「期待されるのは当たり前」 磐田の“17歳Jリーガー”が見据える世界への成長曲線

磐田FW後藤啓介【写真:Getty Images】
磐田FW後藤啓介【写真:Getty Images】

【識者コラム】17歳の後藤啓介は2ゴールを挙げた開幕戦以降、1試合ずつ成長

「正直、今週はプレッシャーもあったので。本当に緊張してて(笑)」

 ジュビロ磐田が2-0で勝利を飾った3月29日のJ2リーグ第6節・栃木戦後、FW後藤啓介は笑顔を見せながらも試合前の心境を振り返った。

 開幕戦から1トップを張ってきたFW杉本健勇が横浜F・マリノスに期限付き移籍を発表したのが3月21日。その3日前に行われた清水エスパルスとの”静岡ダービー”で、リーグ戦の初スタメンとなった後藤はFWジャーメイン良のパスに飛び出し、鋭いドリブルから今シーズン3点目となるゴールを決めた。

 杉本の移籍から最初の試合となった3月25日のルヴァンカップのグループステージ第2節・北海道コンサドーレ札幌戦はFW大津祐樹が1トップでスタメン起用されて、ゴールこそなかったがJ1のチーム相手に、精力的なプレーを攻守に見せた。2-2で迎えた終盤に投入された後藤だったが、目に見える仕事ができないまま後半アディショナルタイムにセットプレーから失点して、ジュビロは2-3と敗れた。

「ルヴァンは大津さんが出ていて、スタメン争いは今のところ2人じゃないですか。ここでいいプレーしなかったら、絶対スタメンにはなれないので、そういう緊張感もあるし、サポーターの期待が一気に自分に来たと思うので」

 そう語る後藤はたしかに、まだ17歳で高校生だ。開幕戦で衝撃的な2ゴールを奪ったと言っても、1試合、また1試合と経験しながら成長を続けている。しかし、プロ契約の会見で語った”W杯で世界一を獲る”という大きな目標を思い描けば、1つ1つの試合も単なる学びの場ではない。いち早く駆け上がるための勝負の場だ。

「プロサッカー選手は、期待されるのは当たり前なので。ありがたいというか。期待されているということは注目してくれてると思うので嬉しい」

 キャンプの時はそう語っていた後藤も、かつては応援する側だった磐田のサポーターから期待を一身に浴びて、プレッシャーを感じないことがおかしい。

「(横内昭展)監督にも、普通に『マジ緊張してます』って言って。ロッカールームで(MF鈴木)雄斗さんとかにも、緊張してるのでミスするかもしれないですけど、ボールくださいって」

プロとしての険しい道はまだスタートしたばかり

 しかし、その日ヤマハスタジアムのピッチに立った後藤はフィジカルの強さで知られる栃木のセンターバックを相手に、逃げることなく挑みながら、守備では果敢にプレスをかけて、攻撃ではこれまで以上に身体を張ってマイボールにしようと戦った。

 その後藤が絡む形で生まれたMF松本昌也の先制ゴール。センターバックのDFリカルド・グラッサからのロングフィードに左サイドハーフのMFドゥドゥが反応し、粘り強いキープでMF金子翔太に預ける。後藤は鋭いニアに動き出してショートクロスに合わせに行ったが、栃木のリベロを担うDF岡﨑亮平を押さえながら、つぶれたところでうしろ足にボールが当たって、こぼれたボールを松本が流し込んだ。

「当たりました(笑)」

 笑顔で自分のアシストを主張したが、その流れにつながるスローインを獲得したのはロングボールの空中戦で相手ディフェンスと競り合った後藤だった。身長191センチという日本人のFWとしては恵まれたサイズが目を引くため”規格外の高校生”として語られることが多いが、まだフィジカルトレーニングも積めていない状況で、岡山のDFヨルディ・バイスとマッチアップした時には「筋肉やばっと思って」と素直に驚きを語っていた。

 これまでもフィジカル面で勝る相手にまともに当たるより、ポジショニングや動き出しで優位に立って、先にボールを触ることを心がけてプレーしていた。もちろん、そうした動きだしは後藤の武器だが、1トップでスタメンとなれば相手ディフェンスを背負いながらボールを収めて、味方を前向きにするプレーは戦術的にも大事になってくる。

 その栃木戦では相手のボールにチャレンジしないバックチャージをレフェリーに取ってもらえず、チームメイトも直後にエキサイトしてしまったシーンがあった。それでも当の後藤は、「言ったところで変わらないし、そこは割り切ってやるのと、熱くなってコントロールできなくなったらサッカー選手じゃないので。そこは冷静に」と振り返るように、引きずることなくプレーした。

 そこからDF松原后の見事な追加点が決まって2-0となった後半30分に後藤は下がり、大津が入ると、33歳のFWは後藤に負けじとハードワークして、終盤は相手の反撃を許さないどころか磐田が押し込んだまま試合終了の笛が鳴った。

 ジュビロ磐田は9連戦の2試合が終わったところで、栃木戦から中2日で大分トリニータとのアウェーゲームが待つ。その後も、さらに総力戦となってくる。もう1人に大型FWである”ラッソ”ことファビアン・ゴンザレスは4か月の出場停止処分を受けており、公式戦に復帰できるのは5月13日のザスパクサツ群馬戦だ。

 そこから改めて”磐田のエースFW”争いが加熱することは間違いない。後藤の大きな目標であるW杯優勝に向けて、プロとしての険しい道はまだスタートしたばかりだ。理想は”サックスブルー”の青空ほど高いが、そこに行き着くための現実から逃げることなく、成長曲線を描こうとしている。その第1章を「磐田のJ2優勝」で締めくくることができるか。楽しく見守って行きたい。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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