松木玖生の新たな出発点 FC東京ラスト戦でカメラ越しに見た「どこか寂し気」な複雑な表情【コラム】
【カメラマンの目】松木はさらなるレベルを目指すための険しい道を選んだ
1年を通してさまざまなレベルと世代のサッカーの試合に接していると、そこでプレーする選手たちの喜怒哀楽や彼ら、彼女らの人生の転機となる場面に出会うことがある。
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5万7885人の観衆が見守る国立競技場で行われたJ1リーグ第23節のFC東京対アルビレックス新潟戦は、1人の若者のサッカー人生において、世界の舞台への旅立ちとなる試合となった。その選手の名前は松木玖生だ。
ベンチスタートとなった松木は、後半16分からピッチに立つ。カメラのファインダーに捉えたFC東京の背番号7は、いつものようにボールを受ける前に首を振って相手のポジションや全体の状況を把握し、その場面での最良を瞬時に選択しプレーを実行する。ピッチ内における味方、敵の位置や状況を的確に知ることによって、自らのプレーの成功確率は上がる。この緻密さが松木の正確なプレーを生み出す根幹となっている。
さらに、新潟の選手と争いながらボールをキープし、左サイドから前線へと進出した力強い姿は、彼の特徴であるフィジカルの強度の高さを示すプレーだった。
各カテゴリーの日本代表に選出され、高校時代にはその存在が注目の的となった松木。そんな彼を撮影してきたなかで印象に残っている1枚がある。2022年1月10日に行われた第100回全国高校サッカー選手権大会決勝の大津対青森山田戦で、ゴールが決まり仲間たちと一緒に歓喜する姿だ。
そして、青森山田の中心選手としてインターハイ、プレミアリーグ、選手権で3冠を達成し、プロフェッショナルの世界に飛び込み、3年目でチームのキャプテンを務めるまでになった今シーズンのこの対新潟戦において、松木に向けてシャッターを切った写真で、再び印象深い1枚を撮ることができた。
試合後、サポーターたちに向かって挨拶をする松木にカメラのレンズを向ける。新たな舞台への挑戦に対して、快く送り出してくれるサポーターたちに向かって笑顔を浮かべていた合間のことである。FC東京を離れることへの思いが込み上げてきたのか、どこか寂しげとも感じられる複雑な表情に目が留まり、その場面を切り取る。
ここまでの松木はサッカー選手として大成するための階段を確実に上がってきている。いや、その歩みのスピードは、駆け上がってきていると表現できるほど順調だ。
しかし、これから松木が目指す世界は、簡単に活躍できる舞台ではない。ハイレベルな選手たちとの競争に加え、言葉をはじめとした文化や習慣の違いとピッチ内外で多くの試練が待っていることだろう。それでもサッカー選手として、さらなるレベルを目指すための険しい道を選んだのは松木本人だ。
サッカー選手をゴール裏からカメラを通して見る者としては、新しいユニフォームを身に纏った松木が世界の舞台で活躍し、彼を捉えてきた写真の中にお気に入りとして加えられるような1枚が撮れれば嬉しい。松木が選んださらなる高みを目標とした道のりは険しいものだが、その階段を駆け上がって行く姿を見てみたいと思う。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。