北朝鮮が待ち望んだコロナ禍後初の平壌開催 報道陣の受入れ数が“倍増”した理由は?【コラム】
入国許可が下りた報道陣は2011年の10人から2倍以上に増加
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)サッカー協会は、2026年の北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選、平壌で開催されるアウェー戦で、日本メディア20名以上に取材の許可を与えた。
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2011年11月15日に開催されたブラジルW杯アジア3次予選で平壌入りを許された報道陣は10名だったことを考えると、今回は倍以上に増えており、前回は誰も行けなかった新聞記者も入国を許可されている。
日本に対して前回よりも門戸を開いたきっかけは何だったのか。北朝鮮サッカー協会の関係者はこんな内情を明かした。
「2月に我々の女子代表チームが来日した時、とてもスムーズに入国させてもらいました。2011年のブラジルW杯アジア3次予選で日本にやってきた時はとても時間がかかったので、本当を言うと今回もそうなるのではないかと思っていたのです。それが杞憂に終わり、大変嬉しかったですね。先に日本がそのような態度で接してくれたということが、今回の大幅増につながったと思います」
先に日本側が受け入れたことで、態度を軟化させたということだった。
アジアサッカー連盟(AFC)のスタジアム決定の問題も多少の改善は見られた。なでしこジャパン(日本女子代表)のアウェー戦は試合直前まで開催地が決まらなかったのだ。今回はまだ早まったものの、それでも現場の混乱はある。ただし、それは相手国も同じようだ。
「3月2日から5日までAFCの視察団が平壌を訪れていました。そのあとすぐに開催可能かどうか決まると言われていたので私たちもずっと待っていたのですが、結局結論が出たのは11日でした。ずっと『通常のホーム&アウェーでやらせてほしい』と願っていたので、無事に決まってみんなホッとしました」
北朝鮮の選手、人民が待ち望んだ新型コロナウイルス流行後初の国内公式戦
日本の報道陣が平壌との往復に予定している日には北京との定期便がない。そのため今回は高麗航空のチャーター便が用意された。それほどまでして開催したい思いがなぜあるのか。これまでの戦績で日本に1勝も許していないという戦績以上に別の感情があった。
「実はこの(3月)26日の試合が、新型コロナウイルス流行後の国内での最初の試合になるんです。こうやってまた試合が見られることを人民はとても楽しみにしていました。そして、チームも自分たちが頑張っている姿を親、兄弟、家族、友人などに見せたいとずっと思っていたんです。その意味でこの試合はみんなが待ち望んでいた一戦なんですよ」
そんな人々の思いが、金日成競技場のマスゲーム応援に込められることだろう。
サッカーの世界において、最近日本と北朝鮮とはいいライバル関係が築けている。2月28日のパリ五輪アジア最終予選ではなでしこジャパンが2-1と勝利を収め、試合が終わったあとには相手国サポーターから日本に温かい拍手が贈られていた。
3月16日に開催されたU-20女子アジアカップでは決勝戦で対戦。今度は日本が1-2で敗戦を喫した。だが終わったあとに両チームはお互いのベンチに行って挨拶し、北朝鮮チームは日本が自分たちのベンチに向かってまだ挨拶しているのを見て、17年ぶりの歓喜を表に出すのを待っていた。
3月21日のホーム戦、26日のアウェー戦も同じような清々しい戦いになるのだろうか。相手は代表チームながら1年間生活をともにしてコンビネーションを高めている。技術では日本が上だが、相手の連係プレーには注意が必要だ。そしてタフな肉体と精神力を前面に押し出してくるチームとの激しいぶつかり合いになることは間違いないだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。