新戦力躍動で熾烈な競争…森保Jの最強激戦区 伊東&堂安に突き付けられた挑戦状

6月シリーズを受けて激化した森保ジャパンの右WB争い【写真:徳原隆元 & Getty Images】
6月シリーズを受けて激化した森保ジャパンの右WB争い【写真:徳原隆元 & Getty Images】

日本代表の右ウイングバックでアピールが光った平河悠と森下龍矢

 森保一監督の大胆な新戦力起用が印象的だった日本代表の6月シリーズが終了した。

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 6月5日のオーストラリア戦(パース)は終盤のミスが響いて0-1で敗戦。続く同10日のインドネシア戦(吹田)は、キャプテンマークを巻いた久保建英(レアル・ソシエダ)や鎌田大地(クリスタル・パレス)の大活躍で6-0と圧勝した。

 2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選全10試合を見ると、日本代表は7勝2分1敗の勝ち点23。総得点30・総失点3という目覚ましい数字を残している。キャプテン・遠藤航(リバプール)も「そんな簡単な最終予選ではなかったけど、1個1個、しっかり勝っていくっていう積み上げはしっかりやれたと思うし、日本の力を最終的には証明できた最終予選だったのかなと感じます」と前向きにコメントしていた。

 6月の2連戦では、右ウイングバック(WB)を巡る競争が一気に熱を帯びた。オーストラリア戦ではパリ五輪世代の平河悠(ブリストル・シティ)が躍動。右サイドから力強い突破と推進力を見せ、停滞感を打ち破ろうと奮闘した。代表経験の少ない他の面々が普段の力を出し切れずに苦しむなか、平河は「自分の特徴を出せたシーンもありましたし、デビュー戦にはなりましたけど、緊張せずいつもどおりに入れたので、まずまずだったかなと思います」と堂々と語った。記念すべき初キャップで少なからず自信を掴んだ様子だ。

 続くインドネシア戦では、2024年1月のタイ戦(国立)以来の出場だった森下龍矢(レギア・ワルシャワ)が持ち前の攻撃力を強く押し出し、後半早々には町野修斗(キール)からの浮き球の折り返しを仕留めて代表初ゴールをマークし、復帰戦を華々しい形で飾ったのだ。

「今季15得点目(所属クラブで14得点、代表で1得点)を取れて、気持ち良くシーズンを終えられました。ポーランドでもああいう形はありましたし、落ち着いて決められたのかなと。Jリーグにいた時から運動量がある選手だと言われていたけど、どうやってそれを使うのかというところが、海外に行ってから研ぎ澄まされたんじゃないかなと思います」と、森下は武者修行の成果を口にしていた。

主軸の伊東純也と堂安律がどのように進化していくか

 平河はイングランド・チャンピオンシップ(2部)で1年、森下はポーランド・エクストラクラサで1年半プレー。屈強な外国人との駆け引きを学び、タフさを養ってきた。特に森下は今季UEFAカンファレンスリーグ準々決勝で名門・チェルシーと対戦し、第2戦では2-1と勝利(2戦合計2-4でレギア・ワルシャワは敗退)。「憧れから目標に変わった」と語気を強めていた。その確固たる自信は森保ジャパンに呼ばれた2023~24年の年頭頃には感じられなかったもの。やはり欧州でタフな修羅場の経験は、選手をガラリと変えて成長させるのだ。

 こうして新戦力が台頭し、主力の伊東純也(スタッド・ランス)と堂安律(フライブルク)に挑戦状を叩きつける構図となった。インドネシア戦をスタジアムで見守った堂安が、彼らの追い上げをどう受け止めているのかは明らかではないが、常に強気な彼の性格を考えれば、「選手層が厚くなるのはいいことだ」と前向きに捉えていることだろう。

 新たな戦力に刺激を受けて、主軸の2人がここからどのように進化していくかも気になるところ。伊東はスタッド・ランスの2部降格が決定。32歳という年齢と高年俸がネックとも報じられているが、あれだけの実力を備えたタレントが2部に残留する可能性は低いだろう。

 実際、海外メディアでは「名門リヨン移籍の可能性」も報じられており、それだけ伊東の去就は注目されている。よほどの事情がない限り、欧州5大リーグの1部クラブからオファーを受け、そこで新たな地位を築くはずだ。

 一方で堂安も、今夏に移籍する可能性がある。新天地候補はボルシア・ドルトムントかフランクフルトと見られているが、いずれも強豪だ。フランクフルトには、日本代表コーチを兼務する長谷部誠氏がクラブのU-21コーチとして在籍している。さまざまな面でのサポートが受けられるという意味で、より良い環境のようにも映る。ただ、今季ドイツで2桁ゴールをマークした堂安の実力を考えれば、どちらのクラブを選んでも出番が激減するとは思えない。

菅原由勢は戦術に幅を与える貴重な人材、来季のプレー環境が今後に影響

 日本代表における伊東純也と堂安律の存在感は依然として大きく、その地位が簡単に揺らぐことはないだろう。とはいえ、2人が怪我に見舞われたり、新天地で指揮官との関係に齟齬が生じたりすれば、状況は一変する可能性もある。実際、伊東は今季終盤に負傷の影響を受けており、来季もコンディション維持に苦労する可能性は否定できない。そうしたタイミングで、平河や森下、さらに最終予選で3番手と位置づけられていた菅原由勢(サウサンプトン)が好調をキープしていれば、一気に序列を塗り替えるチャンスを掴むかもしれない。追い上げる側としては、まさに狙いたい展開だ。

 その意味で、菅原の動向も見逃せない。今季ついにプレミアリーグ初参戦が叶ったものの、所属クラブは1年でチャンピオンシップ(2部)に降格。色良い移籍先が見つからなければ、来季は平河と同じリーグで戦うことになる。

 攻撃的な右WBとしては、アタッカーが本職の平河にやや分があるかもしれない。一方で、菅原は4バック採用時に右サイドバックを務められる汎用性があり、戦術の多様化を考えると貴重な人材だ。森保監督も2023~24年にかけて彼を重用し、最終予選での献身に感謝していた。それだけに、来季のプレー環境が彼の今後に与える影響は小さくない。

 いずれにしても伊東と堂安に加え、菅原、平河、森下と右WBの人材が分厚くなってきたことは、森保監督にとっても大歓迎の状況だろう。さらに、イングランド・フットボールリーグ1(3部)に降格したルートン・タウンの橋岡大樹、センターバックとの兼務もこなせる関根大輝(スタッド・ランス)も含めれば、今後1年間で激しいポジション争いが待っており、それは日本代表全体のレベルアップにもつながるはずだ。

 現代サッカーにおけるWBは、単にサイドをアップダウンするだけの役割ではない。攻守の切り替えを担うスイッチ役としての重要な役割が求められ、卓越した技術や戦術眼に加え、1対1の局面でも簡単に負けない強さとタフさも不可欠となる。それらを総合的に備えた者だけが、1年後の大舞台に立つ資格を得るのだ。ここから始まる熾烈なサバイバルの行方に注目が集まる。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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