J2・J3今オフ移籍動向「当たり」期待の補強7選 清水のベテランGKが岩手へ…甲府が強力助っ人獲得【コラム】

(左から)矢島慎也、ファビアン・ゴンザレス、大久保択生【写真:Getty Images】
(左から)矢島慎也、ファビアン・ゴンザレス、大久保択生【写真:Getty Images】

抜群の効果が期待できる7つの補強をピックアップ

 2024年を迎え、J2、J3リーグ各クラブの編成も佳境に入っている。今オフ、ここまで数々の移籍が成立されてきたなかで、ここでは筆者独自の視点で、抜群の効果が期待できる7つの補強をピックアップして紹介する。

■小松 蓮(FW/ブラウブリッツ秋田←松本山雅FC)

 質実剛健な吉田謙監督のサッカーに“ラストピース”が加わった。秋田の特長はシンプルな展開からのサイドアタックにある。前線でハードワークしながらターゲットになる選手はいるが、2桁ゴールを約束するようなフィニッシャーがいなかったことが、昨季J2でワーストタイの37得点にとどまった原因だ。19ゴールでJ3得点王になった小松を獲得できたことの意味は大きく、しかもヘディングで9得点という特長も非常にマッチしている。「小松に点を取らせる」という形をチームで共有できれば矢印がより明確になり、相手ディフェンスが警戒すれば周りが空いてくるなど、相乗効果も期待できる。

■矢島慎也(MF/清水エスパルス←レノファ山口FC)

 J1昇格が大目標となる清水にとって心身両面で効果的な補強になりそうだ。清水は1人1人の個人能力が高い分、局面で個の力に頼りがちな傾向がある。矢島はボールを扱う技術が高いだけでなく、中盤から前線にかけて流動性を引き出すことができる。また山口で中盤を組んでいた成岡輝瑠の復帰も連係面で、相乗効果になるはず。ただし、彼らを円滑に生かすためには中盤の底に重石が居る。白崎凌兵や鹿島アントラーズから期限付き移籍で加入した中村亮太朗にはバランスワークも期待される。4-3-3をオプションに組み込む場合、宮本航汰の重要性が高まるかもしれない。加えて矢島に期待したいのがリーダーシップ。普段から口数が多いタイプではないが、チームが勝つための発言を厭わない。いわゆる“嫌われ役”になれる選手だ。

■ファビアン・ゴンザレス(FW/ヴァンフォーレ甲府←ジュビロ磐田)

 磐田では契約問題が補強禁止につながってしまったこともあり、後味の悪い印象は拭えないが、縦の推進力、ボックス内での迫力と、持っている能力に疑いの余地はない。3シーズンで10得点という数字を見ると物足りないが、出場時間で換算すると2試合に1点は期待できる計算になる。昨シーズンは5月上旬まで出場停止だったことに加えて、夏場のコンディション不良でほとんど稼働できなかった。新天地でキャンプからコンディションを上げていければ、甲府の前線に爆発力をもたらせるはずで、なにより楽しみなのはACL(AFCチャンピオンズリーグ)でのノックアウトステージだ。日本語習得にも熱心で、真面目なキャラクターでもある“ラッソ”が甲府にフィットすることを期待したい。

■横山暁之(MF/ジェフユナイテッド千葉←藤枝MYFC)

 藤枝のサポーターからすれば、移籍するならJ1に個人昇格してほしかったというのが本音かもしれない。しかし、長らくJ1から遠ざかる千葉にとって、間違いなくプラスになる補強だ。見木友哉の東京ヴェルディ移籍で、いわゆる“10番タイプ”の穴埋めが急務だったなかで、横山は見木と似た役割をこなしながら、周りの選手も生かせる。それは昨シーズンの成績(見木:7得点3アシスト/横山:6得点8アシスト)からも明らかで、直接アシストが付かなくても、多くのゴールに関与している。エース小森飛絢の得点数を大きく伸ばすキーマンにもなり得るだろう。正直、J2でプレーするのは勿体ないが、裏を返せば、そうした実力者の有無がJ1昇格への命運を左右する。その意味でもスーパーヒットになり得る補強だ。

34歳の守護神・大久保は清水から岩手へ、守備安定化へ期待

■橋本健人(DF/徳島ヴォルティス←レノファ山口FC)

 山口からの期限付き移籍先だった昨シーズンの横浜FCでは、序盤戦こそボールを動かしながら主導権を握るサッカーにトライできたものの、残留争いの佳境で守備的な戦いにシフトせざるを得なかった。アカデミー育ちの橋本はその最大の犠牲者とも言えるが、徳島はリカルド・ロドリゲス、ダニエル・ポヤトス、ベニャート・ラバインと受け継がれきた、自陣からボールをつないで攻めるスタイルを現在の吉田達磨監督が継承している。左利きで、サッカーIQの高い橋本はビルドアップからチャンスメイクまで、幅広く攻撃に関われるタレントで、徳島には非常にマッチしている。守備は得意ではないが、山口時代にレベルアップ。粘り強く対応することは可能だ。攻守の切り替えやアップダウンが激しくなると特長は生きないが、徳島で大ブレイクするポテンシャルは十分に備えている。

■浅川隼人(FW/松本山雅FC←奈良クラブ)

 霜田正浩監督の下、2シーズン目を迎える松本で大車輪の働きが期待される。今オフに昨シーズン19得点のエース小松蓮がブラウブリッツ秋田に移籍。その穴埋めとして迎えられた浅川は、昨季16得点の勝負強さ以外でもチームに多くのものをもたらせる。守備強度が高く、オフ・ザ・ボールの動き出しに優れるのも魅力で前線なら左右中央、どこでもこなせる柔軟性も大きな強みだ。霜田監督は3トップに加え、2列目の“10番タイプ”を加えた4人がゴールとアシストで20得点に絡むプレーモデルを設計している。浅川が2桁ゴールを記録しながら、残る3人の得点数やアシスト数を引き上げるのも十分可能だろう。リーダーシップも発揮でき、ロアッソ熊本時代には個人営業でスポンサーを取ってくるなど、ピッチ外の活動や振る舞いも若手の良い見本になり得る。

■大久保択生(GK/いわてグルージャ盛岡←清水エスパルス)

 昨シーズン10位の岩手が昇格争いに加わっていくために、J3でワースト6位だった失点数(49)を減らすのは必須だろう。そうした側面からも百戦錬磨の大久保は打って付けの人材で、チームを引き締めるという意味でも心強い。清水では権田修一とポジションを争いながら、昇格プレーオフでは数々のビッグセーブで存在感を示した。もちろんシュートストップでも頼りになるが、チームのディフェンスをうしろからオーガナイズする能力も失点減への一助となるだろう。34歳とベテランながら、40歳が本当のピークと言われるポジションだけに、V・ファーレン長崎から加入した37歳の都倉賢とともに、岩手の成長を支えていく選手になりそうだ。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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