久々の逆転勝利をあげるなど、現在のチームの流れとしてはそれほど悪くはない。ただ、安定感に大きな課題を抱えており、まだ湘南、名古屋、東京V、横浜FM、新潟との直接対決を残していることも、残留に太鼓判を押せない理由だ。新加入の長倉幹樹が良い刺激材になり、佐藤恵允らにも相乗効果になることが期待されるが、戦力的なポテンシャルを考えると、試合ごとに安定性を欠く現状は寂しいものがある。それでも下位のチーム状態と比較すると、降格圏まで落ちるリスクは高くないと見る。

横浜FMがダービーを制して勝点1差に迫った【写真:徳原隆元】
横浜FMがダービーを制して勝点1差に迫った【写真:徳原隆元】

横浜FMはダービーに勝利し、視界が開けた

 17位の湘南ベルマーレは開幕3連勝で注目を浴びたが、その貯金は中盤戦の成績不振で、ほぼ食い尽くしてしまった。トランジションの早さを生かす攻撃と守備はリズムが一本調子になりやすく、相手にハメられた状態でそのまま対策返しをするでもなく、デュエルの勝敗に頼ってしまう傾向がある。もちろん、その中で湘南側が優位に立ってチャンスを作れるシーンもあるが、トータルすると勝ち点3に繋がらないことが多い。それに加えて福田翔生、畑大雅、6月に日本代表デビューした鈴木淳之介という、左サイドの主力3人が欧州移籍で抜けることは間違いなく大打撃だ。

 それでも怪我で今シーズンの選手登録が抹消されたGK上福元直人に代わり、横浜FMからポープ・ウィリアム、浦和レッズから吉田舜が新たな守護神候補として加入。FWでは残留争いのライバルである新潟から太田修介を引き抜くなど、効果的な補強をしている。小野瀬康介や平岡大陽といったパスの出し手はいるので、太田や浦和から育成型期限付き移籍してきた二田理央がうまくフィットして、得点力を前半戦より上乗せすることができれば十分に残留は果たせるだろう。天皇杯とルヴァン杯を揃って勝ち上がっていることもタイトルを目指せるテンションなど、前向きに考えたい。

 18位の横浜FCと19位の新潟は、残留圏内17位の湘南との勝ち点差が4。横浜ダービーを1-0で制した最下位の横浜FMも湘南に勝ち点差5と迫ってきた。湘南はFIFAクラブワールドカップに出場した浦和との未消化分の試合を残しており、その結果によって降格圏の3チームとの差も変わってくる。横浜FCはやはりダービーに敗れてしまったことが痛く、リーグ戦は現在5連敗だ。その一方でルヴァン杯はプレーオフラウンドでセレッソ大阪に競り勝ち、プライムステージの準々決勝に進出。天皇杯も3回戦に勝ち上がっており、湘南と同じくリーグ戦とカップ戦を並行して戦う状況が、残留争いにどう影響してくるか。J2山形から加入のMF高江麗央が、早期フィットすれば残留の大きな力になりそうだ。

 新潟は樹森大介前監督が解任され、コーチから昇格する形で入江徹監督が率いているが、そこから3連敗(前体制から4連敗)とトンネルから抜け出せていない。さらに、6月の特別登録期間で柏レイソルに移籍した小見洋太に続き、最終ラインの要だった稲村隼翔がスコットランドの名門セルティックに、宮本英治がファジアーノ岡山、そして太田が残留ライバルの湘南に移籍するという衝撃的なニュースが続いた。寺川能人強化部長によると、夏の補強は鋭意進めているというが、早期にフィットするかどうかも含めて厳しい状況にあることは変わらない。守備の再整備を目指したはずの入江監督だが、就任3試合9失点と良い結果が出ていないところから、どう巻き返していくか。

 横浜FMは前節の横浜ダービーに勝利したことで、少し視界が開けてきた。シーズン3人目となる大島秀夫監督のもと、再びブラジル人トリオを前線に起用するなど、原点回帰で戦い、湘南に1-1の引き分け、横浜FCに1-0勝利と少し軌道を上にすることができた。しかし、遠野大弥の長期離脱に加えて、その横浜ダービーで決勝ゴールを記録したアンデルソン・ロペスが海外移籍のためチームを離れた。J2のいわきFCで8得点をあげている谷村海那がうまく馴染めれば大きな戦力になりうるが、現有戦力の奮起も含めて、逆転残留への起爆剤が欲しい。

 残留ラインを勝ち点45とした場合、ここまで18の横浜FMが必要な勝ち点は15試合で27となる。1試合ごとの勝ち点に換算すると1.8で、これは現在3位の京都サンガの勝ち点ペースとほぼ一致する。マリノスの本来のポテンシャルを考えれば決して不可能な数字ではないが、現実的には残留ラインがもう少し下がってこないと、立場的にはかなり苦しい。勝ち点19の横浜FCと新潟も状況は大きく変わらない。降格圏の3チームとしては1つ1つ目の前の試合で勝ち点を積み上げながら、残留圏にいるライバルが足踏みしてくれることも、逆転残留の条件になってきそうだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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