判定の「緩さ」が起こした危険プレー 元主審・家本氏が見解、堂安への“カニ挟みタックル”は「明らかに警告対象」【解説】

日本対トルコを裁いたアラード・リンドハウト主審【写真:Getty Images】
日本対トルコを裁いたアラード・リンドハウト主審【写真:Getty Images】

【専門家の目|家本政明】主審の判定基準の一貫性のなさを主張、トルコ選手に与えた影響とは

 森保一監督率いる日本代表は現地時間9月12日に行われたトルコ代表戦で、4-2の勝利を飾った。元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏は、試合を通しての主審のレフェリングに疑問を抱きつつ、試合のターニングポイントとなったシーンを挙げている。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)

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 日本は9日の欧州遠征1試合目、ドイツ代表戦(4-1)から10人の先発メンバーを入れ替えてトルコ戦に挑んだ。まずはMF伊藤敦樹のA代表初ゴールを皮切りに、MF中村敬斗がMF久保建英のシュートのこぼれを押し込んで追加点。さらには、DF毎熊晟矢のボール奪取から始まったカウンターで、中村にこの日2点目が生まれている。

 その後、トルコに守備の隙を突かれて2点を献上するも、後半から途中出場したMF伊東純也が見事な個人技でPKを奪取。自らそのPKを決めて4-2の勝利で試合を終えた。

 このゲームでは前半終盤、日本のカウンターのビッグチャンスで古橋亨梧が倒されるなど判定で疑問が浮かぶ場面も少なからず散見。古橋へのファウルシーンでは、うしろからスライディングタックルを仕掛けたMFサリフ・エズジャンにイエローカードが提示されている。

 家本氏は古橋のイエローカード誘発の場面について「日本人として(うしろからのチャレンジに)怒る気持ちは分かる」としながらも「もちろん悪いプレーだし、印象も良くない。ただ、古橋選手の前方に1人DFがいるからDOGSO(ドグソ/“Denying an Ovious Goal-Scoring Opportunity”の略。決定的な得点機会の阻止)ではない」と冷静に語った。

 そのうえで家本氏は、この試合を裁いたアラード・リンドハウト主審の全体的なレフェリングに疑問を抱いていたと語り、「古橋選手の場面より危険なタックルだった」と堂安律が相手から受けた“カニ挟みタックル”の接触を例に挙げている。

「古橋選手はたぶん相手が来ているのがある程度分かっていたと思う。どちらかというと堂安選手のシーンのほうが、後方から予想外の状態で足を挟まれた危険なタックルだった。映像で見る限り、明らかにイエローカードの対象だと思う」

 堂安のシーンに対して、リンドハウト主審は“ノーファウル”のジャッジを下している。

試合のターニングポイントは日本の3ゴール目

 後半10分頃のDF町田浩樹とFWベルトゥ・ユルドゥルムの小競り合い(町田が不用意に接触/ユルドゥルムが町田の首を掴む)にも表れているように、特にトルコ選手側はフラストレーションが溜まっていると思われる場面が試合の進行につれて増えていった。

 その原因を、家本氏は日本の3点目の場面だと考えている。「日本の3点目がこの試合のターニングポイントだった。トルコの選手から、ピッチの中盤あたりで毎熊(晟矢)選手が相手の足ごとボールをさらっていった。個人的にこれはファウルだったと思う」と、得点につながった起点シーンをレフェリー目線で振り返った。

「映像で見る限り、後方からチャレンジに行って足ごとさらった。これがファウルと判断されずにトルコの失点になりましたが、個人的にこれはファウルだったと思う。この判定で、トルコの選手はカチンときている。フレンドリーマッチだからか執拗に抗議するシーンはありませんでしたが、そのあとに連続して日本の選手にうしろから不用意に当たりに行く場面が散見した」

 この場面について家本氏は、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が行う得点の確認作業の中で、毎熊のボール奪取のシーンがAPP(アタッキング・ポゼッション・フェーズ/攻撃の開始時)に当たると指摘。もしそこでファウルと判断されていれば、日本の3点目は取り消され、トルコボールのフリーキックで再開する流れになっていたという。

 結果として、日本がこの3点目を奪ったあとに、前述した堂安への“カニ挟みタックル”が起こる。また、火の付いたトルコの反撃を受け、日本は前半44分と後半17分に失点も重ねた。

「『危ないな。なんでファウル取らないのかな』というシーンがたくさんあった。試合を通して、レフェリーの判定の基準がブレブレだし、危険なところを抑えられていないと感じた。間違いなく3点目がこの試合のキーポイントで、あそこがファウルではなく得点と認められたから、そのあとに荒いチャレンジがトルコから起こったのだと思う」

 家本氏はリンドハウト主審の判定について「基準が最初から全体的に緩かった」と指摘。「1試合目(ドイツ戦)のレフェリーと比較しても判定、懲戒罰の基準については疑問が残る」と話し、「もし怪我などに配慮した安定したレフェリングだったなら、堂安選手へのタックルが警告じゃないってことはあり得ないですし、ここまでトルコ選手がイラっとすることもなかったのではないか」と、個人的な見解を述べていた。

家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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