堂安や板倉ら指導…杉本龍勇氏の日本代表トレーニング法「ドリルをたくさん」 陸上とサッカー、走りの“違い”とは?【独占インタビュー】

杉本龍勇氏に指導を受けた日本代表選手たち【写真:GettyImages & 高橋学 & 徳原隆元】
杉本龍勇氏に指導を受けた日本代表選手たち【写真:GettyImages & 高橋学 & 徳原隆元】

杉本龍勇氏が吉田や堂安らに指導したトレーニング方法に注目

 森保一監督率いる日本代表は6月シリーズで2連勝した。「4-1-4-1」の布陣をテストし、新たな攻撃のオプションを発揮。そのなかで、「FOOTBALL ZONE」では森保ジャパン第2次政権でもキーワードになる「スピード」に注目した特集を展開する。現役代表選手である新10番MF堂安律や最終ラインの主軸DF板倉滉、レジェンドDF吉田麻也やFW岡崎慎司らを指導してきた元陸上選手でフィジカルコーチなどを務める杉本龍勇氏が、実際のトレーニング方法を明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/全3回の1回目)

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 堂安や板倉、吉田、岡崎だけでなく、横浜F・マリノスのスピードスターFW宮市亮や、森保ジャパンの右サイドバック(SB)で評価を上げているDF菅原由勢らを指導している杉本氏。欧州まで出向き、直接指導しているなかで実際トップ選手はどのようなトレーニングに取り組んでいるのだろうか。

 自身はバルセロナ五輪の出場経験があり、指導者としては浜松大学サッカー部のフィジカルコーチを務めている時に長谷川健太監督(名古屋グランパス)と出会った。この縁から2005年に清水エスパルスのフィジカルコーチに就任。湘南ベルマーレや大分トリニータでも指導し、岡崎の専属コーチも務めた。現在は法政大学の教授を務めながら、日本代表選手やJリーガーの指導に当たっている。そんな杉本氏が練習法を明かす。

「走らせるというふうに皆さん思うみたいですけど、走る練習、走らせることはほとんど最後の仕上げだけ。感覚をチェックする程度しか走らない。基本的には『ドリル』で、動き作りをたくさんやるようにしている。陸上の走り方をしているわけではなくて、ボールを扱うこと、急加速や急減速。サッカーの一番大事なところはオン・ザ・ボールだからそれを意識していますね。割合としては走っている時間が決定的に長いので」

 例えば、攻撃的な選手がスルーパスに対して、全力で走ってボールを受ける。この時にボールをコントロールできなければシュートチャンスにはつながらない。だからこそ、オン・ザ・ボールまでイメージして走り方を指導する。

「陸上って走っている間ずっと同じ動きを繰り返す。一番出力が出る動きをどれだけ同じように再現していくかという正確性が重要になる。サッカーの場合も技術的には陸上と一緒だけど、リアクションとか反射、反応というところ。あるいはスピードの減速においても、陸上の場合は上がったら上がりっぱなしを目指すけど、サッカーは減速をしなきゃいけない。そのなかで大事なのはフォーム作り。臨機応変に走り方が変えられるように、ドリルをたくさんしなきゃいけない」

 フォーム作りを行ううえで陸上であれば「細かな要素」 にこだわって突き詰める。一方でサッカーの場合は「土台」にこだわってポイントで繰り出せるかが必要となる。これに加えて「運動神経を良くしていく」トレーニングを積む。

「どこを動かすか、リズム感、右足左足、右手左手をどうずらしていくか、シンクロさせていくかにこだわっている。絵画としての2次元的な動きではなくて、3次元で動きをどう立体的に作っていくか。そこが僕の一番ポイントです。走るのも速くなったんだけど、今までよりも体が動くようになったという部分を同時に獲得できるようにする」

 例えば堂安。ガンバ大阪時代から技術的に高く、アカデミー出身として将来を期待されてきた。その一方で走りの部分に関しては「昔はもっとガツガツしていたと思う。印象的にはすごく頑張って走っている感じ」だったという。それが欧州に渡り、杉本氏の指導を受けるなかで「スムーズに走れるようになっていると思う」と変化した。以前の走り方だと「頑張っている感」は出るものの、力を抜いて走ることで「一瞬の外しができるようになる。ガシャガシャした走り方は相手にとってみるとリズムが掴みやすい」。ここが大きく変化したポイントだ。

理想的なランニングフォームの持ち主であるムバッペ(左)とデ・ブライネ【写真:ロイター】
理想的なランニングフォームの持ち主であるムバッペ(左)とデ・ブライネ【写真:ロイター】

走るうえで大事なフォーム お手本にすべきスター選手は…「素走りとドリブル速度が変わらないなんて」

 フォームを矯正することで背筋が伸び、目線の高さが上がる。正しい姿勢を保つことで、視界が広がってくる。一方で悪いフォームのまま高い出力を発揮してしまうと故障につながる。

「加速というのは怪我のリスクも高くなるぐらい出力を出さなきゃいけない。悪いフォームで出力が高くなるとすぐに怪我をしてしまう。例として出しちゃうと申し訳ないんですけど、冨安(健洋)くんは危ういなと思って毎回見ていた。フォームありきでそのフォームに合わせて筋力を武装していかなきゃいけない」

 ではフォームにおいて、世界的に見てお手本にすべき選手はだれか。杉本氏は、スター選手の名前を挙げた。

「(キリアン・)ムバッペはとてもいい。あとは(ケビン・)デ・ブライネ。素走りとドリブル速度が変わらないなんてできないですよ」

 大きな負担もかかるサッカーの走り方。トップ選手は未来の自分への投資としてまずは正しいフォームを身に着けるため、地道なトレーニングに取り組んでいる。その積み重ねが世界との差を埋めていくことになるはずだ。

[プロフィール]
杉本龍勇(すぎもと・たつお)/1970年11月25日生まれ、静岡県出身。陸上選手として浜松北高校、法政大学を経て1994年に豊田自動織機製作所陸上部へ入部。全日本総体100m、200mで1位、全日本大学対抗選手権も100m、200mで1位。ドイツ大学選手権でも100m、200m,で1位の成績を残し、アジア選手権大会100mで8位、同大会の4×100mリレーでは2位に輝いた。バルセロナ五輪に出場し、4×100mリレーで6位入賞を果たしている。指導者としては、浜松大の陸上部監督を務めながらサッカー部のフィジカルアドバイザーにも就任。この時にサッカー部の指揮を執っていた長谷川健太監督と出会い、その縁から2005年に清水エスパルスのフィジカルコーチに就任。湘南ベルマーレや大分トリニータでも指導し、岡崎慎司の専属コーチにも就いた。現在は法政大学で教授を務めながら、日本代表選手やJリーガーの指導に当たっている。

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