三笘薫は「スタバでコーヒーを頼まない」 プロ入り同期が明かすルーキー時代の秘話

川崎時代の三笘薫【写真:Getty Images】
川崎時代の三笘薫【写真:Getty Images】

【インタビュー前編】川崎“同期組”イサカ・ゼイン&神谷凱士が語る「三笘薫」

 イングランド1部ブライトンで躍動する三笘薫は、2020年の川崎フロンターレ入りから瞬く間に成長を遂げ、今や日本代表のエース候補にまで上り詰めた。プレミアリーグで輝きを放つ25歳のドリブラーは一体、どんな人物なのか。川崎時代、同じ大卒ルーキーとして多くの時間をともにしたイサカ・ゼイン(現・モンテディオ山形)、神谷凱士(現・ヴァンフォーレ甲府)の2人には、どこまでもストイックな三笘の姿が脳裏に焼き付いていた。(取材・文=江藤高志)

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 2020年に筑波大学から川崎に新加入した三笘薫には大卒の同期が3人いた。旗手怜央(現セルティック)、イサカ、そして神谷。彼ら大卒新加入選手に2020年1月10日、筆者は番記者としてシーズン冒頭に挨拶をしている。20年シーズンの川崎は1月9日の必勝祈願で始動。翌10日の練習が本拠地での全体練習の初日だった。

 その練習後に三笘、イサカ、神谷の3人に直撃した。新年の挨拶と新人たちの小ネタを聞き出そうとした会話の冒頭、三笘は日常生活について「楽しくないですよ、別に。みんなにバッと言えることがないです」と苦笑い。その言葉に合わせて神谷が「筋トレやってます」と乗ってきて、話が一気に弾んだ。

「よく言うわ、今日から始めたばかりで」と三笘が鋭くツッコミを入れる。ツッコまれた神谷は「薫塾に入りました」と口にすると、三笘は「イサカ・三笘塾に入れました(笑)。旗手も結構やるんですが、彼(神谷)はやったことがないんです」と教えてくれた。

 そんなやり取りを思い出しつつ今回、神谷、イサカの両選手に、川崎時代の三笘にまつわるエピソードを語ってもらった。まずは、「フロンターレに入る前、筋トレはやってこなくて……」と話す神谷が、加入当時を回想してくれた。

「入団して薫とゼインが筋トレしてたので。身体作りも含めて一緒にやっていこうという話をしたのが最初の時(2020年1月10日)。薫とゼインと、旗手怜央もそうなんですけど、3人ともすごく意識高く、入団時から食事もこだわっていましたし、そういうところでやっぱり薫たちは凄かったですね。ストイックでした」

 この時、三笘は筋トレ初心者の神谷を「育成していきます、これから(笑)。伸びしろすごいので。怖いですよ(笑)」と楽しげに話していた。チームメイトと切磋琢磨して上手くなっていきたいという思いが強く伝わってくるやり取りだった。

 Z世代(1990年半ばから2010年代生まれの世代)らしくYouTubeなどに頼りつつ、クラブのフィジカルスタッフから得た知識も加味しながら必要な筋肉を鍛え続けた。ちなみに神谷はその後、筋肉量を増やしつつ、身体の切れを落とさないように意識して筋トレを継続。その結果、体重を5キロほど増やしたという。

イサカ・ゼインと神谷凱士【写真:(C)MONTEDIO YAMAGATA & (C)2023VFK】
イサカ・ゼインと神谷凱士【写真:(C)MONTEDIO YAMAGATA & (C)2023VFK】

「薫だけは『夜トイレに行きたくない』みたいな…」

 筋トレの知識を共有し、同期とともに成長しようという姿勢を感じさせた当時の三笘は、寮での新生活を楽しんでいた。

「寮に入ったので、一緒にお風呂に入ったりできますし、結構楽しいです。食事も風呂もいつも1人だったので、いいですね(笑)」

 そんな寮生活で三笘はマイペースぶりを発揮していたとイサカは振り返る。寮では栄養バランスを重視した食事が提供されていたなか、三笘は魚を食べることにこだわっていたそうで「寮母さんにあまり肉を使わないでと言って、魚を使った料理にしてもらうように頼んだりしてました」(イサカ)と明かすと、さらにこう続けた。

「あとは自分専用の油とか調味料を置いていましたね。それを朝食とか夕飯の時にちょっと加えていたんです。アオ(田中碧/現・デュッセルドルフ)とか周りから何か言われても全く気にしていなかったです。それが薫の強みでもあったと思います。本当に何も気になってないんだなって。誰かがクスクス笑ってても、自分のやり方を貫き通せるんです。その部分はこれまで見てきたサッカー選手で一番抜けてる感じはありました。

 アオも実際はめちゃめちゃこだわってるんですけど、それでも(田中は自分のことはさておき三笘のことを)何かいじったりしたりしてるんですけどね(笑)。僕自身はアオからも、薫からも影響を受けました。何かプラスになることをしようって思って、色々と採り入れるようにやってましたね」

 大卒ルーキー時代からプロ意識が高かった三笘は、いちサッカー選手としての成長へ良い物は取り入れ、悪い物は徹底的に排除する姿勢を打ち出していた。そんな当時のエピソードの1つとして特に興味深かったのがコーヒーにまつわる話だ。神谷が振り返る。

「寮で夜ご飯を食べたあと、俺とレオ(旗手怜央)とでスタバ(スターバックスコーヒー)に行ってたんです。それでいつだったか、同期みんなで行ったことがあって。みんながアイスコーヒーとかを頼んでいたなかで、薫だけは『夜トイレに行きたくない』みたいな。食事で身体に入れたものをしっかり吸収させたいみたいなことを言ってて。だからスタバでは普通のコーヒーを頼まなくてエスプレッソを頼んでいました。そういうところまでこだわっているんだなっていうのは印象に残ってます」

 この話に「覚えてます、それ。エスプレッソだけ飲んでました」と、イサカも同調。スターバックスのエスプレッソはシングルで30cc。それを1杯だけ飲んで終わらせていたという三笘についてイサカはさらに「そういえば、コーヒーを飲んでいるのあまり見たことがないですね」と笑いながら当時を振り返った。

※後編に続く

[プロフィール]
イサカ・ゼイン/1997年5月29日生まれ、東京都出身。桐光学園高―桐蔭横浜大―川崎―横浜FC―山形。父親はガーナ人で身体能力やスピードが持ち味。川崎には2020年から2シーズン在籍し、横浜FCへのレンタル移籍(22年)を経て、今季から山形へ完全移籍した。

[プロフィール]
神谷凱士(かみや・かいと)/1997年6月16日生まれ、愛知県出身。東海学園高―東海学園大―川崎―藤枝―甲府。主戦場の左サイドバックのほか、ボランチでのプレーも可能。プロ3年目の昨年は藤枝、今季は甲府へレンタル移籍し、実戦経験を積んでいる。

(江藤高志 / Takashi Eto)



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江藤高志

えとう・たかし/大分県出身。サッカーライター特異地の中津市に生まれ育つ。1999年のコパ・アメリカ、パラグアイ大会観戦を機にサッカーライターに転身。当時、大分トリニータを率いていた石崎信弘氏の新天地である川崎フロンターレの取材を2001年のシーズン途中から開始した。その後、04年にJ’s GOALの川崎担当記者に就任。15年からはフロンターレ専門Webマガジンの『川崎フットボールアディクト』を開設し、編集長として運営を続けている。

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