習志野の中渡瀬統貴「勝てなかったのは県リーグ1部の自分たちとプレミアリーグの差」

　流通経済大柏の優勝で幕を閉じたインターハイ千葉県予選。高円宮杯プレミアリーグEASTで首位を走る全国トップの強豪が順当通り制したという印象を持たれるかもしれないが、「千葉県を突破することがどれだけ大変か痛感をした」と榎本雅大監督が口にしたように、彼らが戦った県予選は苦戦の連続だった。

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　流通経済大柏は初戦の暁星国際に1-0、準々決勝で千葉明徳に2-1、準決勝では習志野に2-1とすべて1点差のゲームを戦い、決勝の日体大柏戦も2-1から終盤に追加点を奪って3-1で勝利する接戦だった。さらに流通経済大柏とともにプレミアEASTを戦う市立船橋が準々決勝で専修大学松戸に2-3で破れる波乱もあった。

　今回は激戦区・千葉を彩った2つのチームのキーマンにスポットライトを当てていきたい。1回目はこの予選で初めて流通経済大柏から先制点を奪った習志野の10番・MF中渡瀬統貴。

「関東大会で優勝をして、僕自身もチームとしても自信が生まれた。ドリブルを得意としているのですが、関東大会を通じて自分のボールタッチの質が確実に良くなっている実感はありました」

　流通経済大柏との準決勝。スタンドには『美爆音』で知られている全国屈指の強豪でもある吹奏楽部が応援に駆けつけ、選手たちを力強くサポートした。アップの段階から「スイッチが入っていました」と集中力を研ぎ澄ませていた中渡瀬は、キックオフのときを迎えても全く動じていなかった。

「最初からどんどん仕掛けようと思っていました」

　この言葉通り、2トップの一角に入った彼はボールを受けると得意の細かいボールタッチのドリブルで仕掛け、チームのベクトルを前に向けた。開始早々の9分、左サイドでボールを持つと、マッチアップしたDF廣瀬煌に対し、ボディーフェイントで揺さぶった後、相手の股下を破って、完全に相手より前に抜け出すと、一気にペナルティーエリア内に侵入。後ろからファールを受けると、主審のホイッスルが鳴り響き、PKを獲得した。

　チームとして試合中のPKキッカーは決まっていなかった。中渡瀬はすぐにこぼれたボールを手にして蹴る意思を示すと、関東大会でPKを蹴った2年生FWウィキンズ真人も蹴る意思を示したが、一切譲らなかった。

「関東大会のPKのときは僕がビビってしまったのと、真人があのときあまり点を取れていなかったので、そこにも配慮をしてしまって、『まあ、いいか』と蹴らなかったんです。でも、それから自分が情けないなというか、10番を背負っているのに甘さがあるなと反省したので、今回は『誰がPKを取っても自分が蹴る』と思っていました」

　エースとしての自覚がPKも成功させ、この予選で初めて流通経済大柏に先制パンチを与えた。その後も中渡瀬は「1点を取ったから守りますではダメだと思った」と、積極的にドリブルを仕掛けた。

　前半アディショナルタイムの1分と4分に立て続けに失点し、前半のうちに試合をひっくり返されてしまったが、これで習志野が折れることは一切なかった。むしろ押し込む展開が続いた。しかし、後半10分に中渡瀬は交代を告げられてベンチに下がった。

「みんなが頑張っているなかで、10番である自分が早い段階でピッチを後にするのは悔しかった。まだまだ甘いんだと痛感させられました」

　交代後も習志野は攻め込んだ。終盤にはCKとロングスローから決定機を作り出すも、流通経済大柏のGK藤田泰土のビッグセーに阻まれ、敗戦のときを迎えた。

「勝てなかったのは県リーグ1部の自分たちと、プレミアリーグの差だと思います。でも、倒せない相手ではない。今回も自信を持って臨めたからこそ、チームに一体感が生まれてこういう戦いができた。冬は相手ももっと強くなると思うので、僕らも負けないように日常から全員で積み重ねていきたいです」

　その目からは強い意志が感じられた。千葉県出身の彼は中学3年生のとき、選手権予選準決勝で習志野と市立船橋が対戦し、0-2で敗れたが善戦を見せていた姿を見て、「ここでサッカーがしたい」と習志野進学を決めた。

「流通経済大柏からも市立船橋からも声がかからなかった立場なので、正直どちらも意識していなかったのですが、習志野で試合に出るようになると『大きな壁』になるじゃないですか。対戦すればするほど、どんどん倒したい気持ちが強くなりました。超えられない壁ではないと感じたからこそ、この夏にどれだけ成長できるかが大事だと思っています」

　ライバルであり、チャレンジャー精神を持ち続けられる存在が人を大きく成長させる。伝統校・習志野の10番はどんなことがあっても壁に挑み続ける。