中指立て、差別発言、意図的暴力…日本&世界で懸念されるプロサッカー選手の「反モラル」問題【コラム】

スタジアムの中の場面をいくつか紹介(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
スタジアムの中の場面をいくつか紹介(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

京都のアピアタウィア久が中指立ての仕草で一発退場&2試合の出場停止処分

 9月30日に行われたJリーグ第29節、サガン鳥栖対京都サンガF.C.後半アディショナルタイム5分、山下良美主審がオンフィールドレビューをするためにモニターに走り出した。そこで映し出されたのはファウルを取られた京都のアピアタウィア久が、その場所を去りながら中指を立てる場面。山下主審はためらうことなくレッドカードを出し、アピアタウィアは退場になった。

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 翌10月1日、京都はリリースを発表。クラブが「試合終了後、京都サンガF.C.の社長、監督と本人がサガン鳥栖のクラブ関係者の方々に謝罪をさせていただきました。クラブと致しましても、改めてサガン鳥栖の皆様、そして、Jリーグに関わるすべての方々にご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。今後、本人はもとより、京都サンガF.C.の全選手並びに全スタッフが改めてフェアプレー精神の大切さについて再確認を行うとともに、その徹底を図って参ります」と謝罪した。

 また、本人も「このたび、鳥栖戦での私の軽率な行動で多くの人を不快にさせてしまったことを、深くお詫び申し上げます。自分のした行為は決して許されるものではありません。今回、起こしてしまったことを深く反省し、未熟な自分から卒業できるように精進します。改めて、サガン鳥栖の選手、関係者の皆様にお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」とコメントしている(2日に2試合の出場停止と罰金20万円が決定)。

 いつもピッチの上では「戦い」が行われている。そのため、時に自分の感情を止められない選手がいる。そのためひどい反則が行われ、それが試合の流れを左右することがある。

 今回はそんな選手の「モラル」が問われた、スタジアムの中の場面をいくつか紹介していこう。

■(1)選手の唾吐き

 選手が相手に唾を吐いたという場面がはっきりと画面に映し出されたことがあった。しかも最もインパクトが強い、ワールドカップ(W杯)の強豪同士の戦いでの出来事だった。

 1990年6月24日、ベスト16で対戦した西ドイツ対オランダで、西ドイツのルディ・フェラーとオランダのフランク・ライカールトは序盤から激しくぶつかり合う。そしてついに前半22分、両者は退場処分となってしまう。

 問題はここから。フェラーがロッカールームに戻っている横をライカールトは通りながら唾を吐きかけたのだ。フェラーは何かがかかったのを意識して髪に手をやるが、ライカールトはそのまま知らないふりをして追い越していった。

 これがバッチリテレビの映像として配信されてしまった。ライカールトに非難が集まったのは仕方がないが、「フェラーがライカールトに人種差別発言を行った」とも噂されている。

 ライカールトはその後オランダ代表、スペイン1部FCバルセロナなどで監督を務めた。フェラーも引退後はドイツ代表の監督を務め、今年9月12日、フランスとの親善試合で1試合限定のドイツ代表監督に復帰している。

選手が主審を追い回した事例が過去に日本で発生

■(2)主審の追い回し

 試合後に選手が審判を追い回すという、とんでもない出来事が日本で起きたことがある。

 1985年6月6日、キリンカップの決勝戦でウルグアイ代表とブラジルのサントスが対戦した。この試合を裁いたのは高田静夫氏。当時の日本のナンバーワンレフェリーで、1986年メキシコW杯にも参加し、日本人として初めて主審を務めた名レフェリーだった。

 だが、時は判定に対して主審に抗議することが珍しくなかった時代。なんでもプレッシャーをかけて自分たちに有利な判定を導こうとする。しかも前半はサントスが2-1とリードする展開になり、ウルグアイの主審への詰めよりはより激しさを増していった。

 結局、試合は4-2でサントスの勝利。ところが試合が終わると同時に、ウルグアイの選手たちは主審に向かって走り出した。ただし、高田主審はその不穏な空気を事前に察していたため、ピッチの出口に近いところにいた時にタイムアップの笛を吹き、ウルグアイの選手が猛ダッシュしてくるのを尻目にサッとロッカールームに向かった。

 のちに高田主審は、国際審判員のバッジを付けていない(到着前だった)のを選手が見て、新米レフェリーだと思われていただろうと感じていたと振り返った。1986年メキシコW杯にもウルグアイは出場したが、残念ながら高田主審との接点はなかったようだ。

■(3)怪我を意図して暴力

 相手を怪我させることのみを目的にプレーすることは、最も非難されるべきことの1つ。しかも相手の選手生命を奪いかねないプレーだとするとなおさらだ。

 今でも語り草になっている、そんなファウルが行われたのは2001年4月のプレミアリーグ第34節マンチェスター・ユナイテッド対マンチェスター・シティのダービーマッチ。ユナイテッドのロイ・キーンはシティのアルフインゲ・ハーランドにボールが渡ると、左膝めがけて足の裏から向かって行った。このプレーでハーランドは大怪我を負い、その後手術を受けたが完治せず、2003年に引退している。

 もっともこれには伏線があり、1997年にハーランドはロイ・キーンが負傷して倒れていた時、近くまで行って大声でキーンを罵った。ところがこれが大怪我で、前十字靱帯を損傷したキーンは1年近く試合復帰ができなかったのだ。

 のちに出版した自伝の中で、キーンはこれが告白のファウルだったことを告白。出場停止と罰金を受けた。なお、ハーランドの息子がザルツブルクで南野拓実(現ASモナコ)とともにプレーしていた、現マンチェスター・シティのアーリング・ハーランドだ。

選手が選手に向かって発する言葉は音声に残らず検証は困難

■(4)観客への暴力

 暴力行為はいかなる時も許されるものではないが、そのなかでも選手が観客に暴力を振るうというのは度を超えている。

 1995年1月、マンチェスター・ユナイテッドのエリック・カントナはプレミアリーグ第26節クリスタル・パレス戦でユニフォームを引っ張られた報復行為で退場処分を受けた。そして、ロッカールームに向かう途中、観客席にいたクリスタル・パレスのファンから罵声を浴びせられると、激怒。「カンフーキック」で跳び蹴りをすると、そのままパンチも浴びせた。

 カントナには8か月間の出場停止に加えて3万ポンド(約540万円)の罰金が科されたが、暴言を吐いたファンも前科などが明らかになり、1年間のイングランドおよびウェールズのスタジアム立ち入り禁止となった。

■(5)試合中の差別発言

 実はここまでの「反モラル」的な行動は、近年トップリーグでは急激に減っている。その大きな理由は、テレビカメラがたくさん入っていること。何をしていたかしっかり映像が残り、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)があると主審が見ていなかったとしても、その場で反則を宣言されることになるのだ。

 だが、それでも防げない「反モラル」的な行動がある。それは試合中の相手選手に対する暴言。観客が選手に向かって差別的なチャントをすれば、それは映像とともに残る。だが選手が選手に向かって何かを言っても映像は残るものの音声は残らないのだ。

 2023年4月、米メジャーリーグサッカー(MLS)のニューヨーク・レッドブルズに所属するベルギー代表ダンテ・バンゼイルがサンノゼ・アースクエイク戦でジェレミー・エボビスに向かって差別発言。6試合の出場停止を受けるとともに罰金や更生プログラムを受けることになった。

 バンゼイルはベルギー1部ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズで三笘薫、町田浩樹とともにプレーしていた選手で、ここでは人権意識の低さが明らかになった。

 ほかにも酒井宏樹がフランス1部マルセイユに所属していた2020年、パリ・サンジェルマンのネイマール(現アル・ヒラル)が試合中に人種差別を受けたと主張し、逆にネイマールが酒井に対して差別発言を行った可能性も指摘されていた。

 今のままではサッカー選手はみんなマイクを付けてプレーしなければいけなくなってしまうかもしれない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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