名門市船エースが“0点”「何で入らないんだ」…苦悩の日々、言い聞かせた「去年とは違う」
名門・市立船橋高校FW久保原心優に訪れた試練
高校サッカー界の名門・市立船橋。栄光の背番号10はこれまで数多くのJリーガーが背負ってきたもの。昨年は清水エスパルスでプレーする郡司璃来が背負い、今年は昨年郡司と2トップを組んできたFW久保原心優へと引き継がれた。
昨年度の選手権では3ゴールを挙げてベスト4進出に導いた。久保原に懸かる期待は大きかったが、今年のプレミアリーグEASTでは開幕からノーゴールが続いた。もちろん彼だけの問題ではない。チームとして勝ちが掴めない時期が続いたことで、攻守ともに歯車がなかなか噛み合わなかった。前期11試合で8敗3分と1勝もできず、無得点試合が8試合、複数得点はなしという苦しい状況にはまっていた。
「郡司選手のような結果は全く出せていませんが、焦らないように言い聞かせていました。前期ノーゴールでしたが、バーに当たったり、ポストに当たったり、本当にわずかというところが多かったので、悔しい気持ちと反省は持ちながらも、いつか必ずという気持ちでやっていました」
久保原の特徴は最前線で身体を張れること。ボールを受けてタメを作る。この持ち味は十分出せていただけに、あとはゴールという結果のみだった。
そんな久保原からゴールが生まれたのは6月のインターハイ千葉県予選。決勝の流通経済大柏戦では気迫のダイビングヘッドで先制弾をもたらすと、チームも2-1で勝利。3年連続のインターハイ出場を手にした。インターハイでは全試合途中出場だったが、初戦で2点を決めてチームもベスト8に進出した。
「チームとして何が何でも点を取る、何が何でも守りきるというのがインターハイを境目に出てきた」
手応えは徐々に掴んできた。あとはリーグ戦でゴールを奪い、白星を重ねて最下位から脱却し、残留を手にするのみ。後期開幕戦の青森山田戦でMF田中優成の決勝弾を守り切って念願の初勝利を手にすると、第14節の大宮アルディージャU-18戦でついにその瞬間を迎えた。
「ようやく10番として仕事ができた」待望の一発に安堵
1-1の同点で迎えた後半アディショナルタイム2分、MF左近作怜が右サイドでドリブルを仕掛けた瞬間、「ファーに来る」と直感した久保原はゴール前のファーサイドのスペースに回り込むように走り込んだ。
クロスは久保原のもとへ。イメージよりも少し高かったが、バックステップを入れてから全身を使ってジャンプ。ボールを頭で捉えると、威力抜群のヘディングシュートは相手GKの手に当たるも、そのままゴールに突き刺さった。
「もう決めるしかないと気持ちで合わせました。一生忘れないゴールになると思います」
たちまち久保原を中心に歓喜の輪ができる。ゴール裏の部員たちもベンチの選手たちも入り乱れて喜びを爆発させた。エースの今季リーグ戦初ゴールが貴重な決勝弾となって、プレミア2勝目を掴み取った。
「ようやく10番として仕事ができた。何度も『何で入らないんだ』と思ってきたのですが、自分を見失わないでやってきて本当に良かった。この1勝を無駄にせずにやっていきたいと思います」
その言葉どおり、続く第15節の川崎フロンターレU-18戦では0-1で迎えた後半アディショナルタイム2分に、中央でボールを受けた久保原は左足でシュートを放つ。このこぼれ球に反応した左近作が土壇場の同点弾を沈めた。これで後期は2勝1敗1分け。「粘り強さの市船」の完全復活を示している。
「前期の間、『去年とは違うんだ』というところをずっと自分に言い聞かせていた。去年は周りが助けてくれていたというか、郡司選手という強烈な個もいて、そこに引っ張ってもらっていた。周りのおかげで動きやすかったし、動いたところにボールがきた。でも今年は『俺が、俺が』ではなく、『どれだけ味方がパスを出しやすいプレーをするか』、『どこにいたら味方が助かるか』などをずっと考えながらやってきたので、ゴールという結果は出なかったですが、僕の中で引き出しは増えたと思っています」
卒業後は関東の強豪大学に進む。「進路が決まったこともより吹っ切れたことの要因です」と口にする彼は、多感な時期にしっかりと悩み、自分と向き合い、素直に自分のプレーができるようになった。
心身ともに逞しくなった市船の10番。彼の真価はまさにこれからだ。
(FOOTBALL ZONE編集部)