J1低迷クラブがトップクラス級に急浮上…チームが「強くなっていく」“走り”の効果【コラム】
求められる走りの量と質…「走らないチーム」は「走るチーム」に食われていく
天皇杯準々決勝、京都サンガF.C.がジェフユナイテッド千葉を3-0で破り、ベスト4へ進出した。J2の千葉はJ1のFC東京、北海道コンサドーレ札幌に連勝してベスト8まで勝ち上がってきたが、京都との差は歴然としていた。
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ラファエル・エリアス、マルコ・トゥーリオのブラジル人選手をはじめ個々のクオリティーに差があったが、それ以上に走りの量と質が違っていた。京都の動き出しの速さに圧倒され、素早いコンビネーションを前に後手に回っていた。
J1とJ2の差というより、後半戦でトップクラスの勝ち点を稼いでいる京都との差と言っていい。J1第30節時点で京都は試合数が1試合少ないとはいえ、現状の順位は15位。しかし、第20節以降の後半戦に関してはサンフレッチェ広島に次ぐ勝点を挙げていて、現時点ではJ1トップクラスのチームなのだ。
相手のゴールキックからのリスタートでも、京都の選手は実に素早くいるべきポジションへ移動する。守備での寄せの速さ、攻撃でアクションを取るタイミングも早かった。
J1の試合でも、次々と連続する京都のプレッシングに対戦相手はパスをつなぎ切れないケースが多い。1つ目、2つ目までは外せても、4つ5つと寄せられるとミスになってしまう。
イビチャ・オシム監督が千葉を率いていた頃、「走るサッカー」と言われた。走らないサッカーはないので、相手より走るという意味である。オシム監督は「考えて、走るサッカー」と言っていたが、サッカーでは考えなければ走れないので、「走るサッカー」と言ってもそう間違いではないと思う。
京都も「走るサッカー」だ。そして、よく走るチームはおよそ強くなっていく。京都の15位という順位が物語るように、走っていればたちどころに強くなるわけではないが、いずれ結果が付いてくることが多い。逆に言えば、走ることを徹底しているチームはそれほど多くないのだろう。サッカーは走れば良いというものではないが、走らないチームは走るチームに食われていくのも確かなのだ。特に中位以下のチームにとっては走りの量が増え、質も良くなれば非常に効果がある。
1つ目、2つ目のプレスで奪えなくても、4つ5つと続けば奪えるように、走りの量が増すだけでかなりの効果は期待できるのだ。
「サッカーからストリートの要素がなくなってしまった」
そういう嘆きを目にし、耳にすることも多くなった。ジネディーヌ・ジダン、ロナウジーニョ、ロベルト・バッジョのような選手たちがかつて披露していた「遊び心」がなくなっているという。それだけ現代のサッカーは余裕がなく、とくに走り続けなければならないので、確かに息が詰まるところはあるかもしれない。
ただ、ジダンやロナウジーニョがプレーしていた時代もそれなりに息苦しさはあったと記憶している。彼らは当時でも例外的な存在だった。その例外すらも、リオネル・メッシくらいになってしまったわけだが。ともあれ、現実としてサッカーは「走れば良いというもの」になっていて、それに関してはそれぞれの時代でずっとそうなのだ。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。