アーセナルの大失速→首位陥落はなぜ起きた? 番記者&クラブOBが指摘「冨安が健在だったら…」【現地発コラム】

失速しているアーセナル【写真:ロイター】
失速しているアーセナル【写真:ロイター】

アーセナルに深刻な影響をもたらした“サリバ離脱”

「今回の敗戦で、改めて(ウィリアン・)サリバ離脱の影響が深刻だったと実感した。冨安(健洋)の不在も大きい。この試合でガブリエウとコンビを組んだ(ヤクブ・)キヴィオル、そしてベンチにいた(ロブ・)ホールディングではサリバとのクオリティの差を埋められなかった。もしも冨安が健在だったら右サイドを彼に任せて、(ベン・)ホワイトをセンターバックとして起用できたはずだ」

 現地時間5月14日にエミレーツ・スタジアムで行われたプレミアリーグ第36節のブライトン戦で、アーセナルは0-3の完敗を喫した。この結果を受けてマンチェスター・シティのリーグ3連覇がほぼ確実となったなか、翌日に英紙「デイリー・ミラー」の主任フットボール・ライターで1999年からアーセナル番を務めるジョン・クロス氏に取材を申し込み、敗因について尋ねたところ、開口一番にこの答えが返ってきた。

 アーセナルは4月1日のプレミアリーグ第29節リーズ戦で4-1の勝利を収めた時点では、1試合消化が多かったものの2位シティと勝ち点差を「8」もつけていた。ところが、次節のリバプール戦(アウェー)を2-2で引き分けると、続くウェストハム戦も同じスコアで連続ドロー。さらに、その後ホームで対戦した最下位のサウサンプトンとも3-3の引き分けに終わり、この3試合で獲得できる最大勝ち点数から6ポイントも取りこぼしてしまった。

 悪い流れは断ち切れず、背水の陣で迎えた4月26日のシティとの天王山は4-1で大敗。これにより、2003-04シーズン以来のリーグ優勝に完全に待ったがかかってしまった。その後チェルシー、ニューカッスルに連勝して一縷の望みをつなぐも、先述の通り肝心なところでブライトンに完敗。ここで今季プレミアリーグの優勝争いは事実上決したと言って良いだろう。

クラブOBは「フィジカルの優れたリーダー」不在を指摘

 4月以降を振り返ると、悔やまれるのは悪夢の3連続ドローだ。この3試合で計7失点も献上してしまったことは痛恨だった。クロス氏が指摘するとおり、サリバ不在はこの悪い流れと直接の因果関係があるだろう。ただ、原因は果たしてそれだけなのだろうか。

 ブライトン戦直後、英衛星放送「スカイ・スポーツ」の番組に出演したアーセナルOBのパトリック・ヴィエラ氏は、急失速の原因を「中盤にフィジカルの優れたリーダーがいなかった」と指摘した。クロス氏はかつてアーセナルで主将を務めた男の言葉に賛同する。

「彼の意見には賛同するしかない。誤解のないように言っておくが、ジョルジーニョが悪い選手であるというわけではないんだ。ただし、彼はサリバが抜けて明らかに弱体化したセンターバックを保護できる選手ではない。パトリック(・ヴィエラ氏)が言ったのは、相手の相手攻撃陣の障害となる“フィジカルの壁”が現在のアーセナルの中盤に足りないということ。残念ながらそれは的確な指摘だ。1月に(モイセス・)カイセドの獲得に成功していれば、少しは違った結果になったかもしれない」

 1990年代後半からアーセン・ベンゲル監督が率いたアーセナルを文字通りフィジカルで支えたヴィエラ氏に、「フィジカルの優れたリーダーがいなかった」と言われてしまっては反論のしようがないかもしれない。確かに、中盤の底で最終ラインを守る役割を担ったジョルジーニョはブライトン戦、好調の相手攻撃陣を跳ね返す場面をほとんど作れていなかったように思う。

「現在の穴を埋める補強ができれば、来期以降も優勝争いができる」

 ただ現在のアーセナルに関してはフィジカルに優れたリーダーの不在だけでなく、若い選手たちの経験値の低さも懸念点だ。チームの経験値とシーズン終盤失速の関係をクロス氏はどう見ているのだろう。

「もちろん、(シーズン終盤に失速した原因が)経験不足だと片づけるのは簡単だ。2003-04年シーズンの無敗優勝からプレミアを制覇しておらず、欧州チャンピオンズリーグ(CL)も6シーズン出場していない。しかも選手だけでなくミケル(・アルテタ監督)も若い。ただし今季はそんな若さと経験不足を補って余りある勢いがあった。その勢いをなくしたのは、やはり鍵となる選手が故障したこと。来季はCLにも出場する。そこでシーズン終了後の補強が本当に重要になる」

 確かに今季のヤング・アーセナルには勢いがあった。カタール・ワールドカップでブラジル代表FWガブリエル・ジェズスが負傷して長期離脱となったことによりその影響が心配されたものの、ここをうまく乗り切りアーセナル優勝に懐疑的なメディアの声を封じ込めている。ところが、サリバと冨安の不在が招いた守備陣の崩壊は乗り切れなかった。

 勝負の世界に“たられば”は禁物だが、冬の移籍期間に三笘薫も「自分の守備の負担を軽減してくれる」と話す運動量抜群のカイセドが獲得できていたら……。クロス氏が言うように、3連続ドローの結果も違ったものになったのかもしれない。

 だからこそアーセナルは現在、フィジカル面で存在感抜群のイングランド代表MFデクラン・ライスをウェストハムから全力で引き抜く構えを見せている。クロス氏はライス獲得について「間違いなくいい補強になる」と断言し、さらにこう続けた。

「忘れてほしくないのは、昨季はトッテナムとの競り合いに負けて5位に甘んじたアーセナルが、今季はシーズン終盤までシティと優勝を争うチームになったことだ。今夏にしっかりと現在の穴を埋める補強をして、ベンチにも厚みを加えることができれば、来季以降も優勝争いができるチームになる。若い監督と選手が一丸となって攻撃的なサッカーを展開するアーセナルを今シーズン応援できたのは、非常にエキサイティングな体験だった。優勝を逃しても、今季の躍進はファンに大きな希望を与えたと思う」

 もちろん、この英国紳士は最後に「トミー(冨安)の復活も心待ちにしているよ」と付け加えることを忘れなかった。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



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森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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