アトレティコが突いた“アラバの背中” レアル撃破のヘディング3発に隠された巧みな駆け引きとは?【コラム】

マドリードダービーでヘディングシュートを決めるアトレティコのモラタ【写真:Getty Images】
マドリードダービーでヘディングシュートを決めるアトレティコのモラタ【写真:Getty Images】

アトレティコがレアルに3-1勝利、モラタとグリーズマンがヘディング弾

 ラ・リーガ第6節、アトレティコ・マドリードとレアル・マドリードのダービーマッチは3-1でアトレティコが勝利。アトレティコの3ゴールはすべてヘディングシュートだった。

 先制点は左サイドからのリノのクロスにアルバロ・モラタが合わせた。リノが切り返して右足にボールを持ち替えた瞬間、モラタはレアルのセンターバック(CB)ダビド・アラバの背中側で走り出し、そこへリノのクロスボールがぴたりと届けられている。

 2点目もリノのクロスから。モラタがニアポストへ動いてアラバを引きつけ、中央にアントワーヌ・グリーズマンが走り込んで決める。

 3点目は再びモラタ。アラバの背中側からニアへ動くと見せて動き直し、アラバの背後へ回ってフリーでヘディングシュートを叩き込んだ。

 3ゴールすべて、アラバの背中側でヘディングが決まっている。ただ、アラバのミスとは言い難い。DFはクロスボールが蹴られる瞬間にはボールを注視するので、背後の動きを察知するのはまず不可能なのだ。

 1点目は背後で動いたモラタを捕捉するのは無理で、モラタの動きにぴたりと合わせたリノのキックの精度を褒めるしかない。あとの2ゴールは、いずれもアラバがニアを消しにいって背後を突かれているので、アラバの背後を守る味方DFがいなかったことが問題だろう。

 ヘディングシュートは長身のFWが高さにモノを言わせて決めるイメージがあるかもしれないが実際にはそうでもない。アトレティコの3ゴールもすべてフリーの状態でヘディングしていてDFとの競り合いは発生していない。競り合う前に勝負がついていた。

 高さに関係があるとすれば3点目のケースだ。左からクロスが入ってきそうな場面で、アラバはモラタをマークしていた。アラバは180センチ、モラタ188センチと身長に約8センチの差がある。そして、アラバの背後にポジションを取っていたモラタは、ボールが蹴られる寸前にアラバの前に入る動きを見せている。

ポイントはタイミング、どちらに転んでもFW有利の駆け引き

 FWに自分の前へ入る動きをされると、DFはどうしてもそれに反応してしまう。クロスボールが自分の手前に来た場合、自分より打点の高いFWに先に触られる可能性が高いからだ。しかし、高さで及ばないとしても、できるだけ身体を寄せて競り合えば十分な体勢でシュートを打たせないことはできる。だからDFは自分の前に入ろうとする動きにどうしても釣られやすい。

 アラバはモラタの動きに反応したのではなく、ニアポストの前に別のアトレティコの選手がフリーで入ってきていたので、そちらを抑えに動いているのだが、もしそこに誰もいなくてもモラタの動きに反応していた可能性はあると思う。ヘディングでゴールを量産するFWが得意なパターンでもある。

 ポイントはタイミング。モラタはクロスが蹴られる直前にアラバの前へ入る動きをしている。DFがそれに釣られるとすると、ボールが蹴られた瞬間にDFは動いている。そしてモラタはボールの蹴り出しからDFの頭上を越えると予測、もう一度DFの背後へ回り込めば、動いているDFの逆を取る形でフリーになれる。

 この3点目で、アラバが動いたのはモラタに釣られたのではなく、ニアサイドを抑えるためだったが、形としてはよくあるFWの陽動に引っかかったかのようにも見えるし、おそらくモラタはそういう意図で動いていた。

 クリスティアーノ・ロナウドなども、DFの背後から前へ動き、さらに動き直して背後を取るのが上手い。ヘディングそのものはフリーで打てるので高さは関係ないのだが、高さがあるのでDFを釣れる。もし、クロスボールが手前に落ちるなら、動き直さずにそのままDFの前で打点の高さを生かしてヘディングできるわけで、どちらに転んでもFWに有利になる駆け引きである。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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