J1行き”王手”も…年齢層に懸念? 昇格→常連になるために求められる上積みと改革【コラム】
J1昇格に近づく清水と横浜FC、必要なのは昇格後も戦い抜くための指針
国立競技場開催でJ2歴代最高の5万5598人の観衆を集めた首位攻防戦は、片側のゴール裏1、2階席を除けばすべてオレンジに染まっていた。だが序盤から前がかりに攻勢に出たのは、圧倒的アウェー状態で2位につける横浜FCのほうだった。
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もちろんこれは清水エスパルスの秋葉忠宏監督が想定したものではなかった。
「改めてサッカーはメンタルゲーム。背景として我々が首位にいて、ドロー以上なら順位が変わらない。そういう意識があって手堅く入り、うしろでパスを回し、うしろが重い要因になったのかな、と。本来はゲームのスタートから超アグレッシブに行かないと、我々らしくないし、そうあってこそ成長できるのに……」
確かにメンタルゲームの性格が色濃いサッカーでは、入り方が全体の流れを決してしまうことも少なくない。実際後半11分に横浜FCが先制するのも、それまでの展開を考えれば必然だった。
記録的な大観衆の前で、守備時には右MFの西澤健太をサイドバックの位置まで戻して5バックで構える清水は、一向に攻撃の糸口を見つけられなかった。
「清水の戦い方は想定内だが、思ったより(攻撃に)来なかった」(横浜FC・四方田修平監督)
ほぼ完全ホームで見せ場も作れず追いかける立場に回った清水ベンチは、当然後半に入ると次々にカードを切る。まず後半10分に、ルーカス・ブラガに代えてカルリーニョス・ジュニオ。後半23分には3枚替えをしたので、前線は乾貴士以外すべてフレッシュなメンバーに変更。ようやく後半29分に、その交代出場した3人が関わって同点ゴールを生み出した。ただし試合全体を通しても、横浜FCの守備を崩し切ったのはこの1度だけ。「苦しいゲームをドローにしてくれた」という指揮官の言葉が、端的に試合内容を表していた。
昨年清水は同じ国立の舞台で、東京ヴェルディとJ1昇格を賭けたプレーオフ決勝を戦った。清水は後半17分にチアゴ・サンタナがPKを決めて先制し、試合はアディショナルタイムに突入。ところが土壇場で東京VがPKを獲得して追い付き、J1昇格を勝ち取った。
今振り返れば、この後半アディショナルタイムの同点ゴールは、東京Vと清水の明暗を大きく分けた。J2の3位で16年ぶりに昇格を果たした若い東京Vは、J1の32節を終えて6位と大躍進を遂げている。もう今年の東京Vは、1年前とは全く別のチームだ。
現実的にはJ1もJ2もレベルの停滞が想定されるシーズンだった。昨年まで18チームで戦っていたJ1は横浜FCだけが降格し、代わりに3つのチームが昇格してきた。一方上位3チームが昇格し、降格してくるのが1チームだったJ2も比較的無風で、順当に清水と横浜FCが最上位を占めている。
両クラブの目標がJ1に昇格するだけなら、達成は間近だ。だがその先のJ1の常連として戦い続けることを想定するなら、現状を見る限りおそらく苦戦は必至だ。
清水の秋葉監督は、昨年のチームと比べて「我慢強くしたたかに勝負ができるようになり、自分たちから崩れることが少なくなった」と語る。だが昨年昇格したFC町田ゼルビアや東京Vは、J2時代から昇格後も戦い抜くための指針を持ち、そのうえで新シーズンは補強をしてJ1でも経験を上積みしていった。また一昨年のアルビレックス新潟は、それ以上にJ1でも十分に戦えるチームとしてのスタイルを確立していた。
清水、横浜FCともに、スタメン、ベンチ入りの選手たちの平均年齢は27~28歳代。働き盛りだが、大きな伸びしろを探すのは難しい。その分安定的に戦力を確保できるのかもしれないが、町田や東京Vのように旋風を巻き起こそうとするなら、なんらかの改革が必要かもしれない。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。