「全方位型」が強い欧州サッカーの現在地 進化するアトレティコはリーガ後半戦ベストチーム

リーガ後半戦は一気に上昇したアトレティコ・マドリード【写真:ロイター】
リーガ後半戦は一気に上昇したアトレティコ・マドリード【写真:ロイター】

【識者コラム】今季のアトレティコはこれまでの集大成、堅守とパスワークを両立

 ラ・リーガの優勝が第34節で決まった。FCバルセロナが2位のレアル・マドリードに14ポイントもの差をつけての独走。3位はアトレティコ・マドリード。レアルとは2ポイント差なのでまだ順位が入れ替わる可能性がある。ワールドカップ(W杯)での中断後、アトレティコは一気に上昇。後半戦のベストチームと言っていいだろう。

 2011年12月にディエゴ・シメオネ監督が就任、シーズン途中から指揮を執って5位。それ以後はトップ3を外したことがない。ラ・リーガに3強時代を到来させた。シメオネ監督は圧倒的2強だったレアル、バルセロナとは異なるプレースタイルを植え付けた。攻撃型のレアル、バルサとは対照的な堅守をベースにした戦い方である。2013-14シーズンには堅守速攻で優勝を成し遂げた。

 以来、アトレティコといえば堅守のイメージだが、20-21に優勝した時は少し変化していて、今季はまた大きく変わっている。

 レアル、バルサに対抗するための堅守は有効だった。しかし一方で、アトレティコは格下の相手に取りこぼすことも多く、なかなか優勝には手が届かない。自分たちがレアルやバルサと戦う時の戦法を取られると、固めた守備を打ち破って得点するのが難しかった。そこでハイプレスを強化し、それとセットでわざと敵陣の狭いところでパスワークを行うなど、さまざまな打開策を講じてきた。

 今季のアトレティコはこれまでの集大成となっている。堅守速攻は健在、加えて狭いエリアでのパスワークで相手を集結させて打ち破る、アトレティコ風のティキ・タカが効果を上げているのだ。堅守と技巧的なパスワークを両立させて、全方位型のチームに進化している。34試合を消化した時点での得点はレアル、バルサに次ぎ、失点の少なさはバルサに次ぐ。

 ボール保持も速攻もできて、ハイプレスでも引いても守れる。4つの局面すべてに優れた全方位型の先駆けはレアルだった。基本的には攻撃型だが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝でアトレティコと対戦した時は2度とも守備的な戦い方で優勝している。矛と盾を強制交換して互いがマイナスになるなか、残るものは自分たちが多いという考え方だ。レアルのこうした後出しジャンケンのような戦法は、近年のCLでの圧倒的な戦績をもたらしている。

 保持とカウンターケアの二局面だけの組み合わせで押し切ってきたバルセロナも、今季はかなり全方位型に近くなった。34試合で失点わずか13は驚異的。保持できるので守備機会が少ないことはあるが、それだけでは説明がつかない堅守である。

 全体的にビルドアップが進化し、それと並行して守備の組織化も進んだ。圧倒的な保持や堅守速攻だけに特化していては勝ちにくくなっている。全方位のオールマイティーというと聞こえはいいが、自分たちのサッカーだけで押し通せなくなくているとも言える。

 圧倒的な勝者ではなく、どうなっても戦える僅差勝ちを狙える体質のチームが強い。それがヨーロッパサッカーの現在地になっている。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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