今季J1リーグで“昇格組”3クラブ大健闘の異変…成績&集客力で驚き数値の実態【コラム】

昇格組チームを牽引するストライカーたち【写真:徳原隆元】
昇格組チームを牽引するストライカーたち【写真:徳原隆元】

町田は「5位以内」どころか首位に立つ快進撃

 今年のJ1リーグには異変が起きている。

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 過去、J2リーグからの昇格組は苦しい思いをしてきた。2005年にJ1が18チーム構成になって以来の19年間で、昇格したチームが1クラブも降格しなかったのは4回(降格がなかった2020年を除けば3回)しかなかったのだ。

 そんな例年と違って今年昇格した3チームは、すでに降格圏には差を付けていて、このまま順調に戦えれば残留を確定しそうだ。しかも、そのうちの1クラブはシーズンの半分を終えて首位に立っているなど、過去に例がない。

 昇格チームの中で最も注目を集めているのはFC町田ゼルビアだろう。第4節で首位に立つと、第8節では3位、第10節、第14節で2位になった以外はずっとトップに座り続けている。

 現場サイドの人間だけで最多時75人という大所帯を抱え、J1に初挑戦するに当たってメディカルや分析班を増員して、タイトルを狙っていいほどのサポート体制を誇っている。ピッチの上にいるスタッフの人数は日本代表よりも多いという充実ぶりで、シーズン当初の目標が「5位以内」だったが、夢物語に終わらないだけの戦いぶりだ。

 黒田剛監督の何を言っても炎上気味という独特のキャラクターがチームの躍進に彩りを添え、順位と相まって、今、最も多く記事が書かれているチームだろう。Jリーグに多くの話題を提供してくれている。

東京Vのホーム平均入場者数は2万人を超える【写真:徳原隆元】
東京Vのホーム平均入場者数は2万人を超える【写真:徳原隆元】

東京Vは昇格組の中で圧倒的な集客力

 また、2023年のJ1参入決定戦で、後半アディショナルタイムのゴールという奇跡から昇格した東京ヴェルディも大いに話題になっている。

 第20節を終えた時点で後半アディショナルタイムに奪ったゴールは5点とJ1リーグの中で1位。しかも総得点「28」のうち、後半30分以降に奪ったのが10得点と3分の1以上を占める。さらに後半アディショナルタイムでの失点が6点でリーグワースト、総失点「33」のうち、後半30分以降の失点も10失点あるという、タイムアップのホイッスルが吹かれるまで席を立ってはいけないチームなのだ。

 この東京Vのサッカーの面白さはここ数年で浸透してきていて、2021年1試合あたりのホーム平均入場者数は3246人、2022年は4955人、2023年は7982人と大きく数を伸ばした。今年の昇格組の1試合あたりのホーム平均入場者数を比べると、町田が1万2693人、磐田が1万2854人なのに対して、東京Vは2万976人と圧倒的な集客力を誇っている。

 昨シーズンのチーム人件費を比べると、町田が18億600万円、磐田が14億1300万円、東京Vが7億7800万円と大きな差を付けられていたが、今年は入場料収入がチームを後押ししてくれそうだ。

 第20節を終えた時点での順位は1位町田、11位東京V、13位磐田と3チームの中では少し出遅れたが、それでも直近の試合では東京Vを3-0で下すなどちゃんと力を見せつけているのが磐田だ。サッカーという部分では一番アイデアが豊富と言えるだろう。

川崎との一戦では打ち合いの好ゲームを演じた【写真:徳原隆元】
川崎との一戦では打ち合いの好ゲームを演じた【写真:徳原隆元】

磐田の問題は「自分たちの強さを認識していないこと」

 今年のJリーグでは、ゴールの横のポケットをどうやって奪うかに工夫を見せるチームが多かった。基本的にはペナルティーエリアの角に1人、ペナルティーエリアの横に1人、その2人をともにサポートできるようなうしろのポジションという3角形からペナルティーエリアの中に侵入していく。

 だが、磐田はペナルティーエリアの角からペナルティーエリア内の斜め方向にパスを通すというシーンを何度も作っていた。このほかのペナルティーエリアの攻略方法も多才で、横内昭展監督の分析力や構築力の確かさが窺える。また守備のスペースの消し方などは、非常に計算されたあとが見える。

 磐田に問題があるとすれば、まだ自分たちの強さを認識していないことか。少し劣勢になるとたちまちバタバタしてしまう様子があった。まるで残留争いしているかのような戦いぶりに急に変わる。このチームは決してそんな弱さではない。

 そしてこの3チームは、クラブの売上高がJ2にいた去年でも、J1の最下位ということではない。柏と湘南のデータはまだないが、磐田の売上高は去年のものでJ1の10位ある。今年は昇格効果でどのチームも収入増が見込まれるため、チームを下支えする資金もできるだろう。

 こうやって昇格したチームが活躍してこそ、上下の入れ替えの意味が大きくなるというもの。この3チームのますますの躍進に期待したい。

2005年以降の昇降格チーム

【年度ごとの昇降格チーム】
2005年 昇格:川崎・大宮/降格:神戸・東京V・柏(※)
2006年 昇格:京都・福岡・甲府/降格:福岡・C大阪・京都
2007年 昇格:横浜FC・柏・神戸/降格:広島・甲府・横浜FC
2008年 昇格:札幌・東京V・京都/降格:東京V・札幌
2009年 昇格:広島・山形/降格:柏・大分・千葉(※)
2010年 昇格:仙台・C大阪・湘南/降格:FC東京・京都・湘南
2011年 昇格:柏・甲府・福岡/降格:甲府・福岡・山形
2012年 昇格:FC東京・鳥栖・札幌/降格:札幌・G大阪・神戸
2013年 昇格:甲府・湘南・大分/降格:湘南・磐田・大分
2014年 昇格:G大阪・神戸・徳島/降格:大宮・C大阪・徳島
2015年 昇格:湘南・松本・山形/降格:松本・清水・山形
2016年 昇格:大宮・磐田・福岡/降格:名古屋・湘南・福岡
2017年 昇格:札幌・清水・C大阪/降格:甲府・新潟・大宮(※)
2018年 昇格:湘南・長崎・名古屋/降格:柏・長崎
2019年 昇格:松本・大分/降格:松本・磐田
2020年 昇格:柏・横浜FC/降格:なし(※)
2021年 昇格:徳島・福岡/降格:徳島・大分・仙台・横浜FC
2022年 昇格:磐田・京都/降格:清水・磐田
2023年 昇格:新潟・横浜FC/降格:横浜FC
※の年は昇格したチームが降格していない

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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