U-17W杯からA代表へ―引き継がれる世代のバトン 南野、久保らが高めてきた国際舞台の歴史【コラム】
南野拓実や中島翔哉らが躍動した“94”ジャパンから流れが変化
かつてU-17ワールドカップ(W杯)を目指す日本代表はA代表に直結しないと言われてきた。その潮目が変わったのが“94ジャパン”と呼ばれた2011年のU-17W杯だ。メキシコで行われた大会は移動や現地の気温など、今思い返してもタフな環境だったが、ベスト8に躍進し、惜しくもブラジルに敗れたチームから中島翔哉、南野拓実、中村航輔、室屋成、植田直通、鈴木武蔵といった選手がA代表まで上り詰めた。
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そのほか、横浜F・マリノスのキャプテンを担う喜田拓也など、大半の選手がJリーグの第一線で活躍するなど、アンダーカテゴリーからの積み上げを目指してきた日本サッカー協会(JFA)にとっても、1つの転換期となったことは間違いない。その“94ジャパン”を率いていた吉武博文監督は当時の鈴木武蔵に象徴される、粗削りでも個性があり、将来の伸びしろが見込めるタレントをトレセンなど、全国のネットワークから発掘して組み込む作業に精力的だった。
それまでもエリート育成というのは行われてきたが、ある意味、育成年代の見本としての意味合いが強く、スカウティングの段階で将来性のあるタレントを発掘できていなかったり、トレセンやU-17W杯を目指す過程で招集はしても、その時点で完成度の高い選手が優先されて、重要な最終予選や本大会に選ばれなかったりと言ったことが繰り返されていたのだ。
現在もアンダーカテゴリーの代表は育成の指標としての存在意義は多分にあるが、U-20日本代表、五輪代表、そしてA代表まで監督やスタッフが情報共有をしながら、A代表に通用する選手を下の年代から育てていこうという壮大なプロジェクトの中にU-17日本代表も組み込まれている。その流れから見ても吉武監督が引き続き率いた“96ジャパン”はポゼッションにこだわったチームだった。
“94ジャパン”に比べるとチームの戦術的な完成度は高かったが、選手の個性という意味では疑問符の付くメンバー構成だったことは否めない。2013年のU-17W杯を経験したメンバーから三竿健斗や三好康児がA代表になった一方で、井手口陽介や北川航也など、過程では招集されながら本大会から外れた選手の方が、上の年代やA代表で活躍する事例が多い世代となった。
引き続き吉武監督が率いた“98ジャパン”がU-16選手権で韓国に敗れて、2015年のチリ大会出場権を逃すと、サンフレッチェ広島ユースなどを指導してきた森山佳郎監督にバトンが渡された。ただ、この“98ジャパン”は世界大会に出られなかったメンバーが、悔しさをその後の成長に繋げたという意味では注目に値する。ここから冨安健洋、堂安律、田中碧という現在のA代表を支えるタレントが輩出されたことは軽視できない。
ただ、U-17代表の位置付けをさらに高める意味合いにおいて、2017年にインドで行われたU-17W杯を経験した“00ジャパン”は2011年の“94ジャパン”に勝るとも劣らないインパクトがあった。久保建英というバルセロナ帰りのタレントを擁していたことも大きいが、A代表を目指すだけでなく、ここで評価を高めて海外でステップアップするという野心を持った選手が明らかに増えたのが、この年代だったのだ。
そういうギラギラした選手の集まりだった“00ジャパン”はラウンド16でイングランドに敗れて大会を去ることになったが、延長線の末PK戦負けという結果以上に力不足を感じた選手たちにとって「イングランド戦を忘れるな」というのは合言葉になって、U-19やU-20の日本代表、さらに東京五輪、A代表へとつながっていった。当時のメンバーからは久保をはじめ谷晃生、菅原由勢、鈴木彩艶、中村敬斗が、すでにA代表を経験している。
森山監督は強烈な個性を引き出しA代表へつなげる―“06ジャパン”にも期待
“ゴリさん”の愛称で知られる森山監督は選手の才能だけでなく、そうしたギラつきを見逃さない指導者であり、ある意味で尖った個性も組み込む度量を持っており、メンバー選考にも反映されている。
森山体制が引き続き指導した“02ジャパン”はその流れを引き継いでいる。まだA代表の主力を張るような選手は出てきていないが、飛び級で前回大会を経験した鈴木彩艶をはじめ、藤田譲瑠チマが昨年のE-1選手権でA代表を経験。また半田陸が今年3月のA代表で、試合にこそ出なかったが、いわゆるフルメンバーのA代表に名を連ねた。さらに三戸舜介、鈴木海音、中野伸哉、畑大雅、田中聡、西川潤、野澤大志ブランドンなどがパリ五輪を目指す“大岩ジャパン”に招集されており、ゆくゆくA代表経験者が“00ジャパン”を超える可能性もある。
森山体制の3期目となる“04ジャパン”はコロナ禍で2020年にバーレーンで予定されていたAFC U-16選手権、さらに2021年のU-17W杯が無くなっただけでなく、代表でも国際経験を積むことができなかった。コロナ禍の影響は全世界にあったが、アジアの極東に位置する島国の日本はダメージが計り知れない。それでも“04ジャパン”の代表活動を通じて成長した福井太智がサガン鳥栖からバイエルン・ミュンヘンに、福田師王が高卒から直行でボルシアMGと契約するなど、選手個人のチャレンジというのも目立つ世代だ。
そうした歴史を受け継ぎ今大会に出場する“06ジャパン”にはインドネシアの地で躍進することはもちろんだが、1人でも多く上のカテゴリーにステップアップを果たし、究極的にはA代表の高みまで上り詰めてもらいたい。それと同時に、森山監督も言うように、U-17W杯の最終メンバーに残れなかった選手、そして未だアンダーカテゴリーの代表に招集経験が無くても、日の丸を夢見る同年代の選手に大きな刺激を与えるパフォーマンスを期待している。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。