新生シュツットガルト、“16か月ぶりアウェー勝利”の舞台裏 躍動する遠藤と伊藤、原口も貴重な存在に【現地発コラム】

約1年半ぶりにアウェーで勝利したシュツットガルト【写真:Getty Images】
約1年半ぶりにアウェーで勝利したシュツットガルト【写真:Getty Images】

シュツットガルトがアウェーでボーフムに3-2勝利、久しぶりの出来事に喜びと戸惑い

 ブンデスリーガ第27節で遠藤航、伊藤洋輝、原口元気がプレーするシュツットガルトは、浅野拓磨が所属するボーフムに3-2で勝利。試合後には至るところで喜びの爆発が見られた。ベンチでは新監督のセバスティアン・ヘーネスが何度もガッツポーズし、アウェーブロックではボーフムまで駆け付けた多くのファンが歓喜の歌を奏でていた。

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 シュツットガルトがブンデスリーガのアウェーで勝利するのは、実に2021年12月11日以来、約16か月ぶりのこと。あまりにも久しぶりの出来事に、選手も喜びと戸惑いの両方を感じていたようだ。

 GKファビアン・ブレドロウは「アウェーで最後に勝ったのは、もう永遠に昔のことのようにさえ思うよ」と試合後に振り返り、「極めて重要な勝利だ。多くの自信をこれからにもたらしてくれる」と貴重な勝ち点3をかみ締めていた。

 ヘーネス新監督は就任後1週間足らずでチームに確かな方向性をもたらしたようだ。ブレドロウは次のように語っていた。

「監督は選手みんなを惹き付けるための最適な言葉を見つけ出したようだ。システムは変わったし、トレーニングも変わった」

 悪くない試合をしながらも、ゴールが決まらず、慌てたり焦ったりしては軽率なミスが生まれ、それがダイレクトに失点につながってしまうという嫌な流れが生まれていたシュツットガルト。だが、ドイツカップ準々決勝のニュルンベルク戦(1-0)と今回のボーフム戦の2試合でチームとして戦う姿が確かに感じられた。

「試合を決定づけるチャンスを逃してしまったのはいただけない。3-2とされた(3-1から1点差に詰め寄られた)ことで試合を再度オープンな展開にしてしまった。だが今日、私はチームのファイティングスピリットを確かに見た。それも素晴らしいファイティングスピリットを」(ヘーネス監督)

1ゴールの伊藤がもたらした攻撃のリズム、遠藤は鋭いアプローチと組み立てで貢献

 監督就任からほとんどトレーニング機会がないなか、チーム状況の整理が求められたヘーネスだけに、自分のアイデアやコンセプトを最初から前面に押し出すことはできない。まずやるべきことはシンプルなところでの整理であり、そのためには選手それぞれが自分のパフォーマンスを可能な限りスムーズに発揮できるポジションとタスクで起用することが重要になる。

 3バックの左で起用され、見事な先制ゴールを決めた伊藤は守備面だけではなく、何度もタイミングのいいオーバーラップで攻撃にも関与。鋭い縦パスも数多く見られた。左サイドでDFボルナ・ソサやMFクリス・ヒューリッヒとの心地いいパス交換はボーフム守備陣を翻弄し、攻撃にリズムを生み出していた点は高く評価されるところだろう。

 キャプテンの遠藤は攻守に起点となる重要な役割を担っていた。ダブルボランチを組んだアタカン・カラソルとコミュニケーションを取りながら、守備ライン前のスペースを的確にケア。ボーフムはこのセンターエリアにほとんどパスを送れず、送れそうなチャンスにも遠藤の鋭く的確なアプローチでボールをことごとくカット・クリアされてしまう。攻撃では素早くボールを左右に展開し、攻撃のリズムを生み出していた。

 ポジティブな要素が多く見られた一方で、大事なところで不用意なミスをしてしまうところにはまだまだ改善の余地がある。ボーフム戦では点差を広げるチャンスが何度もありながら、判断ミスでゴールを逃し、逆に相手にペナルティーキック(PK)を与え、一瞬の気のゆるみで1点差に詰め寄られるゴールを許したのはいただけない。

今後貴重になってくる原口の存在、トップ下や遠藤とのダブルインサイドハーフ起用も

 ヘーネス新監督は「1失点目のPKは腹立たしい形だった。もっとクレバーに対応しなければ。ちょっとしたことで試合の流れを手放してしまうこともあるのだから」とチクリ。PKは(エンツォ・)ミローが相手を不用意に手で引っ張って倒してしまったために起きたもの。この時点で1-1の同点に追い付かれたので、場合によっては勢いを増す相手に逆転を許すなんて展開もあり得たわけだ。

 そうした点で原口の存在は貴重になってくるはず。ボーフム戦ではベンチスタートだったが、ボーフム戦では後半25分から途中出場。中盤のバランスを向上させるために原口をトップ下に、あるいは遠藤とのダブルインサイドハーフという起用法もこれから増えてくるのではないかと思われる。

 ニュルンベルクとのドイツカップ準々決勝では、3-3-2-2システムでそれなりの成果を上げていたし、若手選手はやはりパフォーマンスに波があるのが普通だ。ヘーネス新監督としては、若手選手が持つ勢いとベテラン選手が持つバランス感覚を最適にミックスしていく手腕が求められる。昨季最終節で残留を果たした経験を、ここからのラストスパートにポジティブに活かしていきたいところだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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