岡崎慎司が警鐘…子供の練習「効いてる気がする!」危険な勘違い 本末転倒を防ぐ「正しいトレーニング」のあり方とは?【現地発】

ベルギー1部シント=トロイデンに所属する岡崎慎司【写真:Getty Images】
ベルギー1部シント=トロイデンに所属する岡崎慎司【写真:Getty Images】

【インタビュー】岡崎が指摘「筋肉を付けていいのかどうか、知っておかないと」

 日本代表で長年活躍し、現在ベルギー1部シント=トロイデンに所属するFW岡崎慎司が、自身の経験を基に子供たちのトレーニングについて言及。トレーニングのあり方に加え、指導者のあり方について持論を展開した。(取材・文=中野吉之伴/全4回の1回目)

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「一生懸命練習します!」
「必死できついトレーニングしていきます!」

 日本の小学校、中学校、高校と、さまざまな世代の子供たちがスポーツに取り組んでいる。

 オリンピックやワールドカップ(W杯)などで世界のトップレベルと比較されては、「日本人はフィジカルに弱いから、身体が小さいから」と筋力トレーニングが推奨されたりする。だが果たして、どんなトレーニングに、どんな効果があるのかがしっかり理解されて行われているのか。

 必死に頑張っているそのトレーニングが、本当に求めるべき効果につながっているかどうかは知っておかなければならない。何年も必死に取り組んできたことが、実は問題解決につながっていないとなったら悲しいではないか。それが未来につながるものであってほしいではないか。

 元日本代表FWで、現在ベルギーのシント=トロイデンで活躍する岡崎もそのあたりを気にしていた。

「身体の成長に合わせて、ちゃんとその時に筋肉を付けていいのかどうかっていうのは知っておかないといけない。やっている時は『なんかトレーニングが効いている気がする!』と感じるかもしれないけど、でも実はそのトレーニングが間違っていて、何か失ったものがあるとしたら、それこそ本末転倒になってしまう。それを取り戻すのにどれだけ時間が必要になるかまで考慮してあげることは必要だと思います」

 例えば、ドイツやスペインにおけるプロクラブの育成アカデミーでは、高校年代からマシンを使った筋トレが行われるし、それぞれの身体に合わせた筋トレプログラムが準備されている。フライブルクであれば、各選手がデータを記録できるチップを持ち、トレーニングマシンごとのデータが自動入力されるようになっている。担当指導者の下にはデータが集められ、フィードバックするというわけだ。そうすることで選手の負荷設定も円滑に行える。

岡崎が強調するポイント「指導者サイドも、『なぜ』『背景』『望むこと』を説明する」

 どの情報が正しいのか。どんな情報が有益なのか。

 本来、そうしたフィルターとなる役割はメディアが果たすべきだったが、昨今ネットの普及で情報量そのものが爆発的に増え、玉石混交具合が進んでしまい、気が付くと自分独自の理論が乱発する要因を作ってしまっているようにも感じられる。

 ヨーロッパでもさまざまなトレーニング理論が生まれているが、多くはスポーツ生理学や心理学、解剖学など、基準となる正しい知識がベースになっている。独自性とは「奇をてらったもの」を言うわけではない。学んだことを基に新しい解釈やアプローチを見出すところから始まるのではないだろうか。

「レアル・マドリードがやっていた」「マンチェスター・シティでも採用」などの言葉に弱い人もいるかもしれない。「それさえやれば、自分たちも上手くなれる。強くなれる」という思いを抱く気持ちも分かる。ただ、実際に自分が見ている選手の成長具合、成熟具合に合わせた形にアレンジし、ニュアンスを変化させてやれるかが重要だ。競技歴2年目と10年目の選手が、同じ負荷でトレーニングしても、その意味合いは当然変わってくる。

「『自分のやっているトレーニングは正しいのかな? 改善点はどこにあるのかな?』ということを知れる機会があったほうがいい。指導者サイドも、なぜこのトレーニングをして、どんな考えが背景にあって、それをやることでどうなることを望んでいるのかを説明する。そのなかで見てもらって、フィードバックをもらう機会というのはとても大切だと思います」(岡崎)

 ヨーロッパではトレーニングについて、オープンにディスカッションする土台がある。もちろん、どこもかしこもすべてを包み隠さずというわけではないが、練習見学に行けば笑顔で見せてくれたり、こちらの疑問に対して真摯に答えてくれる指導者はとても多い。そうしたディスカッションが自分にとってもプラスになるということを知っているからではないだろうか。

 先入観でトレーニングをするのではなく、正しい専門知識をバックにトレーニングをする、あるいは知識を持った人のサポートを受けられる。そうした環境作りがこれからの育成年代にはとても大切になってくるはずだ。

※第2回へ続く

[プロフィール]
岡崎慎司(おかざき・しんじ)/1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。宝塚ジュニアFC―けやき台中学校―滝川第二高校―清水エスパルス―シュツットガルト(ドイツ)―マインツ(ドイツ)―レスター・シティー(イングランド)―マラガ(スペイン)―ウエスカ(スペイン)―カルタヘナ(スペイン)―シント=トロイデン(ベルギー)。J1通算121試合42ゴール、日本代表通算119試合50ゴール。日本代表で長年活躍し、2010年W杯から3大会連続出場を果たした。09年にJリーグベストイレブンに選出され、11年1月に清水からシュツットガルトへ移籍。15-16シーズンにはレスターでリーグ戦36試合5ゴールをマークし、クラブ創設132年目のプレミアリーグ初優勝に大きく貢献した。スペインでは3クラブを渡り歩き、22年夏からシント=トロイデンでプレーしている。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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