東大サッカー部、感情数値化の最新システム導入 メリットは「気づき」「客観視」「変化実感」

肌の微細振動から感情を数値化する最新鋭プログラム「A-SYSTEM」を導入した東京大学運動会ア式蹴球部【写真提供:東京大学運動会ア式蹴球部】
肌の微細振動から感情を数値化する最新鋭プログラム「A-SYSTEM」を導入した東京大学運動会ア式蹴球部【写真提供:東京大学運動会ア式蹴球部】

肌の微細振動から感情を数値化する最新鋭プログラム「A-SYSTEM」で自己理解

 東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部)では選手が自分たちのことをより深く理解し、ピッチ上のパフォーマンスアップと問題解決のために導入されているシステムがある。肌の微細振動から感情を数値化する最新鋭プログラム「A-SYSTEM」だ。

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 このシステムではカメラで30秒ほど顔の動画を撮影するだけで、感情を解析できる。10万人以上から集めたビッグデータを基に「安定性」「自信」「責任感」「コミュニケーション」「ストレス耐性」など計12個の項目を即座に100点満点で数値化することができる。それらは「パーソナル(個人の問題)」「ソーシャルスキル(社会性)」「チームワーク(対人関係)」という3つのカテゴリに大別され、総合的なメンタルの状態が評価される。評価はA+からC-まで9段階のレベルに分けられる。

 一般企業の採用などで活用されるこの感情解析システムは、プロ野球球団などプロスポーツチームでも新人育成などで導入されている。個人の性格を「見える化」することで、各々が抱えるメンタル面の問題への向き合い方を明確にし、行動の改善がパフォーマンスの向上にもつながっている。

 6月には、ア式蹴球部のミーティングルームではこのシステムを提供する「el mago社」のスタッフが講師役として登壇し、育成チームや新入生らを対象としたシステムの講習会が実施された。部員数名が測定結果をプロジェクターに映し出して共有し、結果に対してフィードバックを行いながら、どのようなことに注意して行動するべきかのレクチャーが行われた。

 ある部員は「自信」の項目で100点がついた。自分に自信が持てているのはポジティブなことに思えるが、実際には注意が必要だという。自信に満ちているということは、例えるならスポンジが水を限界まで吸い込んでいるような状態であり、それ以上に何かを吸収する力が低くなってしまっているということ。つまり、新しいことに興味を持てなくなっている可能性が示唆されているというわけだ。そういう時には少し視野を広げ、物事を俯瞰して見るような意識が必要になると考えることができる。

「このシステムを活用することで、これまで感覚的で漠然としたメンタルという部分が数値化されて、客観的に表現されます。日々の取り組みで測定時の数値が向上すれば、メンタル面の改善を実感できると思います。数値を見ながら、試合でのトップパフォーマンスを再現するための指標にしてもらいたい」

 このシステムを提供し、講師役を務めた「el mago社」の栗山信二氏はこう話した。

東京大学運動会ア式蹴球部3年のMF長谷川希一さん【写真:FOOTBALL ZONE】
東京大学運動会ア式蹴球部3年のMF長谷川希一さん【写真:FOOTBALL ZONE】

ア式蹴球部の部員も効果を実感「自分だけではたどり着けない“気づき”が得られる」

 ア式蹴球部3年のMF長谷川希一さんは、このように数値化された結果から解決策を考えるプロセスで、部員同士でのいいコミュニケーションが生まれていると明かしている。

「自分だけではたどり着けない“気づき”が得られるのが大きいと感じます。(解析結果を)1人で見るのではなく、何人かで見ることで『確かにこういう部分があったよね』とお互いにフィードバックし合えるし、そこから自分の行動を見直すことができる。最初はなかなか活用の仕方が分からなかったんですけど、みんなと一緒に試行錯誤していくうちに話し合いが生まれるようになりました。サッカーにおいては戦術が大事になりますが、戦術をどう落とし込むかというところでもコミュニケーションは絶対に必要になります。そういった部分の改善につなげることができているのかなと思います」

 こうした感情の「見える化」のメリットは、微細な変化を実感できることだと長谷川さんは話している。例えばトップチームに上がれていない育成チームに在籍している選手たちは、改善のために自分と向き合う時間が求められ、“己との戦い”も必要になってくる。そうしたなかでA-SYSTEMによる客観的な意見は貴重なアドバイスになるという。

「育成チームはAチームにいけなかったという側面があり、何かしら自分に足りない部分を持っていて、それを改善しないといけないことを頭で理解していながらも、改善ができていないという葛藤を抱えています。サッカーに関する技術やスピードはどうしてもすぐには解決しません。でも、こうして感情の部分を数値で出してもらえると、毎回少しずつ変化が見られます。そこの小さな変化を小さなモチベーションにして頑張れるし、自分では変わっていないように思っていることにも『変化がある』と実感できるのは嬉しいです。相手が人ならアドバイスも社交辞令になることがありますが、機械は忖度のない客観的な意見をくれるので、それが逆に勇気をもらえるんです」

 今季から関東大学サッカーリーグの東京・神奈川1部に昇格した東大ア式蹴球部。A-SYSTEMによって己を深く知ることが、より質の高いパフォーマンスを引き出しているのかもしれない。

(石川 遼 / Ryo Ishikawa)



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