西武台の太田和希「大学に行って修行してからプロのほうが道に合っている」

　インターハイ埼玉県予選決勝、プリンスリーグ関東2部に所属する西武台は、プレミアEASTの昌平に0-1の敗戦を喫し、全国の切符を掴み取ることができなかった。

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　痛恨の決勝弾は昌平の10番で、複数のJクラブが獲得に乗り出しているMF山口豪太。西武台のエースストライカーである太田和希の目には、山口がカットインから得意の左足で描いた放物線が焼き付けられている。

「自分たちが攻めていたなかで、あの1本が出せる凄さが年代別代表だなと感じました。一方で、僕は前半に決めるチャンスがあるのに決めきれず、それが結果に大きな影響を与えてしまった。悔しいけど、認めてやっていくしかないと思いました」

　太田もかなりの実力者だ。中学時代は無名で、県内のクラブチームでプレーをしていたが、クラブユースの県予選において1、2回戦で敗れてしまっていた。それでもずば抜けたスピードを持つ彼のプレーが西武台の関係者の目に留まり、高校でも本格的にサッカーに打ち込む決意につながった。

「中学の同級生でサッカーで高校に行ったのは僕ともう1人の2人だけ。正直、何の実績もない僕が西武台という高いレベルから声がかかったこと自体が驚きでしたし、入ったところで通用するかどうか不安でした」

　最終的にはチャレンジ精神が勝った。1年時は周りとの技術レベルの差に苦しんだというが、「スピードの使い方を徹底的に学びました。緩急をつけていくうちに、徐々に相手を剥がせたり、突破してシュートまで持っていけたりするようになった」とメキメキと頭角を表していくと、最高学年を迎えた今年、ブレイクのときがやってきた。

　新人戦で彼のスピードと緩急、そして高校で鍛え上げられたフィジカルを駆使したドリブル、ラインブレイクは県内のDFを凌駕し、4試合すべてでゴールをマークし、7ゴールと得点王に輝いた。

　プリンス関東2部でも第5節の國學院久我山戦で前半だけでハットトリックを達成すると、インターハイ予選では初戦から準決勝まで3試合連続ゴールをマーク。ゴールハンターとして覚醒のときを迎えていただけに、ライバル・昌平との決勝戦での不発と、相手エースの決勝弾に「自分の不甲斐なさを痛感した」結果となってしまった。

　決勝から1週間経った6月21日。プリンス関東2部第8節、アウェーで首位を走る流通経済大柏Bとの一戦で、彼は再びゴール量産態勢に入った。

　前半19分に右からのクロスに飛び込んで先制点を奪うと、1-1の同点で迎えた後半開始早々にDF遠藤陽が1発レッドで退場。1人少なくなったなかで、常にゴールを狙っていた太田は、後半21分に圧倒的なプレーを放つ。

　ハーフウェーライン左付近でMF栗田駿弥のパスを受けると、ファーストタッチで前に持ち出してドリブルをし始めた。太田の仕掛けに呼応するように右サイドを2人の選手が駆け上がっていく。

「奥の2人から『パス、パス』という声が聞こえていたのですが、ゴールへの道筋がはっきりと見えたので迷いは一切ありませんでした」

　グングン加速していくと、流通経済大柏BのCBメンディーサイモン友が寄せに来るが、「横並びになった瞬間に、打ち抜けると思った」と一瞬スピードを緩めて、相手を構えさせた瞬間に再加速をして縦を打ち破ると、そのままGKとの1対1を右足の強烈な一振りで制し、ゴール右隅に弾丸ライナーを突き刺した。

「1人少なくてもああいうシチュエーションは必ずくると思っていましたし、実際に来たときはもう自信しかなかった」

　見事な「1人高速カウンター」だった。ドリブルのコース、スピードの緩急、爆発力とシュートの正確性。どれもハイレベルだった。

　試合はその後、逆転を許して2-3の敗戦となってしまったが、相手コーチ陣が「あの11番（太田）は凄まじかった」と舌を巻いたように、強烈なインパクトを残した。

「1対1になったら自信しかないんです。緩急のドリブルは僕にとって武器で、相手と横に並んだら、自分の方が速いという自信があるので、一気に縦を行って、縦を切ってきたらカットインを狙うなど、相手の出方を見て変化をさせています。飛び込んでくるタイプや間合いを空けるタイプもいるので、相手がどのタイプか、どこでどう狙っているのかを考えながらやっています」

　物凄い勢いで成長曲線を描く彼に、プロのスカウトも意識を向けるようになったが、彼は「プロも考えたけど、僕は高卒プロで活躍できる選手ではないと思った。大学に行って、そこで修行してからプロのほうが道に合っていると思いました」と大学進学を選択。

　この選択はシンプルに自信がないからではなく、自分の武器に自信があるからこそ、その武器を4年間で徹底的に磨いて、4年後に即戦力としてプロになるための大きなチャレンジだった。

　土台を築いて、夢の世界へ。西武台のエースストライカー・太田和希。その名を覚えておいて損はないだろう。