泥沼3連敗…J1名古屋に何が起きた? 思わぬ誤算で深刻な悩み→選手嘆き「切り替えられない」【コラム】

名古屋の現状を考察【写真:Getty Images】
名古屋の現状を考察【写真:Getty Images】

24年ぶり開幕3連敗の不名誉記録、長谷川政権3年目に今、何が起きているのか

 Jリーグ屈指の強豪・名古屋グランパスが開幕3連敗と苦しんでいる。開幕から3連敗は、2000年シーズンに4連敗を喫して以来となり、実に24年ぶり。不名誉記録まで出た長谷川政権3年目に今、何が起きているのか。積極補強とは裏腹に、機能不全に陥るチームの裏側に迫る。

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「今日の負けはちょっと切り替えられないかも。受け止めるしかない。頑張ります」

 泥沼、不名誉、悪夢。ネガティブな言葉が飛び交う開幕からの3連敗に、永井謙佑は神妙な顔でポツリとこぼした。いつもなら「切り替えてやるしかない」と前を向く男が、「切り替えられない」と言ったのはなかなかにインパクトが大きく、チームの現状の苦しさがひしひしと伝わってきた。本領発揮の半分も見せられていない2024年の名古屋の悩みは深く、ポジティブな材料がないわけではないからなお深刻にもなる。

 一番の問題は、要所における前提が崩れていることだ。充実の補強と新たな戦術によってスケールアップを図った今季だが、不運なる負傷禍によってスクランブル状態がプレシーズンから続いている。連敗の根は何をおいてもこの対処にあるといっても過言ではない。そのための選手層だと言われればそのとおりだが、どんなチームにも軸になる選手や組み合わせ、いわゆる“質的優位”をもってアドバンテージを得る部分はあるものだ。

 名古屋の誤算は2月2日からすでに始まっていた。沖縄キャンプ中の練習試合で山岸祐也が右膝の内側側副靭帯を傷めて離脱。復帰には1か月を要した。彼の持つ前線でボールを収める能力、そこから周囲を活かして自らもチャンスに飛び込んでいく能力は間違いなく新戦術の肝となる部分で、キャスパー・ユンカーとの連係もかなりの好感触が見られていただけに、新チームの攻撃部分の構築はひとまず方針転換をせざるを得なかったところがある。

 さらにはほぼフルモデルチェンジの感もあった最終ラインにも、キャンプ後のプレシーズンマッチで新加入のハ・チャンレが負傷離脱。山岸とともに開幕後のFC町田ゼルビア戦まで復帰を待たねばならず、泣きっ面に蜂で開幕前週に行なった非公開の練習試合で河面旺成も負傷。鹿島とのオープニングゲームは「たぶん今日の2人が出ることになれば、J1の開幕戦は初めてだと思う」(長谷川健太監督)という不安要素を抱える守備陣で臨むことになった。結果は0-3の完敗。もちろんその責任のすべてが最終ラインにあるわけではないが、失点の要因に彼らが含まれていたことも否定できない。

攻守のキーマンが次々と離脱、“前提”が崩れ低迷に

 攻守のキーマンが次々と離脱していくなかでは、チーム全体を現実的に組み替える必要があったことも不調の原因としては見逃せないポイントだ。ここが最大の“前提”が崩れたところでもある。そもそも今季のチーム作りにおける最大のチャレンジは、ビルドアップの改善にあった。そのために指揮官はヘッドコーチを引き連れドイツを訪れ、レバークーゼンやボルシアMG、ケルンの練習やUEFAチャンピオンズリーグ観戦によってもエッセンスを吸収。結論としては3-1-4-2からの可変システムを導入することで、課題解消へと乗り出した経緯がある。

 この可変システムの肝は3バックが右にスライドし、右センターバックがサイドバック的に位置取るところから4-4-2的なポジショニングを見せることだった。だからこそ左のウイングバック候補に山中亮輔と小野雅史を獲得し、ウイングのような役割を託される右ウイングバックには既存の久保藤次郎に加え、中山克広を迎え入れている。そしてアンカーにはよりレジスタ的な人選をと、キャンプでは吉田温紀を試し、途中からは椎橋慧也を据えた。もともとこのポジションには適任と言える米本拓司がおり、彼を保険として最適解を探すというのがプレシーズンの重要なテーマでもあった。

 この設計図をもとに、インサイドハーフには左右で異なる役割が与えられた。右肩上がりのサイドにいるインサイドハーフには稲垣祥のような守備でも貢献しながらボックス内に飛び込める機動力がある選手を使い、右肩上がりゆえに目の前にスペースが空く左側には森島司や倍井謙のようなアタッカーが据えられた。特に森島にはかなりの自由度が認められ、下がってビルドアップに参加することも、開いて起点を作ることも、当然のごとくゴール前での仕事も要求された。

 それと同時にツートップであることの利点も活かし、直接的に相手の背後を2人の関係性で崩していく選択肢も口酸っぱく伝達されていた。第3節のアルビレックス新潟戦を前に長谷川監督が「今節は推進力がテーマ」と語っていたが、ここまで書いたとおりチームコンセプトとしては右回りの渦を描くような勢いある攻撃を目論み、ある程度はプレシーズンで表現できていたのも間違いなかった。だが、相次ぐ負傷者によってことごとくその前提条件が崩れてしまったのが、現状の低迷に響いているのも間違いない。

 改めて振り返ると、開幕戦で現実を見なければならなかったところから、悪循環は始まっていた。前述のとおり、最終ラインに不安を抱えていたチームは、開幕戦のアンカーに稲垣を起用することを決めた。最終ラインへのフォローを目的とした起用は稲垣自身に経験のあるポジションゆえに奇策ではなかったが、システムのコンセプトとしては適任とは言えず、積み重ねてきたビルドアップとは違う形の組み立てになったことでチーム全体が停滞。うしろに重たくなる展開を見越して右に久保を入れ、トップにパトリックを使った決断も思惑どおりには運ばず、リードを許したことで永井と中山という快速サブメンバーの効果も薄れた。

開幕3連敗もアウェー新潟戦ではポジティブな要素が散見

 第2節の町田戦では米本をアンカーにしてビルドアップの部分には改善が見られ、ハ・チャンレが復帰して最終ラインにも安定感は増したが、手堅い町田の戦い方に意地を張るかのように低調なビルドアップを続けた結果、またも無得点で敗戦を喫することに。開幕2戦はともに森島が下がってビルドアップをフォローする動きがお決まりのようになっていたが、そもそもこれはオプション的なプレーであったはずで、ここが低く重たくなったことで左がなかなか前に上がれない弊害も生まれ、山中の能力が大きく削がれたところもあった。このチームの良い時は左からスムーズに右へと攻撃が流れていき、右の仕掛けから森島や山中のランニングプレーまでもが選択肢に入っていた。ボールを持つ選手のイメージが強い2人だが、動きながらの表現にこそ真の怖さがある。山中は試合後、「ほんとに何もできなかった」と肩を落とした。

 第3節の新潟戦は今季初めて椎橋をアンカーで使い、左ウイングバックはおそらく当初は小野の起用も考えられていたところ、負傷による離脱で「しっかりとボールを引き取れる能力で和泉(竜司)にした」と指揮官。稲垣をインサイドハーフで起用したあたりは設計図どおりのチョイスとも言えたが、左インサイドが倍井という部分ではゲームメイクの部分にやや難があり、「距離感が遠くて横パスを選択せざるを得なかった」(椎橋)と、やはりビルドアップに問題を抱えた試合にはなった。守備は粘り強く新潟のパスワークと崩しに対応していたが、奪ってすぐにロストする場面も多く、リズムが上がっていかないところも苦しかった。攻撃の選択肢が少ないことがボールをもって考える時間を伸ばし、相手の即時奪回の餌食ともなっていた。

 それでも新潟戦は開幕3試合の中で少しずつ修正を加えてきた成果は見られた試合であり、このシステムを動かしていくヒントが散りばめられた90分間であったことに疑いの余地はない。例えば、椎橋の感想はアンカーを使っていくための“遊び”や“仕掛け”の必要性を問う。

「僕を含めてうしろのパス回しが遅すぎるというのもあるけど、チャンレは狙ってましたけど、(右センターバックの)ウッチー(内田宅哉)とケネ(左の三國ケネディエブス)に相手のサイドハーフが来るんで、祥くんや謙に入れられるボールもあったんです。それを見せて相手のボランチがそっちを警戒したら、僕も空いてくる。そのボールをもっと入れてって試合中に言ってたんですけど、消極的になってしまったところがあって。そこの縦パスが入れられていたら、ちょっと状況も変わったなとは思うんです」

 付け加えて言えば、FC岐阜とのプレシーズンマッチでは思わぬ苦戦に急遽ボランチを2枚にする3-4-3で試合をひっくり返した展開があり、現状では3-4-3でいいのではという考え方もある。流れ的にそういう場面や時間帯は今でもあるが、基本はアンカーシステムというのはひとえに積み上げを期待してのことではあると思う。どこまで行っても今は応急処置の最中であり、ここに新潟戦を欠場したユンカー、河面らが戻ってくれば、当初の想定どおりの試合展開が期待できるところもある。そこまでは無理に形を変えず、すべてを経験値に変えて体制が整うのを待つ、という考え方も、長いシーズンを見据えた上でのチーム作りにはあるのではないか。

 新潟戦ではもう1点、復帰2戦目でフル出場を果たした山岸の活かし方という課題も出た。前節は30分ほどの時間限定での出場だった万能型は守備の貢献もさることながら、前線でボールを収める能力を遺憾なく発揮したが、サポートの枚数が少なく孤軍奮闘の印象が否めなかった。試合後の長谷川監督も「そういうサポートを早くしながら、次の選手が飛び出していけるような形をしっかり出せるように」と語り、コンビを組んだ永井はさらに具体性をもって一筋の光明に手を伸ばす。

「祐也には収まるから、もっと前向きサポートの人数と、その後にさらに抜けるもう1つの意識をチームとしてやっていけると、よりスムーズな攻撃になる。当てて落として3人目、それからサイド、ってなってくれば流れは良くなる。そこはもうやり続けて、徐々にはできてきてはいるので。やっぱり祐也もキャンプ途中からいなかったので、連係の部分はみんな1からだから。そこはやり続けるしかない」

今の名古屋の強みは何か…

 ポジティブな見方をすれば、新潟戦の名古屋はその前の2試合に比べてかなり闘えてはいた。走行距離の多さは相手のポゼッションへの対応によって増えた感覚もあるが、走れているという数字は彼らに闘う力があることの裏付けにはなる。

 次はその運動能力をよりポジティブな守備とアグレッシブな攻撃につなげていくことで、おのずと今季の初得点、初勝点、初勝利は近づいてくる。2024年の編成を基にした戦い方を何度でも反芻し、対戦相手への対策以上に自分たちのやるべきことを徹底して見つめ直し、認識をし直す。今の名古屋の強みが何か、何ができている時に自分たちのシステムは稼働するのか、その効率を上げていくには何が欠かせないのか。3連敗を喫した相手はどれもそこが明確なチームばかりだった。だからこそ名古屋とのコントラストは鮮やかに過ぎた。

 連敗を止めるにはまず闘うことだとは思う。泥臭く、執念深く、一分の隙も見逃さずに勝つことだけを考えるのが重要ではある。だが、そのためにも名古屋は名古屋らしく闘うことを忘れてはいけない。されど3試合と言われても、残り試合はまだ多い。歯車が噛み合う時のためにも今は力を蓄える。結果と内容のバランスを、大局観をもって捉えているのが現段階だ。悠長なことは言っていられないが、雌伏とにらんで前進するしか彼らの打開の道はない。

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今井雄一朗

いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。

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