今季J1「期待以上&期待外れ」クラブを考察 勝負強さが光った福岡…リーグで苦戦も来シーズンへ“好材料”を残したのは?【コラム】
タレント揃える神戸が示した強さ、初タイトル獲得の福岡や“昇格組” 新潟も躍進
2023年のJ1リーグは、ヴィッセル神戸の優勝で幕を閉じた。降格クラブが1つというイレギュラーな面もあった今シーズンを振り返り「FOOTBALL ZONE」では、「Jリーグ通信簿」の特集を展開。今回はJ1クラブに焦点を当てて“期待以上&期待外れ”だったクラブをそれぞれ3つずつ厳選し、考察していく。(文=河治良幸)
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
◇ ◇ ◇
【期待以上】
■ヴィッセル神戸 最終リーグ順位:1位
優勝クラブなので選出は当然だが、全体がボールを動かしながら、位置的優位を取りに行く傾向にあって、昨シーズン残留争いに巻き込まれた神戸はプレアグマティックな観点から、勝利から逆算したハイプレスと前向きな攻撃を繰り出すダイナミックなスタイルでJ1を席巻した。
得点王とシーズンMVPに輝いたFW大迫勇也なくして神戸の躍進は語れないが、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳、そして怪我で離脱してしまったが齊藤未月という“コア5”を軸に、日本代表に選ばれたGK前川黛也やアカデミー育ちのMF佐々木大樹などもリーダーシップを発揮して、酒井いわく「頼もしい存在」になっていった。
また終盤には齊藤、さらには山口を欠いた中盤で、横浜FM時代にリーグ優勝を経験しているMF扇原貴宏が奮起するなど、チームとしての厚みは開幕時とは全く違うものになっていることも高評価できる。マリノスに次ぐ60得点を叩き出した攻撃陣も、長いシーズンを振り返れば大迫や武藤のパフォーマンスが落ちた時期もあったが、何とか踏みとどまったのは粘り強いディフェンスだった。
補強が完璧だったと言い難いなかで、高強度を押し出すスタイルは消耗が激しかったのは間違いない。その中でもDF本多勇喜や井出遥也のように、派手さはなくてもマルチタスクをこなした選手たちがいなければ、この優勝は成し遂げられなかったはず。来シーズンはACLエリートなど、過密日程を見越した補強で選手層を厚くすることは絶対条件となるが、過去2度ACLに出たシーズンと違い、リーグ戦とセットで好成績を残すための挑戦に期待したい。
■アビスパ福岡 最終リーグ順位:7位
昨シーズンは14位から大きく順位を上げた。勝ち点も+13となっている。FC東京から紺野和也、セルティックから井手口陽介を獲得するなど、クラブが長谷部茂利監督をサポートして、ルヴァンカップ(杯)の優勝とリーグ7位という好成績を勝ち取った。
福岡というと堅守速攻のイメージは強いが、無失点勝利を理想とする長谷部監督は守備のベースを崩すことなく、機を見て前に攻撃人数をかけるなど、勝ち点3を取り切るためのアプローチを追及したことが、カップ戦での強さにもつながった。13勝のうち、1点差勝ちが実に11という勝負強さも光った。
■アルビレックス新潟 最終リーグ順位:10位
日本代表にも選ばれたGK小島亨介を起点に、丁寧なビルドアップと中盤のボール奪取からの鋭いサイドアタックを使い分けて、“昇格組”ながら前半戦の台風の目に。4月下旬から5月にかけて3連敗した時期は苦しんだが、熱意ある指導者として知られる松橋力蔵監督の信頼に応えて、選手たちは“日替わりヒーロー”のように活躍を見せた。興味深いのは持久力。前半の得失点差が-9なのに対し、後半は+5で、最後まで走り負けない持久力、として松橋監督のマネージメントも素晴らしかった。
川崎はリーグ戦で苦戦も…天皇杯タイトル獲得など好材料も
【期待外れ】
■川崎フロンターレ 最終リーグ順位:8位
過去6年間で4度の優勝を誇っていた川崎。だが、この数年に多くの主力が欧州移籍でいなくなったことに加えて、キャプテンだった谷口彰悟もカタールのアル・ラーヤンに移籍。戦力的なサイクルの過渡期にあるなかで、ディフェンスの整備に苦労した。これまで以上に可変性を取り入れるなど、鬼木達監督はビルドアップの再構築も目指したが、フィニッシュと上手く噛み合わず。
そこに守備的な選手の怪我が重なって、前半戦では二桁順位も経験した。しかし、長い“停滞期”を乗り越えて秋口に反転すると、10月以降は公式戦10試合負けなし。リーグ戦でじわじわと順位を上げながら、これまで“鬼門”と言われてきたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)では厳しい組に入りながら、Jリーグ勢でグループステージ突破の一番乗りを果たすなど、面目躍如の上昇を見せている。シーズンの締めくくりとなる天皇杯の決勝でタイトルを獲得し、来シーズンに良い流れを持ち越せるか。
■サガン鳥栖 最終リーグ順位:14位
川井健太監督の2年目、選手の入れ替わりが激しいクラブにあって、トップ契約17人の選手が残り、そこに樺山諒乃介、横山歩夢など、個人で勝負できるアタッカーを加えるなど、期待感のあるキャンプを過ごしていた。しかし、主力として期待された選手に数多くの怪我人が出るなど、メンバーが揃わないままギアを上げることができず。川井監督は「今いる素材で最高の料理を作る」という言葉を強調していたが、選手の離脱や浮き沈みはチーム全体の強度にも影響したように見える。
また3-4-2-1と4-2-3-1を可変するスタイルが相手に読まれやすくなるなかで、川井監督が“直球”と表現するオーソドックスな攻撃なども織り交ぜてチームの幅を広げようとしたが、8月以降の勝利は9月30日の京都サンガF.C.戦(3-2)のみと、昨シーズン終盤戦の失速を今年も克服できなかった。ただ、この1年間で間違いなく成長した若手もおり、軸となる戦力をどれだけ残して、新たなパワーを加えられるか。また全体的なプレー強度で相手を上回れなかったことを踏まえて、フィジカル面の改善もキャンプからテコ入れしていくべきか。
■ガンバ大阪 最終リーグ順位:16位
昨シーズンは終盤戦に指揮を引き継いだ松田浩前監督が、徹底した堅守速攻で奇跡的な残留に導いた。ダニエル・ポヤトス監督のもとでリスタートを切った今シーズンだが、ビルドアップは様になってきても、そこからフィニッシュに持ち込むところで、個人頼みを脱却できず。ボールを奪われた時のトランジションも悪く、簡単に裏返されて失点危機を招くことを繰り返した。またリズムよくボールを握れていても、即時奪回やセカンドボールの回収ができないので、自陣まで戻されてしまいうことも多く、波状攻撃ができなかった。
得失点差は最下位の横浜FCの次に悪い-23。引き続きポヤトス監督が率いるなかで、戦術面のアップデートはもちろんだが、フットボールの原点である「走る」「戦う」という意識を変えないと、20クラブ構成で、下位3クラブが自動降格する来シーズンを生き抜くのは難しい。リーダーシップのある選手を補強することも必要かもしれないが、誰か1人に頼るのではなく、前向きに要求し合う集団になっていくことが求められる。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。