浅野拓磨、新戦術のなかでの流儀との葛藤 チーム戦術に合致せずとも貫く理想の姿「自分の特徴を100%出したい」
新たな攻撃オプションを試すチーム内で、浅野が考える存在意義
カタール・ワールドカップ(W杯)で2大会連続のベスト16進出を果たした日本代表は、森保一監督が継続して指揮を執ることとなった。3月24日に行われた第2次森保ジャパンの初戦となったウルグアイ代表戦(1-1)で、4-2-3-1の1トップを務めたFW浅野拓磨は先発出場したが、決定機をモノにすることはできなかった。
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カタールW杯を終えて、名波浩コーチ、前田遼一コーチを迎えたチームは、新たな攻撃のオプションとして2ボランチの1枚がDFラインまで下りて、サイドバックを中盤まで上げてボールを保持した際に3-4-3になる形で攻撃を組み立てる遅攻に取り組んでいる。
ウルグアイ戦を終えた選手たちは、課題が出たことを前向きに捉え、サイドバック(SB)が内側に攻め上がる、いわゆる“偽サイドバック”の戦術をどう機能させていくか、練習や宿舎でも活発にコミュニケーションを取っているという。
そもそも遅攻に力を入れるのであれば、浅野のようにスピードで相手の裏を狙っていくタイプのFWよりも、スピードはなくともボールを収められたり、パスワークに絡めたりするタイプのFWが生きてくる。26日の練習後、ミックスゾーンで自分の特徴を100%出したい浅野は「自分のウィークポイントを伸ばそうと必死になるより、と思っている」と自身の流儀を明確にした。
「僕はあまり戦術とか、どうこうをそんなに考えないタイプではあるんで。ピッチのなかで、どういう状況があって、どう判断するか。サッカーはアドリブがモノを言うと思っている。決まりごとがあっても、その通りにいかないことの方が多いと思う。練習をやっていても、『こんなに上手くいかないだろうな』『難しいな』と思いながらも、代表がやろうとしていることは、まずやってみないと分からないので。それを今、まだみんなそう感じながらも、まずトライしないとどうにも言えない段階だと思う」
「僕個人で言えば、勝つことが一番大事。どういう戦い方をするっていうのも、今の段階では組み立てる部分、作っていくことは大事だと思いますが、優先順位を忘れてはいけない。前線の僕にとっては、前の試合でも出ましたけど、スペースに流れてゴールを狙う部分。あれがサッカーは一番良いので。そういうところは忘れず、今代表が成長していこうと思っているところは、今はトライの段階なので。そこは今、いろんな評価や判断をされていると思いますが、全員が気にしていない。仕方がないと感じてやっていると思う」
代表チームの「トライしている部分は、正直僕からしたら苦手」
戦術を超越した個の力を付けることが、彼が自身に課しているテーマなのかもしれない。
「今、代表がやろうとしていること、トライしている部分は、正直僕からしたら苦手なことがピッチに出ているかなと思います。(ボールを)動かそうとする分、FWもボールに関わらないといけない。ただ、自分の得意とするプレーは、そういう部分ではない。(自分の強みは)やっぱり相手の隙を突いたり、1本でゴールを狙う、献身的にチームのために走るとか、そういうところだと思っている。そこは自分でもなくしちゃいけない」
「頑なに曲げないわけではないが、自分の強さである分、そこは100%活かしていき、なくさない方がいいのかなと思っている。それを評価して、代表がどう動くかっていうのは、もう今後の話。自分は自分の得意とするプレーをどんどん伸ばして、そういうプレーで代表に貢献したい」
チームがやろうとしていることと、自分のストロングポイントが合しないことを自ら認めたのだから、かなり勇気のある発言だ。もちろん、浅野もチームの取り組みに可能な限り応じられるよう尽力するだろう。だが、新たに取り組み始めた戦い方で日本代表の勝てる確率が高くなるのであれば、自身がレギュラーになる可能性がかなり低くなることを浅野は自覚している。
「今はトライしている段階なので、代表がやろうとすることにも取り組むことは大事。そこが自分の得意とするプレーにつながっていけば、一番良い話ではあるので。自分の成長にもつながっていきますし、まずやることが大事。でも、ダメだと感じた時に自分がどうするかっていうのは、そういったところを常に準備しておくことが大事かなと思う。両方、柔軟にやりながらも、自分の得意とするプレーは、常に忘れずにやっていけたらいい。今はそういう段階だと思うので、なかなかうまくいかなくても、焦らないこと。次のW杯で勝つことが一番大事なので、そのために1つ1つやっていく。再スタートしたばかりなので、焦らずに、でも常に全力でやっていきたい」
カタールの地で、ドイツを相手に逆転ゴールを決めて日本に歓喜をもたらしたストライカーは、次の一歩を踏み出したチームのなかで冷静に自分自身を見つめながら、その牙を研いでいる。