Bチーム主将の葛藤「昇格は目指しますが」 ライバルは主力…強豪校ならではの舞台裏

前橋育英の坪井蒼季【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
前橋育英の坪井蒼季【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

前橋育英の坪井蒼季「カテゴリーはあるけど僕らはあくまで1つのチーム」

 強豪校にはAチームだけではなく、Bチーム、Cチーム、Dチームと多くのカテゴリーがあるが、部員が多くてもサッカーではプレミアリーグを頂点に、9地域のプリンスリーグ(関東、北信越、関西、九州は2部がある)、都道府県リーグ(1部~6部まである地域もある)と続き、1年生を対象にしたルーキーリーグなど、それぞれのカテゴリーのチームで公式戦ができる土壌が整っている。

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 Aチームのいるカテゴリーが高ければ高いほど、Bチーム以降のステージも高くなる傾向があり、青森山田、流通経済大柏、前橋育英、帝京長岡、静岡学園、大津はAチームがプレミアで、Bチームがプリンスリーグに所属している。当然、全体の統率はトップチームのキャプテンが務めるが、それぞれのカテゴリーにもそのチームを束ねるキャプテンがいる。今回はそこにスポットを当ててみたい。

 前橋育英のBチームを率いるのは3年生のDF坪井蒼季。FC岐阜U-15から強豪校の門を叩いた彼は、昨年度の選手権では応援の副団長をやっていた。

「もちろん選手権に出るためにここに来たのですが、昨年はずっとプリンスリーグ関東2部が主戦場で、プレミアの登録メンバーにはなれたのですが、一度も出場ができなかった。本当に悔しかったのですが、3年生になったときにどんな人が信頼されるかというとリーダーシップが発揮できて、周りを引っ張れる選手だと思ったので、副団長としても全力で応援団を引っ張って、ピッチにいる選手たちの後押しをしようと思いました」

 坪井のポジションは右サイドバック。スピードと運動量、守備での1対1を得意とするが、彼と同じポジションでトップのレギュラーとして君臨していたのは、同い年の瀧口眞大だった。瀧口はプレミアで20試合に出場し、DFながら2ゴールをマークするなど、主力中の主力。選手権を通じて、さらに成長をしていくライバルの姿に当然、悔しさと焦りは募っていった。

「正直に言うと複雑な気持ちはありました。でも、優勝してほしかったので、全力で応援しつつ、来年は絶対にポジションを奪ってやる、ライバルとして食らいついてやると強い気持ちが芽生えました」

感じた責任の重み「コーチからやってほしいと」

 最高学年を迎えた今年、彼は1回目のプレミアメンバーに入ることはできなかったが、Bチームのキャプテンという大役を任された。

「これまでずっとキャプテンをやったことはなかったのですが、コーチからやってほしいと言われたときは責任の重みを感じました。トップ昇格はもちろん目指しますが、Bチームの先頭を走ってプリンス関東2部で結果を残すことで、チーム全体にプラスの影響を与えられる重要な役割だと思って覚悟を決めました」

 利己的な考えだけではなく、利他的な思考を持ってチームに対して真摯に向き合う。そう決めたからこそ、開幕戦勝利からしばらく勝てなかった時期は相当つらかったという。

 第2節から第5節までの4試合で1分3敗。迎えた5月11日の第6節の桐光学園戦。ここを落とせば一気に県リーグ降格圏に転落する。試合前、坪井は全員を集めてこう口にした。

「残りたくても残れなかった選手たちの思いも背負って、責任を持って戦おう」

 ちょうどこの日、前橋育英は3カテゴリーの公式戦があった。トップは午後からプレミアEAST第7節の川崎フロンターレU-18戦。Cチームはほぼ同時刻に関東大会群馬県予選決勝の桐生第一戦があった。

「もちろんみんな午後からの試合に出たいに決まっている。でも、Bチームの選手のなかにも、この桐光学園戦に出たくても、メンバーから落ちて関東大会予選の方に行った選手が複数いた。そのなかには3年生もいる。こっちに絶対に残りたかった選手の思いを踏みにじるような戦いはできないと思ったので、みんなに伝えました。僕らは上を目指しつつ、下からも目指される立場だという自覚をみんなに促しました」

 試合は2点を先行される苦しい展開だったが、右ウィングバックでスタメン出場をした坪井は常に大きな声でチームを鼓舞し続けながら、豊富な運動量と球際の強さを駆使して攻守において身体を張ったプレーを見せた。後半、3バックから4バックになってからは右サイドバックとして何度もスピードに乗ったオーバーラップを仕掛けると、試合の流れは徐々に前橋育英Bのもとに。

値千金弾「神様が決めろと言ってくれた気がします」

 1-2で迎えた後半23分、左サイドの鮮やかな崩しからの折り返しをファーサイドで待ち構えていたのは坪井だった。トップスピードでボールに走り込むと、迷わずダイレクトで右足一閃。ボールはニア上を撃ち抜いてゴールに突き刺さった。

 キャプテンの意地の同点弾。完全に士気が上がったチームは、ここからさらに2点を積み重ねて試合をひっくり返した。アディショナルタイムに1点は返されたが、そのまま逃げ切って4-3の逆転劇。5試合ぶりの勝利を手にした。

「あれは神様が決めろと言ってくれた気がします。僕のゴールもそうですが、何よりチームが勝てたことが本当に嬉しい。逆転できたのは僕らのなかでも大きな自信になったし、チームとして重要な試合になったと思います」

 その表情は凛々しかった。トップチームだけが強いチームは本物の強さを持っていない。Bチーム、Cチームの実力が上がっていくことで全体が底上げされ、チーム内競争が激化していくことで、やがてトップを含めたチーム全体の力の向上へとつながっていき、リーグ終盤や最後の選手権でその力がものを言うようになってくる。

 だからこそ、Bチームのキャプテンはそれをチームにもたらせるかどうかの重要な役割を担っていることを、坪井はよく理解している。

「下に手本となる姿を見せながら、上の選手にプレッシャーをかけるというか、這い上がっていく気持ちを見せる。それにカテゴリーはあるけど、僕らはあくまで1つのチーム。日常生活ではカテゴリーとかは一切関係ないと思うので、チームがいい方向に行くようにどんどん発言していきたいし、ここで培ったメンタリティーやリーダーシップが、必ず自分を成長させて、トップに貢献できる日が来ると信じているので、今は目の前のことに全力で取り組むだけです」

 ライバルに対する負けたくない気持ちと、キャプテンとしての自覚。利己と利他をバランスよく心に携え、坪井はチーム全体を引っ張る立場の1人としてタイガー軍団の中で輝きを放つ。

(FOOTBALL ZONE編集部)

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