川崎×札幌、目に留まったタイプの異なるブラジル助っ人のサイドでの攻防【コラム】
【カメラメンの目】川崎マルシーニョと札幌フェルナンデスのマッチアップに注目
北海道コンサドーレ札幌は、8月26日に行われたJ1リーグ第25節川崎フロンターレ戦において、90分+アディショナルタイム11分の戦いで、ジェットコースターのような上昇と急降下の展開を経験した。
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激しいマンマークで川崎の攻撃陣の動きを封じた札幌は試合のペースを握り、前半27分と35分にゴールをマーク。2-0のリードで前半を終える。
しかし、後半は一転して苦しい展開が続くことになる。
川崎は奮わなかった前半から、マルシーニョと瀬古樹を後半最初から投入して挽回に出る。この采配は的中し、すぐに結果が出る。ピッチに立ったマルシーニョは爆発力のあるドリブルで札幌守備陣へと果敢に挑み、前半は不調だった川崎のサッカーを劇的に変えた。
川崎は11人対11人でも華麗なパスワークを駆使して相手の守備体系を崩し、ゴールを目指すチーム。その川崎に対して札幌は後半開始からわずか8分後に退場者を出してしまう。そうなるとペースは一層、川崎へと傾いていくことになる。
数的不利となった札幌は、守備体系の合間を縫って巧みに切り込んでくる川崎の選手たちのドリブルとパスワークに翻弄され、自陣に釘づけとなる時間が続く、我慢のサッカーを強いられることになる。そして、後半22分とその4分後に立て続けにゴールを割られてしまう。
この101分間の試合で目に留まったのは、やはり後半のメインスタンド側の攻防である。
川崎側から見た左サイドからの攻撃は、スピードを生かした突破からチャンスを作るマルシーニョの独壇場となる。そのマルシーニョと張り合ったのがルーカス・フェルナンデスだ。2人は同じブラジル人だが、まったく違うスタイルでサイドの制圧を試みる。
失敗を恐れず、荒っぽささえ武器としているドリブルで札幌陣内へと切り込むマルシーニョ。試合途中でパワーダウンの兆しが見えると、鬼木達監督から激しいジェスチャーを交えて「行け!」と指示を受ける場面もあり、その言葉に応えるように川崎の2得点を演出した。
L・フェルナンデスのような堅実な選手がミシャのサッカーを支える
そんなマルシーニョとは対照的に、ルーカス・フェルナンデスは堅実なプレーを身上としている。後半、劣勢の展開が続くなかでボールを持つと、マークに詰め寄られるまでできる限り前線へと進出し、激しいプレッシャーを受ける前にパスを出す。ドリブルは必要最小限に止め、球離れのいい札幌の背番号7は、何より相手にボールを奪われない確実なプレーを心掛けているように見えた。
そして、1失点目の際に見せた悔しがる仕草や、仲間が退場の宣告を受けた時に主審へと説明を求める感情を表に出した姿からは、勝利に対する強い姿勢が伝わってきた。
圧倒的な爆発力はないが、高い基本技術に裏打ちされたミスが少ない計算のできるルーカス・フェルナンデスは、指揮官からすれば戦術を遂行するうえで頼りになる選手であることは間違いない。
試合は結果的に引き分けに終わったが、その内容にはそれぞれの立場から、さまざまな思いがぶつかることとなった。試合後、サポーターへと挨拶をする札幌の選手たちの表情には悔しさがにじんでいた。どの選手にも味方の退場劇がなければ、違った結果が出ていたかもしれないという思いがよぎっているようだった。
何より退場となった過程も最初の判定が覆されての決定ということもあり、札幌の選手たちには思い通りに進めていた展開に水を差された判定となった。そうしたなかでルーカス・フェルナンデスは場面によっては激しい感情を露わにしていたが、プレーとなると冷静に自分のできることをこなしていた。
後半、マルシーニョを中心とした稀に見る圧倒的な攻撃を作り上げた川崎には、改めて秘めた底力を感じた。しかし、その裏で派手さはないがルーカス・フェルナンデスのような堅実な選手が、ミハイロ・ペトロヴィッチが指揮する札幌を支えているのだということも目に留まった試合だった。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。