「APTが長い」はいいことか? J1躍進と低迷クラブで明暗…無視できない不利に働く危険性

APT増加と勝敗の相関関係とは?(写真はイメージです)【写真:井上智博】
APT増加と勝敗の相関関係とは?(写真はイメージです)【写真:井上智博】

各Jクラブの特徴や改善点が顕著に

 Jリーグは2025シーズン(第1節~第9節)のデータに基づいた「J STATS REPORT 2025 Q1」を公開している。このレポートには各Jクラブの特徴や、今年の改善点などがハッキリと出ている。レポートの中で取り上げられている項目に「アクチャル・プレーイングタイム(ATP)」と「アウトオブプレータイム」がある。

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 前者はボールがタッチラインやゴールラインの外に出てからスローインやゴールキック、コーナーキックで試合が再開されたり、ファウルの判定からFKが蹴られたりするまでなどの時間を除いた、「実際にプレーが動いている時間」。後者は「実際にプレーが動いていない時間」で、VARや交代、怪我人の治療、飲水タイムなども含まれる。

 J1リーグでは1試合でどれくらいの「アウトオブプレータイム」があるか。実は1試合で平均45.5分の「アウトオブプレータイム」がある。このうち一番長いのはFKで、平均15.5分間リスタートまでかかっている。その他、リスタートまでの時間が長いのはスローイン(11.6分)、GK(7.1分)、CK(6.2分)で、これらの時間をどれくらい短縮できるかがATPを延ばすためには必要だ。

 このレポートにはJ1各チームがそれぞれのセットプレーに1回どれくらい時間をかけているかというのも掲載されている。短ければ短いほどプレーしようという意識が高いと言える。

 それぞれのトップ5のうち3項目以上でランクインしているのは、柏(スローイン・GK・CK)、横浜FM(FK・スローイン・CK)、清水(スローイン・GK・CK)で、この3クラブはとても優秀だと言えるだろう。また、2項目以上では町田(FK・CK)、C大阪(スローイン・GK)の2クラブになっている。

 また、2024年に比べてそれぞれの項目が大きく短縮されているクラブとしては、4項目すべてにおいて柏がトップ5に入っており、続いて3項目の町田(FK・スローイン・CK)、2項目の京都(FK・CK)、神戸(スローイン・GK)になっている。柏が大きく変わってきているのが数字として出ている。

 このような変化があったため、今年柏のAPTは大幅に延びている。1試合あたり7分以上もプレーしている時間が増えたのだ。また、横浜FMはAPT4位であり、APTが延びたチームとしても3位に入っている。

APTと勝敗の関係はチームスタイル次第?

 だが、ここでもう一つの論点が出てくる。それは「APTが長いことはいいのか」ということだ。観客にとっては、長くプレーを見られるという点が良くなる。しかし勝つという点においてはどうだろうか。

 多くの項目で上位に付ける柏が、2024年はギリギリ残留した17位から現在は優勝戦線に飛び出してきていることはAPTを延ばすことが成績を上げることに直結しているように思える。

 ところがトップを走っている鹿島は、実は2024年に比べると1試合あたりのAPTが20チーム中17位、去年からAPTが減った時間で言えば18位なのだ。また、横浜FMの苦境を考えると、APTを延ばすこと、アウトオブプレータイムを減らすことが勝利に直結することはない。

 多分に考えられることは、APTを延ばすことはそれだけ必要な体力が増えるということだ。つまり体力的に問題があるときはAPTを延ばすことは勝敗に対して不利に働く可能性がある。

 一方で、APTの長いチームがAPTの短いチームと戦うとき、短い方のチームはいつもよりも長くプレーしなければならないために、体力面も思考力も足りなくなると言う指導者もいる。

 これをどちらも正解と捉えるべきではなかろうか。自分たちの体力が十分に持つのならAPTを延ばす方向でプレーし、日程が厳しいなどの条件下でプレーするときはAPTが少ない戦い方も選択できるというのがベストだろう。

 もちろん相手との力量差もある。対戦チームがいつも自分たちよりもAPTの長い試合をしているのなら、いくら自らの体力に自信があったとしてもあえてその土俵に付き合う必要はない。いつもボールを支配しながら戦っていたとしても、対戦相手によってはカウンターに切り替えたほうがいいはずだ。

 だから過度なAPT信仰はしないほうがいいだろう。レポートの中に数字は出ているが、そこにだけ目を奪われてはいけないということだ。もっともAPTの短いチームが急にAPTを長くするようなプレーができるかというと、それは難しい。その意味ではAPTを延ばす努力はしつつ、APTを削るようなプレーを忘れないという賢さが重要なのだ。

 その中でリーグ全体としてAPTを延ばす方向に進み、ヨーロッパ5大リーグでも最もAPTの長いプレミアリーグの58分に近づき、追い越していくのが理想だと言える。そのときが来れば、日本代表は全員Jリーガーになるかもしれない。

躍進の柏はAPT大幅増加…J1各スタッツトップ5

【FKトップ5】
1位 湘南(28.6秒)
2位 横浜FM(29.2秒)
3位 新潟(31.1秒)
4位 川崎(33.8秒)
5位 町田(33.9秒)

【スローイントップ5】
1位 清水(12秒)
2位 柏・G大阪(12.6秒)
4位 横浜FM・C大阪(13.4秒)

【GKトップ5】
1位 柏(18.8秒)
2位 C大阪(21.1秒)
3位 東京V(21.5秒)
4位 清水(22.5秒)
5位 神戸(24.8秒)

【CKトップ5】
1位 柏(26.9秒)
2位 町田(34.7秒)
3位 京都(35.2秒)
4位 清水(35.4秒)
5位 横浜FM(35.7秒)

【FK短縮トップ5】
1位 横浜FM(-9秒)
2位 京都(-6.4秒)
3位 湘南(-5.8秒)
4位 町田・柏(-5.5秒)

【スローイン短縮トップ5】
1位 柏(-3.9秒)
2位 清水(-3.3秒)
3位 神戸(-2.6秒)
4位 G大阪(-2.2秒)
5位 町田(-2秒)

【GK短縮トップ5】
1位 C大阪(-11.6秒)
2位 柏(-7秒)
3位 神戸(-6.1秒)
4位 福岡(-4.8秒)
5位 東京V(-2.7秒)

【CK短縮トップ5】
1位 柏(-11.9秒)
2位 町田(-7.9秒)
3位 FC東京(-6.3秒)
4位 京都(-4秒)
5位 広島(-2.7秒)

【APTトップ5】
1位 新潟(60分21秒)
2位 柏(58分59秒)
3位 G大阪(58分37秒)
4位 横浜FM(57分57秒)
5位 C大阪(56分39秒)

【APT延長トップ5】
1位 柏(7分18秒)
2位 湘南(6分12秒)
3位 横浜FM(5分14秒)
4位 横浜FC(4分25秒)
5位 広島(4分2秒)

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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