森保監督が視察を重ねた21歳ボランチ 恩師「頑張ってこいよ」…目の前で見せた“6番+8番”の具現化

代表に初招集された清水の宇野禅斗
EAFF E-1サッカー選手権に臨む森保ジャパンに名を連ね、念願の日本代表へ初めて招集されてから2日後の5日に行われたJ1リーグ第23節で、清水エスパルスのボランチ宇野禅斗は運命に導かれた再会を果たした。昨年7月まで所属した古巣のFC町田ゼルビアのファン・サポーターから拍手と歓声を、町田だけでなく青森山田高校でも指導を受けた黒田剛監督からエールを受けた21歳が、胸中に抱いた思いに迫った。(取材・文=藤江直人)
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スタジアムの雰囲気が変わった意味を、清水エスパルスの宇野禅斗は感謝の思いを抱きながら噛みしめた。敵地・町田GIONスタジアムに乗り込んだ5日のJリーグ第23節。キックオフ前のウォーミングアップ中に、先発メンバーが発表されたときだった。清水のボランチとして宇野の名前が場内に響くと、スタンドを埋めた町田のファン・サポーターから拍手が降り注ぎ、そして歓声が響いてきた。そこには2つの意味が込められていた。
1つは昨夏まで町田に所属した、宇野の凱旋に対する祝福だった。最後に町田GIONスタジアムのピッチに立ったのは、昨年6月1日のアルビレックス新潟戦。町田が1-3で完敗した一戦で、宇野はリザーブのまま試合終了を告げるホイッスルを聞いた。清水への育成型期限付き移籍が決まったのは7月19日だった。
新天地ですぐにボランチに定着した宇野は、2シーズンぶりのJ1昇格に貢献。オフには完全移籍へ切り替えた今シーズンは、町田に所属していた昨シーズンの前半戦で出場わずか4試合、プレータイムが251分にとどまっていたJ1リーグの舞台で、怪我で欠場した京都サンガF.C.との第6節を除くリーグ戦21試合すべてで先発。プレータイムが1675分を数える、清水に欠かせない主力ボランチとして帰ってきた宇野が言う。
「移籍して約1年がたちましたけど、古巣のスタジアムで試合に出られたのがまずうれしいですし、こうして拍手で迎え入れてくれるのは選手として本当にうれしいし、心から感謝したいと思いました」
対戦相手サポーターも代表選出を祝福
拍手と歓声に込められたもう1つの意味は、試合2日前の7月3日に決まった日本代表への初招集に対する祝福となる。EAFF E-1選手権には町田からも相馬勇輝、西村拓真(7日に脳震とうで辞退)、望月ヘンリー海輝が招集されたが、スタジアムDJからは3人に加えて宇野の名前も呼ばれ、再び拍手が起こっていた。
清水から日本代表選手が輩出されるのは、GK権田修一が選出された2022年のワールドカップ・カタール大会以来となる。国内組だけの陣容とはいえ、2022年7月に日本で開催された前回のE-1選手権には、清水の所属選手は招集されていなかった。日本代表、という肩書きがもつ重さを、宇野は改めて実感した。
「自分はそういうもの(日本代表への初招集)をあまり考えていなかったけど、確かに見ている人はそのようにとらえてくれるものなのかな、と。そう言われてみると、確かに(招集されて)良かったと思っています」
日本を率いる森保一監督は今シーズン、清水を視察するために幾度となく試合会場へ足を運んでいた。お目当ての選手は言うまでもなく宇野。今月3日の代表メンバー発表会見で、指揮官は次のように言及している。
「清水ではダブルボランチの一人として6番でも8番でもプレーできて、攻撃的にも守備的にもプレーできるうえに、一緒に組む選手との兼ね合いで臨機応変に、中盤で攻守両面に関われる。そこでより運動量多く、中盤でのボール奪取能力を活かしながら前線のチャンスに絡んでいくところを、代表チームでも活かしてもらいたい」
古巣の町田戦で好プレーを披露
町田戦の前半開始早々の6分。磨き上げてきた自身のストロングポイントを宇野がいきなり発揮した。
右サイドから清水の蓮川壮大が上げたクロスを、キャプテンの北川航也と町田の菊池流帆がゴール前で競り合う。こぼれ球を拾った町田のキャプテン、昌子源が右斜め前方の西村へパスをつないだ直後だった。
こぼれ球に備えてペナルティーエリア内へ侵入していた宇野が、誰よりも早くプレスバックに転じる。そして西村の眼前で、右足を伸ばしてパスをカット。そのまま左前へと持ち運び、相手が寄せてくる前に迷わずに利き足とは逆の左足を一閃する。強烈なシュートは、惜しくもゴール左のサイドネットの外側に引っかかった。
森保監督が評価した6番(ボランチ)に求められるボール奪取と、8番(インサイドハーフ)の攻撃力とを同時に具現化させた場面。古巣へ見せた成長の跡、といってもいいプレーを宇野はこう振り返った。
「少なからず自分の特徴を表現できたと思っています。ただ、勝利につながっていないので見直さないといけないし、最終的に0点で抑えられ、3失点して完敗したので、もっと反省点をもってやっていかないといけない」
後半20分にカウンターから迎えた同点のチャンス。北川がポストプレーから右サイドへ展開し、松崎快がペナルティーエリア内での切り返しから左足を一閃。岡村大八にブロックされた場面でも、得点の匂いを嗅ぎつけるや、自陣から長い距離をスプリントし、町田ゴール正面まで一気に駆けあがっていたのは宇野だった。
激しいデュエルを厭わないボール奪取。ボックス・トゥ・ボックスを何度も往復する運動量。待望のJ1リーグ初ゴールまであと一歩に迫った攻撃力。すべては宇野が追い求めてきたものだった。
黒田剛監督とも再会
清水への完全移籍に移行した昨シーズンのオフ。町田のファン・サポーターへ宇野はこんな言葉を残した。
「僕がこの先どこでプレーしていても、FC町田ゼルビアへ感謝し続ける気持ちは変わることはありません。僕の目指す『相手にとって一番嫌な選手、怖い選手』になった姿を見てもらえるように頑張ります」
激しいプレーの代償と言うべきか。町田時代は左足第五中足骨を2度、右足を1度骨折し、そのたびに長期離脱を強いられた。それでも素直で、なおかつ負けん気の強さを忘れず、最後は自らの意思で清水への完全移籍を選択。J2の舞台からチームとともにはい上がり、森保ジャパン入りを手繰り寄せた軌跡は、歴代の教え子たちのなかから柴崎岳、室屋成に続く3人目のA代表選手が生まれた青森山田高校時代の指揮官をも喜ばせた。
高校時代、そして町田で指導を受けた黒田剛監督から試合後に声をかけられたのか、と問われた宇野は「頑張ってこいよ、と声をかけていただきました」とうれしそうに明かしながら、こんな言葉を紡いでいる。
「エスパルスに来てコンスタントに試合に出させてもらっているのが一番大きいし、エスパルスでの自分のパフォーマンスが評価されたからこそ、こうして(森保監督の)目に留まったところもあると思っています。ただ、まだ呼ばれただけですし、代表で何ができるのかが一番重要だと自分は思っている。個人としてまた違った場所でプレーできるのを喜びに感じながらチームへ飛び込んで、トレーニングから自分らしく戦っていきたい」
年代別の代表にほとんど縁がなかった宇野にとって、今回の代表メンバーで知っているのは、町田時代のチームメイトだった望月だけとなる。それでも、韓国の地でどのような姿を見せるのかはもう決めている。
清水の公式ホームページで、宇野は自分のプレーの特徴を「ボール奪取・運動量」と、好きな海外の選手を「エンゴロ・カンテ」とそれぞれ記している。自らが信じた道をまっすぐに歩んでいると、対戦相手の指揮官として確認できたからこそ、黒田監督も短い言葉に万感の思いを込めた。青森山田高校からプロの世界に飛び込んで4シーズン目。現在進行形で覚醒している宇野が、今度は東アジア勢にとっての脅威になる。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。













