「パンクすると思った」 G大阪FW宇佐美貴史、主将就任で芽生えた心の葛藤…目指した姿とは?「間違いなくキャプテンの理想像」【独占インタビュー】

今季から主将としてチームの先頭に立つ宇佐美貴史【写真:徳原隆元】
今季から主将としてチームの先頭に立つ宇佐美貴史【写真:徳原隆元】

今季から7番を背負い、新主将に就任 現在はスポーツ精神生理学を勉強中

 今季、ガンバ大阪は変革の年となっている。ダニエル・ポヤトス監督が就任し、サッカーも大きく変わった。シーズン序盤では25年ぶり5連敗を記録。だが、直近ではリーグ戦7戦負けなしとチーム状態は上向きになりつつある。そしてもう1つ。G大阪にとって歴史の変わり目とも言えるのが新7番の誕生だ。FW宇佐美貴史は主将に就任し、ずっと背中を追ってきたレジェンドMF遠藤保仁(ジュビロ磐田)の背番号を受け継ぐこととなった。チームの不調、主将の葛藤、さまざまな思いを抱えながらも、強いG大阪を取り戻すために奮闘する宇佐美が「FOOTBALL ZONE」のインタビューに応じた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 偉大な背番号7。宇佐美自身、その番号の重さを感じないわけがなかった。幼きころからG大阪のサポーターとしてゴール裏で声援を送り続け、アカデミーへ進み、人生に刻み込まれてきた 青と黒のユニフォーム。G大阪が初めてJリーグ優勝を成し遂げた時、アジアを制覇した時、すべてのタイトルは背番号7を付けた遠藤とともにあった。さらに初めて主将としてチームを率いることになった。

「自分の良し悪しももちろんあるけど、まずはチームというところがある。結果が出たり、出てなかったりというところもあって、考えることももちろん多くなってくる。そうなると、自分のパフォーマンス、チームのパフォーマンス、(チームメイトの)選手誰かのパフォーマンス、選手それぞれのメンタリティー、監督とのコミュニケーションの中で……と、もう考えることが多くなってきて。パンクするなと思った。頭の中では何も考えてい ない時がない。もう1人の自分とずっと喋っている感じで、1秒たりともボーっとしている時間がない。意識と思考が働いている感じ。でもそれを考えない、いやいや、もう気にしない、というふうにはしたくはないなと思った。うまく言えないかもしれへんけど、自分の都合のいいように考えていく力がほしいな、と思った」

 主将としてチームの先頭に立つにあたって、1人1人の状況を見て、気にかけ、考え、支えになる。自然と頭はフル回転になった。一方で自身のプレーの質、メンタル面も落とすわけにはいかない。まずは気持ちの整え方に向き合った。そこで気付いたことがあった。

「僕自身、人格が2つあるわけじゃないけど、考える軸は2つ持っている感じ。頭で考える自分と、心で考える自分がいる。だから、心で考えて落ち込みそうになった時に、頭でそれを制御する自分をちゃんと持てるように意識している。例えば、感情だけやったら、『調子いい!最高!』となる。でも、頭では『これはやばいぞ』と制御する。この自問自答が自分の中で常にある。この感覚を最近掴めてきた。『心技体』とよく言うけど、この言葉は僕の中でずっと違和感があった。『心』って1つじゃ足りひんな、と思っていて。これをよく考えるようになった」

 心技体、すなわち精神力、技術、体力がすべてそろった時に最大限のパフォーマンスが発揮されるという武道などで重んじられている3つの要素。この言葉を自身に落とし込む前に「心」の状態が必要だと感じたという。

「いいメンタルがあって、体の状態ができて、いいパフォーマンスができるというこの順番は結構バラバラ。だけど、いい体の状態があっていいパフォーマンスができるから、いい心理状態になれるという、そのいい体の状態にするためには、いい精神状態がもう1個必要。作業として(心技体を完成させる前に)もう1個必要なんです。まず、いい心の状態でいること。そしたら、いい体とかいいフィジカルコンディションができていくから、いいパフォーマンスができる。いいパフォーマンスができたら、いい心の状態になることは間違いない。最近これを思っていて、スポーツ精神生理学を勉強している。自分で感じたことをちゃんと知識として肉付けしていけたらいいと思っている」

 実際、専門書を読み込んでいるという。主将になったことで、1人1人の精神状態と向き合うため、自身の知識力を高めている。

「勉強するのは好きになってきている。精神、心にフォーカスしだしたのは今年から。今までは、『体づくり、体、体』となっていて、食事とかトレーニングとかはいろいろなことをやってきたけど、今はがっつりメンタルのところにフォーカスしている」

宇佐美が求める主将像、チームが求める新しいG大阪像…理想を追い求め走る今「突き詰めた先に…」

 チームは一時期、苦しい時期があった。自身も苦境に立たされた。7番で主将。宇佐美にもさまざまな声が届いたなかで、「楽しく向き合えている」という。それも、宇佐美のなかで理想像があるからだ。

「僕が今まで出会ってきたなかでベストのキャプテンはドイツ2部(デュッセルドルフ時代)のチームのキャプテン。(オリバー・)フィンクというんですけど。今までたくさんのキャプテン見てきたけど、ダントツ。僕は彼にキャリアを救われたぐらい。試合で負けて、パフォーマンスが振るわんくて落ち込んでいたら、バッと来てくれて『お前は絶対に必要な選手だから。必ずチームの力になる瞬間が来るから。その時まで切らさずにやり続けてくれ』と言ってくれた。僕が落ち込んでいる時なんかにいきなり、『今日、お昼時間あるか?』と聞かれて『練習終わったらサウナ入ろう。お酒好きやろ? サウナ上がって1本だけ飲もう』と。地ビールを買ってきてくれて乾杯してくれたり。僕なんか誘う必要もないのに、誘ってくれて。2部優勝して昇格決めた時も『ほら言っただろ』と言ってくれた。多分、俺にそういう働きかけをしてくれていたってことは、たくさんの選手もしていたやろうし、監督からも絶大に信頼されていた」

 昨年現役を引退し、現在はデュッセルドルフのアカデミースタッフを務めるフィンク氏。2009年からデュッセルドルフに所属していたものの、それまでは3部や地域リーグなどで経験を積んできた苦労人。主将を務めていた2017-18シーズンに宇佐美らとともに2部優勝を掴み取った。

「彼みたいなキャプテンになれるとは思えないけど、間違いなくキャプテンの理想像。僕自身も足掻いている選手もやっぱりもちろん見ているし、どういう声かけがしてあげられるのか、とか。自分の声かけが必ずしも選手に必要なものかどうかというのは、まだ見極められへんけど、いろんな選手に目を向けて、『今日はどんなメンタルの感じなんやろ』とか『なんか疲れてそうやな』とか。『なんか動き違うな、大丈夫かな』と感じていた数日後にその選手が体調崩したりして『菌が入っていたから違ったのか』となることもあった。見過ぎて違いも分かるようになりましたね(笑)」

 主将として牽引するチームはポヤトス監督の下で試行錯誤を続けつつも上向きになってきた。タイトル争いをして、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場して……強いガンバを取り戻すことが宇佐美の使命でもある。

「例えば、『ガンバのサッカーってどういうサッカー?』と聞かれた時に、簡単に言語化できるサッカーを作っていきたい。(横浜F・)マリノスのサッカーや川崎(フロンターレ)のサッカーってどういうサッカーか答えられるじゃないですか。そういうサッカーじゃないとACL圏内や優勝争いは難しいかなと。時間は必要かもしれない。でも、マリノスもここ数年強さを維持しているなかで1年はしっかり植え付けてトライ&エラーを繰り返す時期があった。チームの根底、サッカーもメンタルも変えていくのは甘くない。それでも全員が理解してやめずに積み重ねる作業を自信を持ってやり続けていく。突き詰めた先にちゃんと新しいガンバの形ができてくると思う」

 宇佐美の目には迷いがない。心の底からガンバ大阪を思い、上昇を誓い、中心として牽引する覚悟があるからだ。何かが起きれば人一倍重く受け止め、寝る間も惜しむほど何度も思考を繰り返す。そして、1歩踏み出す道を探し出す。背番号7を付けた宇佐美主将は今日もG大阪のユニフォームを纏い、葛藤しながらもチームとともに歩み続ける。

[プロフィール]
宇佐美貴史(うさみ・たかし)/1992年生まれ、京都府長岡京市出身。兄と同学年の家長昭博が在籍していた長岡京サッカースポーツ少年団(長岡京SS)からガンバ大阪ジュニアユースに入団。中学3年でユースに飛び級昇格し、レギュラーに定着した。クラブ史上初めてとなる高校2年生でトップチームに昇格。2011年にはバイエルン・ミュンヘンへ移籍した。翌シーズンはホッフェンハイムで過ごし、13年途中にG大阪へ復帰。同年のJ1昇格、翌14年の三冠獲得にエースとして貢献した。16年途中から2度目の海外挑戦へ。19年6月から再びG大阪に復帰している。各年代別代表で活躍し、ロンドン五輪に出場。18年ロシアW杯メンバーにも選出された。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)



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