磐田MF古川陽介が“変わった” 「すごく悔しいなと…」台頭のきっかけはプロ同級生の姿【インタビュー】

磐田の古川陽介【写真:徳原隆元】
磐田の古川陽介【写真:徳原隆元】

J2磐田で成長を実感するプロ2年目ドリブラーの心境

 J2リーグを戦うジュビロ磐田は今季、若手が台頭している。プロ2年目の20歳MF古川陽介もその1人だ。ルーキーイヤーだった昨季からの変化は確実に現れ、武器であるドリブルを駆使しながらゴールを決めたシーンはその最たるもの。この先のシーズンでさらなる飛躍を期すドリブラーは今、どんな心境にあるのか。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓)

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 7月12日に行われた天皇杯3回戦、J1ヴィッセル神戸との一戦で決めた一撃に会場は沸いた。1-5と4点ビハインドで迎えた後半36分、古川は左サイドで味方からパスを受けるとゆっくりとドリブルを開始。元日本代表DF酒井高徳とのマッチアップに挑むと、うしろからは同じく元日本代表のMF山口蛍が加勢した。

 ペナルティーエリアのすぐ外側に差しかかった瞬間、古川は左足で切り返し酒井の股下にボールを通す。そこへ寄せてきた山口との間を縫うようにかわしてエリア内へ。さらにもう1人をかわし右側へ大きく持ち出した流れから右足を一閃するとシュートはゴール右隅へと吸い込まれた。

 複数の相手を翻弄するドリブル突破からゴールを決めるその姿に、2年前の高校サッカー選手権で躍動した古川のプレーを重ね合わせたファンも多かったはずだ。真骨頂を発揮した一連のプレーを振り返る古川自身の言葉からは、少しずつ手応えを感じ取っている様子が垣間見れる。

「プロ1年目では考えられないようなゴールでしたね。ドリブルのところは武器なので変わらないと思いますけど、山口選手がうしろから激しく来ていたんですが、ああいう時に本当に軸がブレなくなったのは成長したポイントだと思いますし、そこからシュートまでの流れは新鮮な感じでした。

 左に持ち込んで、そこからカットインして右で仕留めた一連のプレーに関しては今まであまりなかった形だったので、あれが自然と出たのは練習の積み重ねだと思います。イメージが湧いてくるから実際に出るプレーでもあるので、あのゴールは自信になりました」

 2022年に静岡学園高校から鳴り物入りで磐田に加入した古川の武器は、ドリブル技術にあるのは言うまでもない。ただ一方で、それ以外での課題を突き付けられた。対人プレーでの強度、チーム戦術の理解度といった部分は、高卒からプロ入りした選手に大きな壁として立ちはだかる。古川も当初は戸惑いを覚えた。

 J1リーグを戦ったルーキーイヤーでの成績は7試合1得点。プレータイムは139分にとどまったなかで、「武器以外の部分で、どれだけ差を補えるか」が今季を戦ううえで大テーマだった。その意味では、天皇杯のゴールシーンの中で「軸がブレなくなった」と実感しているのは、古川にとって大きな成果である。

「強度の部分、90分通してのプレーが全然変わった」と手応えを口にする古川。そのきっかけの1つは、下駄を履いた体幹トレーニングにあるといい、関係者の勧めやチーム内で実践する選手がいるためシーズン前のキャンプから採り入れたところ効果を実感。「すごく今フィットしてる感覚です」という言葉は、直近のリーグ戦で8試合(※7月29日終了時点)続けてピッチに立てている状況からも頷ける。

高校時代の同級生のプレーぶりに衝撃「見習わないと…」

静岡学園でともにプレーした玄理吾【写真:Getty Images】
静岡学園でともにプレーした玄理吾【写真:Getty Images】

 プロ2年目ではここまで公式戦3ゴールをマーク。シュートシーンやドリブルの局面でのプレーを切り取ると力強さが増した印象を抱かせる。そうした変化をもたらした要因は、ほかにもあった。4月29日のホームゲーム・徳島ヴォルティス戦で高校時代の同級生MF玄理吾が見せつけたプレーぶりに目を奪われた。

「あの試合ではスタメンで出ていて、素晴らしいパフォーマンスをしていたんですよね。何よりJ2で堂々とやってるのを見て、すごく悔しいなと。僕の場合、開幕からその試合までは全くいいプレーができていなかったので。そこでスイッチが入りましたね」

 古川と同じく、高卒からプロ入りした玄は普段から連絡を取る間柄であり、良きライバルの1人。ルーキーイヤーではやはり思うように出番を掴めずにいたものの、2年目の今季はシーズン開幕から10戦目以降、スタメンに定着し、この磐田とのアウェー戦では2点目の起点になるプレーもあった。

 ベンチから戦況を見守っていた古川は、同級生のプレーに衝撃を受けた。「監督に信頼される力だったり、チームにしっかり順応してプレーする能力が高い。その場その場の対応力が、自分より凄く高い選手だと思うんで、それは見習わないといけない」。間近で見たそのプレーは、いい意味で刺激になった。

 徳島戦で後半途中出場した古川は、クロスからチームの2点目を演出。2-3で敗れたが「何かきっかけを掴んだなっていう感覚があって、その次の試合では、それまでに比べると手応えのあるパフォーマンスだったなって感じられたんですよね。それからいいイメージが湧くようになってきました」と、自信を深めている。

 4月の徳島戦からおよそ2か月後、6月18日のルヴァンカップ・北海道コンサドーレ札幌戦で、古川に今季公式戦初ゴールが生まれた。さらに7月5日のツエーゲン金沢戦では、自ら獲得したPKで今季リーグ戦初ゴールとなる決勝点をマークし、2-1での勝利に貢献した。そして、天皇杯では武器のドリブルから得点も奪い、さらなる飛躍を期待させる。

「今年はチームの勝利のために、もっとゴールに直結するプレーにこだわっていきたいです」。シーズンを折り返しチームが上位へ浮上した今、20歳のドリブラーが見据えるのは至上命題とも言える1年でのJ1復帰。プロ2年目で地に足を付けて戦えている実感があるなかで、心の底から喜ぶ自身の姿がある未来を思い描いている。

[プロフィール]
古川陽介(ふるかわ・ようすけ)/2003年7月16日生まれ、滋賀県出身。AZUL滋賀FC-京都サンガF.C.U-15-静岡学園高-磐田。2021年度の高校サッカー選手権で静岡学園のベスト8入りに貢献。切れ味鋭いドリブル突破を武器に、その名を全国へ轟かせた。高校卒業後は磐田へ加入し、22年3月2日のルヴァンカップ湘南ベルマーレ戦でプロデビュー。今後の飛躍が期待されるパリ五輪世代の1人。

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