筑波の10番が味わった「地獄のような1年」 挫折乗り越え“ジャイキリ”演出も「まだまだです」

筑波大MF山崎太新「天皇杯への思いも強いです」
大学サッカー界きっての名門・筑波大学が5月25日に行われた天皇杯1回戦で、J2リーグで2位のRB大宮アルディージャと対戦。敵地・NACK5スタジアム大宮に乗り込んで1-0で勝利し、J1・町田ゼルビアに勝利した昨年に続き、2年連続のジャイアントキリングを達成した。
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今回、このジャイアントキリングの裏側をピッチに立った選手の物語とともに紐解いていく。ラストとなる第5回目は4年生MF山崎太新を紹介する。
「昨年は怪我でプレーができないなかで、同期が活躍して評価を上げていく姿を目の当たりにしてきて凄く苦しかったし、もどかしかった。だからこそ、今季に懸ける思いは強いし、天皇杯への思いも強いです」
山崎の天皇杯に対する意気込みは凄まじいものがあった。大宮戦では左サイドハーフとしてスタメン出場。内側に絞ってポゼッションに関わる右サイドハーフの廣井蘭人とバランスを取るように、サイドのレーンで幅を取って起点を作る動きに徹した。右サイドやボランチからの展開を受けてドリブルで縦に仕掛けたり、攻撃から守備に切り替わった瞬間に、ボランチのカバーや左サイドバックが中に絞った時のサイドのカバーをしたりと、守備のサポートにも質の高いプレーを見せた。
「構造的に筑波大は右肩上がりの戦いで、僕がサイドでバランスを取る。チーム戦術としての自分の役割をきちんとこなしながら、攻撃面での自分の良さを発揮するという意識でやっています」
後半42分に太もも裏に違和感を覚えて交代となったが、それまでボールを持ったら縦へ積極的に仕掛けてチームのベクトルを前に向けさせ、守備では的確な縦と横のスライド、プレスでクリーンシートに貢献して見せた。
「去年、町田に勝ったことで、世間から注目が一気に集まりましたし、そのなかで結果を示した同級生の選手が3人(諏訪間幸成→横浜F・マリノス、加藤玄→名古屋グランパス、安藤寿岐→サガン鳥栖)がプロに行った。嬉しかったのですが、正直、出られない自分に複雑な思いがありました」
冒頭の彼の言葉はまさに心の叫びだった。山崎は横浜FCユースでトップ昇格を断って筑波大にやってきた。1年生で出番を掴み、U-19日本代表にも選出された。2年生の時はレギュラーとして君臨するなど、順調に成長を続けてきていた。
しかし、「プロに向けて勝負の1年」と位置付けた昨年は股関節の痛みが生じるグロインペイン症候群に苦しみ、デンソーカップチャレンジ大会前に離脱。天皇杯ではJ1のFC町田ゼルビアを相手に大金星を掴み、続く柏レイソル戦でも延長戦までもつれ込む大熱戦を繰り広げる仲間をスタンドから見守ることしかできなかった。デンソー、天皇杯とアピールの場を失うと、8月に復帰して関東大学リーグ1部に4試合出場するが、痛みが再発して再離脱。そのままシーズンを棒に振る形になってしまった。
「これまでサッカーをやってきたなかで、一番苦しんだ地獄のような1年間でした。でも、そこで自分に目を向け続けて、リハビリやフィジカル強化を意識しました。復帰してチームに貢献できるパフォーマンスができるように自分の体に目を向けながら、活躍する自分をイメージしながらモチベーションを作っていました」
失意の中でも希望の光は見失わなかった。4年生での巻き返しを心に誓って、懸命にリハビリと身体的な進化を求め続けた。怪我も癒え、新チームが立ち上がった時にはキャプテンと横浜FCユース時代に背負っていた10番に立候補。両方背負うこととなった。
「4年生が3人抜けてしまって、1、3年生が主体のチームの中で1年から出ている僕がピッチ内外で一番やらないといけない。パフォーマンス、言動、姿勢でチームを牽引したいと強く思いました」
天皇杯のピッチに立ち、攻守においてチームを牽引して2年連続のJクラブ撃破を成し遂げた。もちろん、これで満足することは到底ない。
「まだまだです。ここからです。(次の相手のV・ファーレン)長崎は大宮に勝ったことで、気を引き締めてくると思うので、僕らはそれ以上のものを出していかないと勝てない。大宮戦以上にいい準備をして総力戦で臨みたいと思います」
フィジカル的にも精神的にも逞しくなった名門の背番号10は、2試合連続の金星と自分の未来を掴み取るべく、チームを鼓舞しながら決戦に向かって力強く走り出している。
(FOOTBALL ZONE編集部)