三笘への“悪質プレー”…退場選手にさらなる処分も? 元主審が言及「日本と明確に違う」【解説】
【専門家の目|家本政明】プレーの“危険度”に警鐘「軸足だったら絶対に大怪我になっていた」
イングランド1部ブライトンの日本代表MF三笘薫は、2月18日に行われたプレミアリーグ第25節シェフィールド・ユナイテッド戦(5-0)で悪質なタックルを食らう場面があった。危険プレーを行った相手DFには一発退場が命じられたなか、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏がプレーの“危険度”と今後の処罰について解説している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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問題のシーンは前半11分に起こった。三笘が左サイドで得意のドリブル突破を仕掛けた際、相手DFメイソン・ホルゲートが足裏を向けた激しいチャレンジ。主審はホルゲートへ当初イエローカードを提示したが、ここでビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が介入。オンフィールドレビューで確認された結果、ホルゲートは一発退場となった。
VARのリプレイ映像では、三笘の左膝を相手の足裏が鋭く捉えている。接触後、しばらく三笘は痛がる様子を見せていたが、幸い大きな怪我にはつながらず後半31分までプレーを続けた。
試合序盤に起こったヒヤリとするシーンについて家本氏の所感は「大怪我にならなくて本当に良かった」という安堵だったという。「あんなにやばいレッドカードは久々に見た。多少勢いを逃がしているが、三笘選手の足はやっぱりぐにゃりと曲がっている。かなり勢いがあったし、軸足だったら絶対に大怪我になっていた。下手したら膝の靭帯とか、半月板とか持っていかれる。本当に危険なチャレンジだった」と三笘の状況を心配していた。
一方で「ある意味プレミアっぽいプレー」とホルゲートのタックルに言及。「ボールに行った結果、(三笘と)接触するけれど、ああいう(危険な)行き方は日本では見ないけど、プレミアでは時々見かける」と、足を上げて飛び込んだ無謀さに驚いている。
「あの状況でなかなかあんなに足は上がらない。試合序盤だし、三笘選手に対して『厳しくいこう』というような……。あくまでもボールにプレーしようという意図はあるけど、それだけじゃない意図はやっぱりあったと思う。もちろん(三笘を)傷つけようという思いがあったかどうか僕には分からないけれど、少なくとも三笘に厳しいプレッシャーを与えてやろうとか、最初ガツンといってやろうという意識もあったように感じる」
膝のあたりまで足が上がったため、より大きな危険にさらされた三笘。ブライトンの警戒する選手だからこそ、ホルゲートも厳しくマークする意識が多少なりともあったのかもしれない。
実際ファウルを最初に“認知”したのは、バックスタンド側の副審の可能性?
三笘とホルゲートの接触シーンでは、少し間を置いて主審が笛を吹いた。プレーが少し流れてから笛の音でゲームが止まり、イエローカードがホルゲートに示される。その後VARの介入がありレッドカードに判定が変更された。こうした背景に加え、審判団と事象の位置関係から、最初にファウルを確認し助言したのはバックスタンド側の副審ではないかと家本氏は推測する。
「レフェリー側のアングル映像では、綺麗にボール(にタックル)にいっている印象を強く持つ。ただ、斜め後方のバックスタンド側の副審がいる。そちら側からは相手がボールに触れた後、明らかに膝上ぐらいにタックルにいっていると分かるはず。僕の仮説ではおそらく、その副審側から助言があり、懲戒罰に値することが情報として主審に伝えられたのだと思う」
主審とプレーの位置関係から「実際の試合中で主審があのシーンを正しく見極めるのはほぼ不可能」だと家本氏は指摘。「唯一そのあたりの状況が掴めるのが、斜め後方から事象を見られるバックスタンド側の副審であり、VARだけ」と語っている。
選手への処罰「Jリーグは懲戒罰の処分が甘い」
三笘への悪質プレーで一発退場となったホルゲートだが「1試合出場停止レベルのタックルではないと思う」と、家本氏は今後重い処分が下されることを予想する。
「ヨーロッパ(特にプレミア)は本当に選手のことを守るから、処分(罰金や出場停止などのペナルティー)がかなり厳しい。今回はそのレベルに十分値するタックルだった。実際どうなるかはまだ分からないが、処分は重いと思う」
そう話すなかで家本氏は、欧州とJリーグの処罰の違いにも言及。「Jリーグは懲戒罰の処分が甘い傾向にある」と指摘し、欧州が処分の重さを重視するのは「『選手の安全を脅かすプレーは二度とするな』というメッセージ」が大きいと話す。
「例えば今回の件でもし“1試合出場停止”の処分だったなら、当該選手への抑止力があまりない。彼ら(欧州)は選手の安全を守るため、またマーケティング面でもダーティーなイメージを消したいという思いから処罰が厳しい。プレミアも激しさを歓迎するけど、それが一歩間違った場合は規律も重い。何が良いか悪いかははっきりと区別できないが、ヨーロッパは日本と明確に違う」
“選手の安全を守る”。激しいサッカー競技において運営に課せられた重要なミッションの1つだ。Jリーグでは昨季、ヴィッセル神戸MF齊藤未月が試合中の接触で全治1年見込み(左膝関節脱臼、左膝複合靱帯損傷、内外側半月板損傷)の大怪我を負った例もある。2月23日にはJリーグも2024シーズンが開幕を迎えるなか、できるだけ安全に試合が進み、観客も安心して楽しめる環境となることを家本氏は望んでいた。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。