今季Jリーグの判定基準に警鐘 ハンドの事象も散見…元主審・家本氏が指摘した一因とは?「VARの罠に…」

元主審・家本氏が指摘する判定の”ブレ”の原因とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
元主審・家本氏が指摘する判定の”ブレ”の原因とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

ハンドの判定を中心にファン・サポーターの疑問が募るシーンが多発

 今季のJリーグでは審判団が下したジャッジの是非が度々注目されている。とりわけレフェリーの主観も伴う難解なハンドの判定が議論の対象になるなか、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏に今シーズンの判定を振り返ってもらった。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)

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 ハンドの反則は、これまでもさまざまな場面で議論の的となってきた。特に相手のペナルティーエリア(PA)内でのハンドはペナルティーキック(PK)となる可能性もあり、得点に直結するシーンのためファン・サポーターも敏感になる。

 今季もG大阪のDF福岡将太がスライディングでのブロックでVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)介入の末ハンドでPKとなったシーン(J1第13節・浦和レッズ戦/1-3)や、横浜FMのDFエドゥアルドの“ハンド疑惑”の場面(J1第14節・ガンバ大阪戦/2-0)など、話題となった判定は多い。

 家本氏は、ここまでのJリーグ判定を回想。ハンドの事象ついて「OBとして、『みんなどうした?』と正直感じています。判定には多くの人に許容される“範囲”があると思いますが、今その振れ幅が非常に大きくなっていると思います」と苦言を呈した。

「競技規則の表現は微妙に変わっていますが、根本的な部分はずっと変わっていないです。にもかかわらず、試合によって、人によって、カテゴリーによっても判定が大きくブレている印象です。許容範囲をすごく逸脱しているような判定・判断が多いと感じています。これでは、波風が立つのは当然ですし、選手やサポーターが何を信じていいかが分からなくなってしまいます」

 元主審として「ハンドは難しいから気持ちも分かります。もしかしたらレフェリーたちも迷っている部分があるのかもしれません」と現役審判員に対し理解も示しつつ「それでも振れ幅が最近大きくなりすぎているかなと思います」と語り、OB目線で自身の見解を展開している。

「ハンドの反則かどうかを判断するのは当った当っていないの1か0ではなく、『当ったけどどうするの?』を1から10の間で判断しています。なので人によって観方、捉え方、状況、競技規則の理解とか考えた時にブレるのは当たり前のことです」

「ネガティブな意味合いでVARが作用しているところも正直ある」

 家本氏はVARのJ1リーグ導入が判定の“ブレ”の一因になっていると考えているようだ。「現場で見た絵と、VARの映像の印象はどうしても変わってくる。映像ってスローにして何回も見れば見るほど罠にハマります。ポジティブになっている部分もVARにはありますが、ちょっとネガティブな意味合いでVARが作用しているところも正直あるなと感じています」とVARの影響力についても持論を語っている。

「イエローやレッド(カード)の判定も含めてですが、意識しているのか否かは置いておいても、『VARがあるから』という心理はどうしても働いてしまいます。自分でその判定の精度を極めようとしなくなってしまう。これだと思った判定が映像見ていたら間違っていたとなると、人間として躊躇してしまいます。『ここで無理して判断に行かなくても、ちょっと待とう』というような心理が働くので、VARがレフェリーの判定の見極めの精度を高めるほうには作用していない部分もあるかと思います。それくらい人間は弱い生き物なんです」

 そう語った家本氏は「実際際どいシーン以外でも、レフェリーの見極めの精度が低くなっている場面は目立ちます」と厳しい意見を並べ、「VARがすべてではない」と審判界全体の底上げの必要性を説いた。

「J2以下のカテゴリー、地域リーグでは判定の精度を高める努力をし続けてほしいですし、VARが導入されたJ1においても、より意識して審判の技術を高める努力を続けてほしいですね。1年、2年でこんなに変わるんだっていうくらい、VARの負の影響を受けて意思決定しなかったなと感じるシーンが今季は本当に多いです」

日本のサッカー界全体が「組織として環境を整備する必要がある」

 今季の判定基準のブレについて、「日本サッカー界の全体的な課題」だと家本氏は考えている。「選手のように毎日集まってトレーニングもできないから、試合が本番であり練習という、レフェリーたちも結構辛い環境」と審判団の置かれた状況を察しつつ「組織として、レフェリーを “戦える” 集団にするには環境を整備する必要があります」と警鐘を鳴らす。

「選手とは違ってレフェリーの環境は全く整備されていないのに、レフェリーを攻撃したり多くを求めるのはあまりにも酷です。シーズン移行の話をあれだけ真剣に何度も議論するなら、同じくらいレフェリーの環境をどうやって改善するか、皆で真剣に議論してほしいです。レフェリーの環境改善は、絶対に日本のサッカー界にとってプラスになることですので」

 簡単な障害ではないことにも触れながら、家本氏は「もう少しすれば研修会とか色々なすり合わせで判定の精度は戻ってくると信じています」とかつての戦友たちに向けエールも送っていた。

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家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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