「こんなものじゃないだろう?」 FC東京移籍の仲川輝人に過去の自分を“超えたい”と思わせた言葉
【連載BEYOND|File.1】FC東京からの熱いオファーにくすぐられた“挑戦心”
2023年シーズンのJリーグ(DAZNでは明治安田生命J1、J2、J3リーグの全試合をライブ中継)が2月17日に開幕した。「FOOTBALL ZONE」では、「BEYOND(~を越えて)」をテーマに、現役選手には挑み続けていることや超えたいと思う目標、OB・OG選手には新たな分野での目標や挑戦について直撃する連載企画をスタート。第1回は、昨季王者の横浜F・マリノスからFC東京へ決意の移籍を果たしたFW仲川輝人だ。(文=馬場康平)
【PR】ABEMA de DAZN、明治安田J1リーグの試合を毎節2試合無料生中継!
◇ ◇ ◇
仲川輝人は、仲川輝人を超えていく――。
横浜F・マリノスで2度のJ1リーグ優勝を経験した。それは「一生残る大切な宝物になった」という。2019年にはシーズンMVPと得点王をダブル受賞し、15年ぶりのリーグ制覇の立役者に。20年以降は怪我に泣かされたが、昨季完全復活。リーグ戦31試合7得点5アシストを記録し、3年ぶりにシャーレを掲げた。その優勝を決めた最終節のヴィッセル神戸戦では得点を挙げ、最後のゴールと2度の栄冠を置き土産に、今季から新天地のFC東京へ活躍の場を求めた。
その決断の裏には、「もうひと花咲かせたい」という強い思いが存在した。
トリコロールへの愛着と、感謝の思いは人一倍強かった。大学時代に大怪我(右膝前十字靭帯および内側側副靱帯断裂、右膝半月板損傷)をし、それでも獲得してくれた恩義もある。サポーターからの愛情も一身に受け止めてきた。間違いなく居心地も良かったはずだ。だが、年齢も30歳を超え、新たな刺激を求めている仲川もいた。
「30歳という区切りもあった。F・マリノスに残した功績も多少はあったと思っています。新しいチャレンジという意味でも、また1つ自分に刺激を与えなければいけないという思いはあった。僕に対するプレーの評価や、FC東京のプレースタイルに僕が合うということを熱弁してくれた。そこが(移籍を決断した)大きな要因でした。正直、こんなに熱いオファーをくれるとは思っていませんでした。将来や、数年後のプランを強化部の方から聞いて率直にその力になりたいと思った」
FC東京は昨夏にも仲川獲得に動いていた。首都クラブの強化担当者からの熱心なラブコールにあったのは「こんなものじゃないだろう? もう一度ここで優勝と代表を目指さないか?」という言葉だった。その「代表復帰」が揺れ動く仲川を刺激し、移籍を決意させた。
「もう一花咲かせて」代表復帰、26年W杯出場を目指す
さらに、カタール・ワールドカップ(W杯)での日本の活躍を目の当たりにし、「もうひと花咲かせる」という思いを強くしたという。
「代表に戻りたいという気持ちはもちろんある。FC東京から多くの日本代表が生まれていくことがクラブの理念だと話していただいた。まだ僕も4年後のW杯を目指せる年齢だと思っているので、日本の代表として、国民の代表としてあの舞台に立ちたい。それが今まで育ててくれた、僕の家族への恩返しにもなる。夢の舞台でもあるし、僕は絶対に諦めたくはない。日本代表選手を輩出することが、きっとこのチームを強くすることにもつながると思うので、そういう選手になっていきたい。それが僕自身、もうひと花咲かせるポイントだと思っている」
過度な期待は重圧となるが、FC東京に加入した仲川はそれさえも楽しんでいるようだった。開幕前のプレシーズンから噂通りのマイペースさは変わらずだったが、率先してチームの先頭に立ち、檄も飛ばした。チーム始動から「勝者のメンタリティーを持ってここにきた。常に勝たなきゃいけない重圧がある」と言い続け、あえて責任と重圧を一身に受け止めてきた。
そうした期待に応えるようにプレシーズンの練習試合で「キャンプでこんなに点を取ったことがない」というほどコンスタントにネットを揺らしてきた。チームも自身の仕上がりにも自信がある。だからこそ、「もっと一体感が出れば目標(の優勝)を実現できると勝手に思っちゃってる。結構期待してもらいたい」と強い言葉も吐き出した。
そして、今季J1開幕戦を翌日に控えた囲み取材で報道陣から「開幕戦のイメージは」と聞かれると、「僕がファーストゴールを決めると優勝している。19年も僕だったし、去年も僕だった」と言い、不敵に笑った。
「取れそうな気がするし、僕が(開幕第1号を)取って優勝する、そういったジンクスを作っていければ」
古巣F・マリノスのサポーターに「少しでも成長したと思われたい」
そう言って臨んだ浦和レッズとの一戦で、右ウイングで先発すると、後半開始3分だった。バングーナガンデ佳史扶からのグラウンダーのクロスをワントラップし、左足を振った。その強烈な一撃はバーを叩いた。惜しくも移籍後初ゴールはお預けとなったが、チームは2-0で白星発進した。続く、第2節の柏レイソル戦はコンディション不良で出場を回避したが、今季に懸ける思いは少しも冷めてはいない。
「39番も背負って、(FC東京を子会社化した)ミクシィも絡めて自分にプレッシャーもかけた。フロント陣の圧力もある(苦笑)。もちろん結果を出す、数字を出すことが分かりやすい。何か言われても数字で見せます。『これでどうですか』という感じじゃないですか。このクラブの顔になりたいし、FC東京から日本代表にならなきゃいけない」
優勝請負人としての覚悟と自覚はこんな言葉を口にさせた。
「F・マリノスでの8年間はすごく長いようで短かったというのが率直な感想。その中で2度のリーグ優勝も経験できた。F・マリノスには大学4年生の時に大怪我をして、それでもオファーを出してくれた恩があった。その恩返しは多少できたのかな、と。その経験を今度はFC東京に還元していきたいし、それが僕に与えられた使命でもある。F・マリノスには強い結束や、ファミリー感があった。そういったファミリー感をここでも作っていきたい。
みんなが一体感、ファミリー感を持つことが優勝への第一歩。そこがすごく大事なことだと、2度の優勝を経験して感じることができた。1人でも欠けていてはダメだし、みんなが同じ目標を持って夢を共有していかないといけない。みんなが同じベクトルで、アルベルが目指すサッカーへの熱を合わせないといけない。このチームに一体感を生み出したいし、それが僕の仕事。FC東京は、まだリーグ優勝をしたことがないんですよね? リーグ優勝は、このクラブの大きな目標でもある。それに優勝することでチームの雰囲気が変わったり、次への目標もさらに大きくなる。まずはリーグ優勝を目指し、一体感を持ってやるべきことをやっていきたい」
当然、その目標に立ちはだかるのは、愛し愛された昨季の王者となるはずだ。仲川に「強いF・マリノスを倒したいですか?」と聞いた。それに、真っ直ぐ向き合い、力強く言った。
「もちろんです。これからは敵なのでバチバチいきたいし、うしろからビルドアップしてF・マリノスから得点を取りたい。自分が少しでも成長したと、F・マリノスのサポーターからも思われたいですね」
最大の壁に乗り越えた先で、新たな扉を開く。そこに待つのは、自らのアップデートだ。仲川輝人は、首都クラブで新たな花を咲かせる。そのつぼみはふくらみ始めた。
[プロフィール]
仲川輝人(なかがわ・てるひと)/1992年7月27日生まれ、神奈川県出身。川崎U-18―専修大―横浜FM―町田-横浜FM―福岡―横浜FM―FC東京。J1通算141試合35得点、J2通算30試合3得点、日本代表通算2試合0得点。50メートルを5秒台で走る快足で、「ハマのGTR」の異名を取ったアタッカー。リーグ優勝した2019年には15ゴールで得点王を獲得するとともに、シーズンMVP&ベストイレブンに選出された。今季からはFC東京で新たなチャレンジに臨む。
(馬場康平 / Kohei Baba)