メッシが極めた“動かないプレー” 日本サッカーと真逆の境地「走ることが目標になってはいないか?」

神戸戦の後半途中から出場したリオネル・メッシ【写真:徳原隆元】
神戸戦の後半途中から出場したリオネル・メッシ【写真:徳原隆元】

極寒を吹き飛ばしたメッシの熱狂の30分間

 米メジャーリーグサッカー(MLS)のインテル・マイアミは2月7日、国立競技場でヴィッセル神戸と対戦。0-0の末、PK戦を神戸が4-3で制した。アルゼンチン代表FWリオネル・メッシは後半15分から途中出場すると、格の違いを見せつけるパフォーマンスで極寒のスタジアムに観客2万8614人の熱狂をもたらした。

 今回のプレシーズンツアーで内転筋の違和感を抱えていたメッシは、4日に中国で行われた香港選抜戦に引き続き、神戸戦の欠場が懸念されていた。メッシがベンチスタートとなった試合は、序盤から神戸が幾度となく決定機を演出し、インテル・マイアミは一方的に押し込まれる展開に。しかし、地響きのような観客からの歓声を背に、後半15分にピッチに投入されると、試合の流れは一変。全ての攻撃でメッシが起点となり、神戸のゴールに迫る場面が急増した。

 試合終了までの約30分間に及ぶメッシのプレーを記者席から見ていて感じたのは、「やはり意図的に“動かないプレー”に徹している」という印象だった。トップ下気味にポジショニングを取ったメッシは、歩きながら神戸の守備陣をしばらく観察している様子で、裏を取るような走り込みや、相手へのプレッシングなどをあえて避け、極力動かずにいた。これはスター選手ならではの怠慢でも、年齢による運動量の低下でもなく、バルセロナ時代の全盛期から築き上げた“プレー”だ。

 しばらくすると、ポゼッション時にメッシは深い位置でボールを受けるようになり、神戸側の右サイドバック(SB)とセンターバック(CB)の間、インテル・マイアミ側から見るとペナルティーエリア左の位置にスルーパスを供給し始めた。また、パス&ゴーから左斜め上へ駆け上がるダイアゴナルランや、左のハーフラインのドリブル突破から決定的なシュートを放つなど、同じスペースを突くプレーが目立っていた。

 おそらくメッシは観察の末に、神戸攻略の糸口をそのテリトリーに見出したのだろう。実際、インテル・マイアミはその位置からのビッグチャンスが立て続いた。どうしてもメッシに対し、スキルやドリブル、シュートに目がいきがちだが、メッシをメッシたらしめる最大の能力は、この“観察眼”にあるのではないかと、直接目にして改めて実感した要素だった。

「時に動かないプレーが効果的だったりする」

 もしも日本人選手であれば、どれだけ足元の技術に長けていても、ピッチを悠然と歩き続けることは決して許されないだろう。目の前にスペースがあれば走り込む。目の前でパスを回されていたらプレッシングをかける。それを怠れば「走れ!サボるな!」と声が飛んでくるのは、仕方のないことだ。

 しかし、常に動いていることが勝利の必須条件とは限らない。現地取材に来日していた米メディア「THE ATHLETIC」のパウル・テノリオ記者は「神戸の選手たちは前線のアタッカー陣も必死にハイプレスをかけ続け、絶えず走り回っていて献身的な印象を覚えた」と称賛しつつ、「ただ、走ること自体が目標になってはいないかな? もしそうであれば、チャンスを損失する機会も出てくるだろう。相手を仕留めるためには、時に動かないプレーが効果的だったりするものだ」と語った。

 神戸に問わず、日本代表も献身性とハードワークを徹底した“全員サッカー”で実績を積み上げてきた事実はあり、メッシという“特別な才能”だけが許された特権とも言えるかもしれない。それでも、例えば今回のアジアカップで日本を撃破したイラン代表も攻守にわたる並外れた運動量を誇っていた一方、エースのFWサルダル・アズムンはあえて縦横無尽に動きすぎないことでチャンスが生まれていた局面も多々見受けられた。“全員が懸命に動き回る常識”を一度見直してみることにも、何かしらのヒントは眠っているのかもしれない。

(城福達也 / Tatsuya Jofuku)



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