酷暑のサッカーは身体に悪い 選手を守り、パフォーマンスを維持するための鍵は?【コラム】

酷暑のサッカーで選手を守るために必要なこととは?(写真はイメージです)【写真:写真AC】
酷暑のサッカーで選手を守るために必要なこととは?(写真はイメージです)【写真:写真AC】

Jリーグは夏季に飲水タイム原則実施へ、アマチュアスポーツは昼間の競技に依然直面

 サッカーは身体に悪い。

 東京都では7月に入って最高気温が30℃を下回ることはほぼなく、気象庁のデータでは7月28日までの月間平均気温は28.5℃と去年よりも1.1℃高くなっている。

 夜開催とはいえ、Jリーグはそんななかで90分間ボールを追って全力で走るのだ。どう考えても身体に良さそうではない。

 2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)の際、大会が始まる前の11月11日に練習場記者席で気温を測ると28.6℃だった。だが、スタジアムの中は空調のおかげで20度前半に保たれ、むしろ肌寒いくらい。それなら選手も実力を発揮しやすかっただろう。

 この暑さ対策として、Jリーグは7月14日、夏季期間における「飲水タイム」実施ルールを変更し、夏季期間は飲水タイムを原則実施することになった(湿球黒球温度の数値が基準値以下で両チームの合意がある場合のみ実施しない)。

 だが、これはこれで問題がある。本来なら飲水タイムの時は「ノー・コーチング」ということになっているが、そこでホワイトボードを出して指示している姿がよく見受けられる。これでは飲水タイムが入ることで、実質クォーター制になっているのだ。またチームのスタイルによってはメリットもデメリットもあるだろう。

 そして、Jリーガーはまだいいかもしれない。アマチュアスポーツの多くは夏でも昼間の競技を余儀なくされている。新型コロナウイルスの影響があった2021年などは、感染予防の観点から試合日程に余裕を持つケースなどがあったものの、現在は炎天下の連戦も復活しつつある。

 そこで、現在J2のFC町田ゼルビアの指揮を執り、青森山田高校を率いて数多くのタイトルを獲っている黒田剛監督に話を聞いた。

町田の黒田剛監督【写真:森 雅史】
町田の黒田剛監督【写真:森 雅史】

かつて青森山田高を率いた町田・黒田監督が見た「夏の高校サッカー」

——「飲水タイム」が入ることでどんな影響が出ると感じますか?

黒田監督「町田のようにプレスをかけ続けるサッカーをするチームにとっては、そこで一度水分補強してリフレッシュすることができる。町田にとっては好影響を与えるのではないかと思います」

——Jリーグはまだ夜の開催だからいいのですが、高校生は昼間のゲームを戦ったりしています。

黒田監督「青森山田の監督だった時は、9時30分、11時、15時の試合がありましたからね。12時キックオフというのもありました。ただ、これを変えていこうとなると別の問題があります。高体連の試合は学校の先生が休日に出てきて開催しなければならず、『働き方改革』のこの時代に、例えば夜遅くに試合をしようということになると先生たちが帰られなくなってしまいます。そういう意味で変えるのは難しい部分がありました。だから、今年の全国高校サッカーインターハイは北海道開催になり、今後も涼しい地域での開催になりそうです。そういう意味での工夫を続けていくことになるでしょう。

 体力的な部分で言えば、水分補給には気を付けていました。トップ・オブ・トップの選手はそういう暑さにも強い選手が多かったと思いますが、セカンドチームより下の選手たちはより体力がないので、そこは配慮していました。プロのチームになると、ベテランもいるので乳酸値などが貯まりやすく、暑さにはより気を付けなければいけないと思っています」

 たしかにフィジカルエリートたちならば、この暑さにも耐えられるのかもしれない。だから暑くなっても毎週試合が、多い時には週2回のゲームができるのだろう。そして、「飲水タイム」でリフレッシュすることでプレーもしやすくなるだろう。

 一方で、それでも夏場のパフォーマンスが低下することは間違いない。前線からの激しいプレスとチェイシングでここまでJ2首位を独走する町田が、ここからの暑さに自分たちのサッカーを貫けなくなる事態も十分考えられる。

 それはそれで長いシーズンを戦うJリーグの、1つの戦略的な面白さではあると言えるかもしれない。だが、日本がハイインテンシティーのサッカーで世界と渡り合おうとしている時、そのクオリティーが維持できない環境でプレーさせるのはいかがだろうか。

 夏休みはJクラブにとっていろんなイベントを組んで集客しやすいかき入れ時ではあるだろう。だがここはパフォーマンス優先で思い切って夏の試合数を減らすか、あるいはもっとスタジアムを冷やす工夫をしたらどうだろうか。

 試合前にピッチでスプリンクラーが回ると、濡れた選手がなんとなく嬉しそうに見える。いっそのこと観客席まで水が飛んできてくれたほうがいいんじゃないか、と思ったりするのだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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