静学卒プロ3年目の苦悩「今年終わる」 逆境から一転…寝覚めの一撃「ここからだな」【コラム】
磐田MF古川陽介、驚異的ドリブル弾で今季初ゴール
文句なしのスーパーゴールだった。2-0で迎えた後半アディショナルタイム5分、中央のイーブンボールをMF上原力也が粘り強くつなぐと、自陣の左サイドでボールを受けたMF古川陽介が2人の合間を破って縦に仕掛ける。そこから相手陣内で3人に囲まれる状態になったが、古川は構わずインに切り込むと、ペナルティーエリアでカバーに来たMF食野壮磨をもかわして、右足を振り抜くと、シュートがゴール右隅に突き刺さった。
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「本当、お待たせしました!という。そんな感じです」
そう照れながら語った古川はドリブル突破のシーンについて「相手の逆を突くドリブルが真骨頂なので。本当そこは存分に出たし、そのなかで最後のゴールは意識していたけど、取れてなかったのがポイントだった」と振り返る。ドリブル突破には絶対の自信を持っており、ここまでの距離で4、5人を抜くようなシーンではなくとも、仕掛けてシュートに持ち込むシーンは少なくなかった。
「そこからのクオリティーは監督もいつも言ってるので。そこは本当、1つ……まだ1点目ですけど、1年間ほぼ点取れなくて。悩んできたなかで、ああやってゴールが取れたのは大きかった」
古川のゴールに、これまでないぐらいのガッツポーズを見せた横内昭展監督は「ここ2試合はベンチからも外れて、かなりプレー時間はあったなかで自分の思う結果が出せていなかった。本当にこの2試合は悔しい思いをしていたと思います。そこで腐ることなく、トレーニングから違いを見せていた」と感慨深げに語った。
カタール・ワールドカップ(W杯)まで日本代表の森保一監督を支えた“名参謀”だった横内監督は育成面にも定評のある指導者だが、「若い選手に、年齢でポジションを与えるつもりはない」というのが、磐田の監督に就任してからの決まり文句になっている。
20歳の古川が今季リーグ戦でスタメンを飾ったのは、0-1で敗れた第14節・北海道コンサドーレ札幌戦のみだった。それでも途中から試合の流れを変えるジョーカー的な役割で、重要な働きをしてきたが、ゴールやアシストといった目に見える結果が出ないままシーズンの折り返しとなった。
それでも横内監督が言うとおり、腐る態度を見せることなくトレーニングに取り組み、練習前後に笑顔も見せていた古川だったが、いかに苦しい時期を過ごしていたかは「横さん(横内監督)も我慢して使ってくれて。(初戦で敗退した)天皇杯もそうでしたけど、結果を出せなくて苦しみましたし、メンバー外になったりして。ここで変わらないと今年終わるなと思っていた」という言葉にも表れている。
スーパー弾に同志からメッセージ「プレー100点、インタビュー3点」
名門・静岡学園高校からプロ入りして3年目の古川にとって、同じタイミングで磐田のユースからトップ昇格したMF藤原健介は互いに刺激しあうライバルであり、同志でもある。その藤原がJ3のギラヴァンツ北九州に、育成型期限付きで移籍したのが10日ほど前で、古川としては3試合ぶりのベンチ入りで、期するものはあっただろう。スーパーゴールを決めた古川に、藤原からLINEのメッセージが届いたというが、古川は「プレー100点、インタビュー3点と」と笑いながら内容を明かしてくれた。
「自分の中で葛藤しましたけど、ここからだなっていう印象が強いです」
後半戦のスタートで結果を出せたことは大きいが、勝負はこれから。左サイドはここまで主にMF平川怜が主力に定着してきたが、東京V戦ではMF金子翔太が左サイドでスタメン起用されて、最初の決定的なシュートに持ち込むなど、攻守にダイナミックなプレーを見せた。その金子と同じく、右サイドでリーグ戦初スタメンとなったMFブルーノ・ジョゼも前半のPKを獲得。FWジャーメイン良のキックが相手GKマテウスに止められて得点はならなかったが、後半にオウンゴールを誘発するクロスなどで勝利に大きく貢献した。
すでにルヴァン杯、天皇杯とカップ戦の敗退が決まり、残された公式戦はリーグ戦の18試合しかない。ここで古川がどういったプレーを見せて、明確な結果につなげていくのか。2巡目のスタートで同じ”昇格組”の東京V相手に快勝し、現在20試合で勝ち点23の13位にポジションを上げてきたが、古川が躍進の鍵を握る1人であることは間違いないだろう。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。