ドイツがサッカー界トップ集団から脱落危機? 日本戦惨敗→監督解任で漂う母国の危機感【現地発】
日本に1-4で敗れ、フリック監督を即時解任
9月の国際試合2試合を迎えるにあたり、ドイツメディアでは当面、ハンジ・フリック監督が解任される可能性は低いと捉えていた。
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昨冬のカタール・ワールドカップ(W杯)で日本代表に敗れるなどしてグループリーグ敗退に終わったあとのドイツ代表の戦績は5戦して1勝1分3敗と低迷していた。しかし、フリック監督自身はこれまでの過程を来年に予定されている自国開催の欧州選手権(EURO)へのステップアップの時期だとし、9月の日本代表とフランス代表の2試合を経て10月のアメリカ遠征でチーム状況を着々と整えると明言していたからだ。
また、ドイツサッカー連盟(DFB)は123年の歴史の中で代表監督を解任したことがなく、常に重要な大会を節目に次なる指揮官へとチームを移譲する形を執ってきた。また、そもそもこの時期にフリック監督を解任しても、約9か月後に迫ったビッグタイトルの欧州選手権で優勝に導ける、DFBのお眼鏡に叶う指導者と目されているユルゲン・クロップ氏(リバプール監督/イングランド)やトーマス・トゥヘル氏(バイエルン・ミュンヘン監督)などがフリーの身ではないことも、フリック監督留任の骨子となっていた。
日本代表とのリベンジマッチについても、当初は重く捉えていなかった節がある。ドイツメディアの間ではカタールで敗戦を喫した相手として日本の実力を過小評価してはいなかったが、それでも日本戦はW杯準優勝国であるフランス代表に向けたテストマッチの意味合いがあり、たとえ日本とのゲームが拮抗した内容になったとしても、フランスとのゲームで勝利すれば世間の評価も一変するという見方があった。
しかし、結果は周知の通り1-4という衝撃的な敗戦に終わった。しかも、その試合内容も日本にゲームをコントロールされるなかで守備が決壊し、攻撃では激しく攻めあぐねるという惨憺たるものに終始した。試合後のドイツ側のミックスゾーンは暗澹たる雰囲気で、フリック監督はもちろん、主要選手、そしてDFBの要職らに指揮官の去就についての質問が数多く飛んだ。
DFBのSD(スポーツ・ディレクター)であるルディ・フェラー氏は、記者からの「フリック監督はフランスとのゲームでも指揮を執る権利があるのか」という質問に対し、「一晩寝てから考える」と答えた。そして翌日、DFBのベルント・ノイエンドルフ会長、ハンス=ヨアヒム・ヴァッケ副会長、フェラーSDらとの協議の末、DFBは連盟発足以来初となる代表監督解任という決断を下した。
バスケ・ドイツ代表との対比もサッカーへのネガティブな印象を誘発
ドイツメディアの論調は手厳しい。
「キッカー」誌はDFBの各種判断に誤りがあったとする。
「DFBの危機管理部門はカタールW杯でのグループリーグ敗退という結果を容認し、フリック監督の続投を人事決定してしまった。その後はEURO(欧州選手権)2024の成績だけでなく、この大会に向けた準備過程もフリック監督への評価のベンチマークとしてきたが、W杯後の5戦、そして今回の日本代表との一戦での壊滅的な結果を受けて、この58歳の指揮官への信頼を完全に失うという苦い認識をした」
また、フリック監督の解任はFIBAバスケットボールW杯でドイツ代表が初の大会制覇を成し遂げた日とも重なり、双方の違いに言及する論調もあった。「Sportschau」誌ではバスケットボールのドイツ代表が成功した要因として、このように記述している。
「バスケットボールのドイツ代表にはチームスピリットがあり、プレーヤーには自己犠牲的精神があった。トップスターがゴールを決められなかった時にはほかの選手がゴールを決めた。ピッチ上での仲間同士の口論も、サイドライン際に立つゴードン・ハーバート・ヘッドコーチが理性的な振る舞いで制御し、それがパフォーマンスの向上につながった。これが、指揮官が兼ね備える権威というものだろう」
また、選手個々のパフォーマンスについても厳しい評価が下されている。「ビルト」紙のインタビューに答えた元フランス代表DFでバイエルン・ミュンヘンのレジェンドでもあるビセンテ・リザラズ氏は、ドイツ代表のフランス代表戦に向けた深刻な問題を指摘している。
「ニクラス・ズーレ(※家庭の事情でフランス代表戦前にチームを離脱)やニコ・シュロッターベックのような選手が最終ラインでプレーすれば、フランスの攻撃に対して非常に困難な戦いを強いられるだろう。ランダル・コロ=ムアニ、キリアン・ムバッペ、ウスマン・デンベレらをコントロール下に置くためには、ディフェンダーとして素早く動き、上手く判断しなければならない(が、果たして彼らにそれができるのか)」
DFBは今後も難しい舵取りを迫られる。直近のフランス代表戦ではフェラーSD、そしてドイツ代表U-20監督のハネス・ヴォルフ、同アシスタントコーチのサンドロ・ワーグナーがベンチ入りして指揮を執るが、いずれにしても後任監督の選定を早期に進めなければならない。
先述したように、本来フリック監督体制以降の指揮官として目星を付けていたクロップトゥヘルの両指揮官を招聘できる状況にはない。その結果、現状では昨季途中にバイエルンの監督職を解任されたユリアン・ナーゲルスマン氏の招聘が最有力視されている。また、ほかにはフランクフルトの指揮官を退任して現在フリーのオリバー・グラスナー氏の名前も取り沙汰されているが、いずれにしても交渉はこれからで、ドイツ代表が当面のターゲットとしている自国での欧州選手権開幕まで9か月を切った今、彼らに残された時間と選択肢は限られている。
日本代表戦での大敗はドイツサッカー界に致命的な衝撃をもたらした。もし今後のチーム構築プランに失敗し、欧州選手権でも望む結果を得られなければ、ドイツは世界のサッカーシーンでこれまで築いてきたトップキャリアの座を辞さねばならない危機に直面している。
島崎英純
1970年生まれ。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動を開始。著書に『浦和再生』(講談社)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信しており、浦和レッズ関連の情報や動画、選手コラムなどを日々更新している。2018年3月より、ドイツに拠点を移してヨーロッパ・サッカーシーンの取材を中心に活動。