盛り上がりを見せた今夏の「欧州移籍市場」 代理人が見た日本人選手3つの“トレンド”「三笘の影響力があった」【インタビュー】

今季新天地に活躍の場を移した選手たち【写真:Getty Images】
今季新天地に活躍の場を移した選手たち【写真:Getty Images】

今夏ステップアップを果たした日本代表選手も増加 「評価が高まっている」

 近年Jリーグから欧州クラブへ活躍の場を求める日本人タレントはあとを絶たない。「FOOTBALL ZONE」ではその顔ぶれを今一度おさらいすべく「NEXT欧州組」特集を展開する。今回は、閉幕した欧州の移籍市場における日本人選手の動きにはどのような傾向が見られたのか。欧州で幅広く活動する代理人である株式会社グロボル・フットビズ・コンサルティング代表取締役・柳田佑介氏に話を訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 今夏、多くの日本人選手が移籍を経験した。代表クラスでいうと、一番のサプライズはMF遠藤航がドイツ1部シュツットガルトからイングランド1部リバプールに加入したことだろう。ほかでもMF鎌田大地がイタリア1部ラツィオへ渡り、若手のMF中村敬斗はオーストリア1部LASKリンツからフランス1部スタッド・ランスへステップアップを果たした。Jリーグから海外移籍を果たした選手も多くいるなかで、今夏の日本人選手に見る移籍の“トレンド”は何だったのか。

「まず、三笘(薫)選手がプレミアリーグで活躍していることの影響は大きかったと思います。日本人のしかも(プロデビューしてから年月が浅い)大卒選手が欧州最高峰のリーグでこれだけ活躍できるということを示したことで、将来の三笘になり得る選手を若いうちから確保したいという需要がヨーロッパのクラブに広がっているのは間違いありません。セルティックで古橋(亨梧)選手が圧倒的な結果を残したことでスコットランド内に日本人ブームが起きたように、三笘選手の活躍が日本人の価値を高め、ヨーロッパ中にその影響を波及させたと言えると思います」

 MF三笘薫は昨季、イングランド1部ブライトンでプレミアリーグ挑戦1年目ながら7ゴールの存在感を見せた。世界のサイドバックを脅威に晒したことは日本にも伝わってきている。やはり、プレミアリーグで日本人が名を上げることは欧州において大きな影響力を持っている。

 さらに、柳田氏は新型コロナウイルスにおける経営難の影響も指摘した。

「欧州のスカウトたちは、日本人選手に外れが少なく、獲得に要する費用に比して期待していた以上の活躍や貢献をしてくれるという意味で、コストパフォーマンスがいいと見ています。また、近年は上位のリーグやクラブにステップアップを果たし、移籍補償金収入をもたらす事例も増えてきました。欧州の中小クラブの中にはコロナ禍で経営的に大打撃を受けたところも多く、選手獲得費用やサラリーの支出を抑えていかなければならないなかで、こうした日本人選手に対する需要が高まっているという側面もあると思います」

 特に英国内での注目度という点で、MF三好康児(バーミンガム・シティ)やMF坂元達裕(コベントリー)が今夏からイングランド2部へ移った。かつては阿部勇樹(現・浦和レッズユースコーチ)らも挑戦したリーグで、再び日本人選手が集まりだしている。

「まず前提として、イングランドのクラブに移籍する際の一番の障害だった労働許可の取得条件が緩和されたこと。これは大きいですね。日本人選手の多くはいつかプレミアリーグでプレーすることを夢見ていますが、2部で活躍することができればプレミアから声がかかる可能性が出てくるという意味で、チャンピオンシップのクラブに移籍する選手が増えてきているのでしょう。ただ、2部と言っても簡単なリーグではないので、三好選手や坂本選手にはぜひ活躍してもらって、彼らに続く日本人がチャレンジしやすい環境になればと期待しています」

“出戻り組”の増加に見られるJリーグのある事情「クラブの支出が大きく変わってくる」

 今夏、Jリーグから海を渡ったのは東京五輪世代のFW小川航基(横浜FC→NECナイメヘン)らよりもさらに若いパリ五輪世代。GK鈴木彩艶(浦和レッズ→シント=トロイデン)はその筆頭だ。世界の目はさらに若い世代に向いており、海外移籍が可能になる18歳から競争は始まるという。

 一方で東京五輪世代のMF安部裕葵はFCバルセロナBにあたるバルセロナ・アトレティックから浦和へ加入。FW原太智もスペイン2部アラベスから京都サンガF.C.へ完全移籍し、日本へ戻ってきた。このような“出戻り組”が増えてきている要因は2つあるという。

「背景にはJリーグのクラブが新規の外国人選手を獲得することに消極的になっているということがあります。その1つ目の要因はクラブの財政面の負担が大きくなっていることで、選手の契約条件は同じでも、為替変動により円安が進めば進むほどクラブの支出は増大します。また外国人選手は手取りの報酬額を基準に契約交渉を行いますが、その報酬にまつわるクラブの税負担は決して軽視できません。もう1つは適応の問題で、独特なスタイルに気候の問題もあり、Jリーグは新しい外国人選手がすぐにフィットするのは難しいリーグです。せっかく大金をはたいて外国人選手を獲得しても活躍できなければ宝の持ち腐れなので、であれば適応に問題のない日本人選手を獲得しようという流れになるのは当然です。最近の国内のトレンドとして『海外から戻って来そうな日本人選手はいるか?』という問い合わせをいただくことが増えましたね」

 さらに最近、今夏に限ったわけではないが日本からは高卒で直接海外へ挑戦するパターンも増加している。DFチェイス・アンリ(シュツットガルト)やMF福井太智(バイエルン・ミュンヘン)、FW福田師王(ボルシアMG)らは高校を卒業してJリーグを経由せずに海を渡り、セカンドチームを主戦場に経験を積んでいる。

「以前にも伊藤(翔)選手や宮市(亮)選手のように高卒で直接ヨーロッパに移籍するというケースもありましたが、彼らは超例外的存在で、高校年代の指導者の方々の中では、まだ身体もできておらずプロ生活をしたもことない選手がいきなり海外に行くのはリスクが大きいので、まずはJクラブと契約をし、2、3年は国内でプレーしたほうがいいという考え方が一般的でした。ただ最近は指導者の方々にもさまざまな意見があって、在学中から積極的に選手を海外に練習参加させる高校も出てきていますし、(チェイス・)アンリ選手のように英語を話せる選手は海外にチャレンジしたほうがいいのではないかという考え方も普通になってきました。この傾向は今後さらに強くなっていくのではないかと思います」

若手を導くトップチーム選手の存在が光る

 さらにシュツットガルトやボルシアMGというトップチームで日本人選手が大きな活躍を見せていることにも影響は出てくるという。

「アンリ選手のシュツットガルトにしても福田選手のボルシアMGにしても、そのクラブに日本人選手を獲得した経験があり、現在もその選手がトップチームに在籍して活躍しているというのはすごくプラスだと思います。クラブ側が日本人選手の扱いに慣れているということに加え、若い選手にとってそうした経験のある選手はプロとしての振る舞いや海外での生活についてのいいお手本となるため、適応のリスクが減少するためです」

 サプライズもあり、盛り上がりを見せた今夏の移籍市場。今後も日本人選手の海外移籍が増えてくるなかで、トレンドの渦は変化し続けていくことだろう。

[プロフィール]
柳田佑介(やなぎだ・ゆうすけ)/1977年生まれ。チリで生まれ、幼少期をベネズエラで過ごす。東京大学法学部を卒業。2008年に日本サッカー協会公認代理人資格を取得。日本サッカー協会登録仲介人。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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